アダム・フィッシャー/オーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団の哲学者、24番

クリスマスやら忘年会やらで、ちょっと間が空きました。今日は前記事で「哲学者」を取りあげて、その独特の調べを他の演奏で聴きたくなって取り出したアルバム。

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アダム・フィッシャー(Adam Fischer)指揮のオーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団(Austro-Hungarian Haydn Orchestra)の演奏による、ハイドンの交響曲全集から、今日はCD6の交響曲22番「哲学者」、24番を取りあげます。この2曲の収録は1989年4月、オーストリアのアイゼンシュタット、エステルハージ宮殿のハイドン・ザールでのセッション録音。レーベルはBRILLIANT CLASSICS。

ハイドンファンの方ならおそらく必ずこの全集は所有しているでしょう。ドラティの交響曲全集よりも廉価で手に入れやすいので、ハイドンの交響曲全集の入門盤として偉大な存在となっています。今日は哲学者目当てでこのアルバムのCD6を取り出してCDプレイヤーにかけたのですが、同時期の録音の24番が素晴らしいのでその2曲を取りあげる事にした次第。
アダム・フィッシャーはハイドンの交響曲を演奏したアルバムの中では重要な人なんですが、マイナー盤志向の強い当ブログでは過去2度ほど取りあげたのみ。

2011/01/23 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャーのマーキュリー、悲しみ、告別
2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後

アダム・フィッシャーのハイドンの交響曲全集は手に入れやすさだけがポイントではありません。特に初期の交響曲でははち切れんばかりのエネルギーと推進力によって、ハイドンの交響曲の魅力をしっかり伝える名演奏にほかなりません。ちょっと残念だったのはハイドン没後200年の2009年に開催された「天地創造」のコンサートのもようを伝えるDVDが演奏が粗く、過去の名盤とはちょっと差がついてしまっていたことでしょうか。いずれにせよアンタル・ドラティに次ぐ交響曲全集をリリースするという偉業を成し遂げたわけですから、ハイドン演奏史に名を残した事は間違いありません。

このアルバムのCD6は4曲が収められています。今日取り上げる哲学者と24番は1989年の録音となりまが残りの2曲は2000年と11年も後の録音。この11年の時がフィッシャーの成熟につながったのでしょうか。

Hob.I:22 / Symphony No.22 "Philosopher" 「哲学者」 [E flat] (1764)
前記事のベルンハルト・クレーほど弦、管楽器の対比を意識せず、純粋にメロディーラインをトレースしていくよう。おなじみの朴訥なメロディーラインの自然な佇まいはなかなか。良く聴くと各楽器が非常にデリケートなフレージングを聴かせています。楽器の精妙な響きの重なり具合が絶妙で非常にコントロールが行き届いています。徐々にホルンの響きの存在感が増していき、弦楽器の対比をしっかりつけるように変わってきて、最後はまた穏やかな表情に戻ります。
アダム・フィッシャーの真骨頂は速い楽章の生気漲る躍動感。これぞハイドンという躍動感でオケが畳み掛けます。不自然を感じさせない歌心もあって、ハイドンの交響曲のスケールに合わせた古典的躍動という感じが実にしっくりきます。
メヌエットは前楽章の流麗なプレストと明確に対比を表現したいのか、振りかぶったようにリズムを強調。楽章ごとの構造的な対比は見事。途中から現れるホルンが良く響いてまるでハイドン・ザールにいるような気分。
フィナーレはまさに躍動感の塊のような演奏。各パートが実にクッキリと浮かび上がりながらも、全体として非常にまとまった演奏。ハイドンの交響曲のフィナーレのツボを実によく押さえた演奏。

