【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第4巻(ハイドン)

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飯森範親(Norichika Iimori)指揮の日本センチュリー交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲7番「昼」、58番、19番、27番の4曲を収めたSACD。収録は27番以外が2016年6月27日、27番が2016年8月12日、大阪のいずみほホールでのライヴ。レーベルは日本のEXTON。
当ブログの読者の方なら既にご存知の通り、飯森範親が日本センチュリー響を振って取り組んでいるハイドン・マラソンというプロジェクトの第5回、第6回のコンサートで取り上げられた曲を収めたアルバム。
2018/03/26 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第3巻(ハイドン)
2017/07/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第2巻(ハイドン)
2016/11/19 : ハイドン–交響曲 : 【新着】飯森範親/日本センチュリー響の交響曲集第1巻(ハイドン)
このシリーズも第4巻となり、これまでのコンサートで取り上げてきた曲を網羅的にリリースし続けているところをみると商業的に全集化も視野に入ってきたかもしれませんね。直近で取り上げた第3巻に至って、演奏の質も高いレベルで揃えてきていますので、このプロジェクトにも勢いが感じられるようになってきました。
Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
これまでの巻同様、録音はSACDだけあって自然で鮮明なんですが、好みからいえばこのレーベル特有のHi-Fi調で人工的な感じが取れてくるとさらにいいですね。演奏はこれまで通り流麗、清透なもの。リズムに推進力があり、アンサンブルの精度は非常に高く、キリリと引き締まった見事なもの。この昼は、リリーズ済みの朝と並んで各パートのソロが各所に散りばめられていて、そのソロの活躍が聴きどころの一つですが、この録音ではソロをくっきりと浮かび上がらせるより、オケの一体感と重視したバランスで、ライブでの聴こえ方を忠実に再現したものでしょう。まさにゆったりと聴いていられる感じ。飯森範親の指揮は曲全体の流れをうまく保ちながら、ディティールを丁寧に描いていく感じで、ライヴの高揚感や迫力よりもセッション録音的な意識が強い感じ。この曲では2楽章のアダージョのヴァイオリンのソロを中心とした音楽の深みは見事ですね。響きは実に巧みにコントロールされ、オケの吹き上がりも見事。メヌエットの中間部のコントラバスのソロのコミカルな表情の面白さ、ホルンの響きなどもとろけるような美音もいいですね。終楽章も流麗なんですが、あと一歩表情にコントラストがつくといいですね。
Hob.I:58 Symphony No.58 [F] (before 1775)
シュトルム・ウント・ドラング期の均整のとれた構成の曲。1楽章から力が抜けてリラックスした演奏に癒されます。こういった曲は素直な演奏が似合います。適度な推進力とコントラストで描かれることで、ハイドンの美しい曲の魅力を堪能できます。それを知ってか、オケも実に楽しげに演奏していきます。特に3楽章のメヌエットのコミカルな表情の描き方と流麗さの絶妙なバランス感覚が見事。終楽章も力まずにハイドンの見事な筆致を再現。
Hob.I:19 Symphony No.19 [D] (before 1766)
3楽章構成のごく初期の曲。前曲に続き、こういったシンプルな曲の演出は非常に上手いですね。1楽章の愉悦感、2楽章の陰陽の交錯のデリケートな表現、3楽章のアクセントの効かせ方など、ハイドンの仕込んだ機知を上手く汲み取って、安心して聴いていられる演奏。
Hob.I:27 Symphony No.27 [G] (before 1766)
最後の曲ですが、流麗な入りにうっとり。オケも軽やかにリズムを刻み、次々と繰り出されるハイドンのアイデアをかなり装飾を加えて目眩くようような鮮やかさで片付けていきます。初期交響曲の魅力を見事に表現した演奏。1楽章の華やかさを鎮めるように、続く2楽章のアンダンテはシチリアーノという8分の6拍子の舞曲が弱音器付きの弦楽器で慈しむように演奏されます。終楽章は軽やかさを失わないように八分の力で流して終了。
4巻目に入ったハイドンマラソンシリーズのライヴ録音ですが、演奏も非常に安定してレベルの高いものが揃うようになってきました。表現に遊びが見られるようになって、ハイドンの交響曲の魅力を十全に表した内容になっています。このところファイやアントニーニによる前衛的な表現による全集の取り組みが続いており、このプロジェクトも現代楽器とはいえ、さらに踏み込んだ表現を世に問わなければ飽きられるのではないかとの危惧を持っていましたが、この現代楽器によるオーソドックスなアプローチの中でも演奏のレベルを揃えることで、新たな価値が問えるのではないかとの感触も生まれてきました。録音の方は第4巻ですが、実演はさらに進んでいますので、さらなる成熟を期待したいところですね。本巻の4曲、全曲[+++++]とします。