Hob.I:24 / Symphony No.24 [D] (1764)
哲学者と同時期の作品ですが、こちらの曲はハイドンらしい晴朗さとしっとりとした郷愁を感じる曲調の初期の佳曲。鮮烈な開始からオケが絶好調。哲学者のフィナーレよりもさらに躍動感にあふれた素晴らしい感興。そこここにちりばめられた創意工夫に目がくらむような展開。一瞬はさまれた短調のフレーズの儚い美しさと、躍動感溢れる明るいメロディーの織りなす万華鏡のような曲をフィッシャーが渾身のコントロール。こうしたハイドンらしい晴朗な交響曲の表現はアダム・フィッシャー盤の最もよいところ。
アダージョはフルートの美しいソロが聴き所。フルートは誰が吹いているのかわかりませんが、かなりの名手。厚みのある美しい音色がハイドン・ザールに響き渡ります。
フィッシャーのメヌエットはかなりしっかりと拍子を刻みます。オケはハイドン演奏のツボを心得ていて、フィッシャーのコントロールか、はたまた奏者の自主性かリズムもデュナーミクも完全に一つの音楽をみんなで奏でているような素晴らしい一体感。ハイドンを演奏する喜びがはじけ出すような演奏。
そしてフィナーレは、躍動することの悦びを我慢するような抑えた入りから、徐々にエネルギーが満ちて、音楽がめくるめく展開。慎み深い瞬間をはさみながらも曲を回想するような変奏が重なり、特に弦楽器が弓をフルに使ったような素晴らしいボウイングでメロディーを浮かび上がらせます。やはりハイドンのフィナーレの最上の見本のような演奏で締めくくります。

このアルバムは交響曲の番号順の収録なので、21番、22番、23番、24番と配置されていますが、今日取りあげなかった21番と23番は先に触れたように2000年と11年も後の録音。良く聴くと録音はやはり鮮明さが一段あがりますが、22番、24番に聴かれたすばらしい躍動感はすこし後退し、演奏も現代的な印象が強くなります。基本路線は変わらないものの印象は少し異なります。私の好きなのはやはり今日とりあげた古い時期の録音の方。アダム・フィッシャーがハイドンの交響曲全集に賭ける意気込みのようなものが伝わってくる熱いものを感じる演奏です。ということで、今日取りあげる演奏の評価は2曲とも[+++++]とします。残りの曲はやはりちょっと差がつくのが正直なところ。これは成熟というよりは、全集の録音がすすむにつれてアダム・フィッシャーの覇気がだんだん枯れてきていると解するべきでしょうか。

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tag : 交響曲全集 哲学者 交響曲24番

シェファード/カンティレーナの交響曲24番、哲学者、アレルヤ

今日は初期交響曲です。

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エイドリアン・シェファード(Adorian Shepherd)指揮のカンティレーナの演奏でハイドンの交響曲24番、22番「哲学者」、30番「アレルヤ」の3曲を収めたアルバム。イギリスのChandosレーベルのアルバム。録音は1986年5月11日、12日、グラスゴーのSNOセンターでのセッション録音。

エイドリアン・シェファードはイギリスのロンドン東部の街エセックス生まれの指揮者。ロンドンで音楽を学んだ後スコットランド国立管弦楽団やBBCスコットランド管弦楽団の団員となり1966年に主席チェロ奏者としてスコットランド国立管弦楽団に戻り、その後はチェロ奏者として室内楽や協奏曲のソリストとして活躍したようです。1979年にこのアルバムのオケであるカンティレーナを創設し、音楽監督となっています。イギリスでは司会者や指導者としても知られているようですね。

まずは交響曲24番から。このアルバムに含まれる曲はすべて1764年から1765年頃の作曲で、ハイドンがエステルハージ家の副楽長時代のもの。

1楽章はこれ以上晴朗な音楽はないほどの素晴らしく明るく、推進力にあふれた音楽。小編成のオケの鮮明な響きと非常にクッキリとしたリズム感が素晴らしい音楽を作っています。ハイドンの初期交響曲の魅力的な音楽を完璧に表現。フレージングはカッチリ感を非常に意識したもの。Chandosレーベルらしいクッキリしながらも豊かで自然な響きの素晴らしい録音が華を添えています。抑制された部分もリズム感を維持して素晴らしい流れで、圧倒的な推進力。個性的な演奏ではないんですが、何もしないのに音楽が満ちあふれてくるという私の好きなタイプの演奏。音楽的な完成度は非常に高い演奏ですね。
2楽章アダージョは練ったり溜めたりは一切なく、ゆったりとした音楽を抑えた表現で一貫して奏でます。ハイドンの交響曲の魅力に取り付かれた人なら解ると思いますが、音符から音楽が浮き出てくるあの感じです。
3楽章のメヌエットも無為自然ながら素晴らしい音楽性。中間部のフルートやホルンのうまさは絶妙でとろけそう。
フィナーレは落ち着ききったテンポで入り、オケの楽器が次々と重なっていく様を絶妙のフレージングでコントロール。アレグロなのにむしろゆったり気味とも感じられる落ち着いたテンポで曲想の美しさを極限まで磨き込もうとするような演奏。テンポに関わらず推進力は維持して進めます。この演奏は素晴らしいですね。シェファードのアルバムは他にも所有しているんですが、あまり鮮明な印象はありませんでした。目から鱗の素晴らしさ。

つづいて交響曲22番「哲学者」。

哲学者の特徴的な1楽章のアダージョ。中庸なテンポでいきなり素晴らしいオケのフレージング。音の強弱のメリハリはほどほどながらひとつひとつの楽器のフレージングの表情が豊かなため全体のメロディーが非常に精妙に聴こえます。弦の音階による伴奏に乗って管楽器が同じメロディーの変奏を次々と受け継ぎ、音符上は非常にシンプルな曲を素晴らしく豊かな表現で進めていきます。圧巻の1楽章。
2楽章はプレスト。シェファードの特徴は速い楽章のスピードを上げず、音楽上の推進力で聴かせてしまうこと。この楽章も本来はもう少し速いんでしょうが、実際のスピードはそれほど速くないのに推進力に溢れた演奏。そのかわり音符を完璧に弾いていきますので鮮明に楽譜を分解しているような、大判カメラで撮った写真のような鮮明さ。それでいてスタティックではないところが流石。
3楽章のメヌエット。力の抜けたすばらしいコントロール。中間部のホルンと木管によるメロディーは非常に魅力的な響き。ハイドンの交響曲の素晴らしさに打たれる瞬間。
フィナーレは前曲同様、ほどほどのスピードで鮮明な演奏。力感もそこそこなのに不思議と聴き劣りしません。哲学者も一級品です。

最後は交響曲30番「アレルヤ」

意外にこの曲は遅めで入ります。前2曲とは異なりちょっとリズムが重めです。このリズムの重さで曲の印象が大きく変わり、オケの鮮明さや演奏の精度は前曲同様素晴らしいのですが、推進力ががっくり落ちたため、前2曲とは明らかに差がついてしまいます。これは惜しい。ずいぶん静的な印象に。
2楽章のアンダンテも少々おそめに感じます。前楽章の印象を引きずってしまいますね。演奏自体は非常に美しいもの。途中のフルートのメロディーの美しさが際立ちます。
この曲は3楽章構成ゆえ、3楽章がフィナーレ。全般に遅めのテンポを選択したこの曲ですが、前2曲とは明らかに演奏のコンセプトが違います。じっくり聴かせる方に主眼を移し、爽快感や推進力はかなり抑えめになっています。フィナーレの中間部はオペラで不安な心情や誰かを探すような場面でつかわれそうなメロディーを配した面白い構成。最後は爽快に終わるのがハイドン交響曲の定番ですが、この曲はなんとなく終わります。演奏の結果からはわかりませんが、何らかの意図があってやったことだろうと思います。

シェファードのハイドンの初期交響曲を集めたこのアルバム。シェファードの抜群の音楽性を知らしめた素晴らしいアルバムです。評価は交響曲24番、哲学者は文句なしに[+++++]。アレルヤは[++++]としました。アレルヤの演奏がキレていて、このアルバムが現役盤であれば、「ハイドン入門者向け」タグも進呈するところですが、惜しいところですね。ただし、ハイドンの交響曲が好きな方には探してでも手に入れてほしい名演奏でもあります。オークションや中古屋さんを丹念にさがせば手に入るかと思いますので、お好きな方は探してみてください。

Chandosにはシェファードの交響曲集があと2組リリースされており、こちらは現役盤の模様ですので、またの機会にレビューしたいと思います。

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tag : 交響曲24番 哲学者 アレルヤ おすすめ盤

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Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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