【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)

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ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovani Antonini)指揮のバーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)の演奏で、ハイドンの交響曲80番、81番、ヨーゼフ・マルティン・クラウスの交響曲ハ短調(VB 142)、ハイドンの交響曲19番の4曲を収めたCD。このアルバムはアントニーニによるハイドンの交響曲全集の第5巻。収録は80番が2016年10月24日から25日にかけてスイスのバーゼル近郊のリーエンという街にあるランドガストホフ・リーエンでのセッション録音。その他の曲が2016年6月23日から27日にかけて、ベルリンのテルデクス・スタジオでのセッション録音。レーベルはレーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。
私が手に入れたのはマーキュリーがリリースする解説付き国内仕様。解説の翻訳はおなじみの白沢達生さん。このシリーズはパッケージも解説も非常に凝ったものなので、やはり翻訳付きはありがたいですね。
このアルバムは先に触れたようにアントニーニによるハイドンの交響曲全曲録音の第5巻。これまでの4巻はアントニーニの率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコが演奏したものでしたが、5巻目となってオケがバーゼル室内管がようやく登場したことになります。
2017/04/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)
2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)
もともとこのシリーズは、制作当初からオケはイル・ジャルディーノ・アルモニコとバーゼル室内管を振り分けるものとアナウンスされており、これまでの4巻に収録された演奏がいずれもパリセット以前の曲だったので、なんとなくオケを振り分けるポイントはパリセット以降などの曲の規模や時代の流れでのことと想像していました。ところが、今回80番、81番という収録曲でオケを変えてきたのを見て、概ねそうした想像通りと思いきや、初期の19番も含まれており、ちょっと想像とも違った展開でもあります。
解説によれば、今回の企画は1巻ごとにテーマを決めて選曲されているとのことで、アルバムも巻ごとにタイトルが付けられ、そのテーマに従って選曲されています。第1巻「受難」、第2巻「哲学者」、第3巻「ひとり物思いに沈み」、第4巻「迂闊者」ときていますが、これらはそれぞれの巻に収録されている曲のタイトルそのものでした。そしてこの第5巻のタイトルは「才気の人(L'Homme de Génie)」という含蓄のあるもの。詳しくは解説によりますが、ハイドンの中期の交響曲と、ハイドンと同時代のスウェーデンのヨーゼフ・マルティン・クラウスの作品を並べてまとめるにふさわしいテーマだったのでしょう。いずれにしてもオケを振り分けるポイントは時代ごとと言った割り切れたものではなさそうですので、今後の展開がどうなるか楽しみが増えましたね。
また、これまでのジャケットデザインも巻ごとにアーティスティックな素晴らしい仕上がりとなっていましたが、これは1947年に発足された写真家同盟である「マグナム・フォト」と連携して作品のテーマにふさわしい写真家の作品が選ばれているとのこと。第5巻はイギリスのスチュアート・フランクリンという写真家の作品で、「才気の人」というテーマに相応しい写真に彩られています。この辺りのプロダクションの見事さはこれまでの全集とはレベルの違うものであり、こちらも1巻ずつ集める楽しみがあるものですね。
さて、肝心の演奏についてはどうでしょうか。
Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
短調の鬼気迫る入り。パリセットの直前の曲ということで録音も少ない曲ですが、改めてアントニーニのエッジの立った先鋭的な響きによって、この曲の迫力が浮かび上がった感じ。もちろんこの鬼気迫る入りはハイドンの才気とアントニーニの才気がぶつかり合って素晴らしい緊張感。ただしこの緊張感をすっとコミカルなメロディーで緩めては引き締める緊張一辺倒ではないところがハイドンらしいところ。対比によって曲の構成を見事に描いていきます。
続くアダージョはしなやかな弦の魅力で聴かせ、あえて音量の起伏を大きめにとって彫りの深い音楽を作ります。このアダージョの落ち着きながらも構えの大きな音楽こそハイドンの魅力をしっかりと踏まえてのもの。そしてメヌエットの適度なキレとバランスの良い展開も全集当初見られた力みが完全に抜けた証でしょう。いいですねこれは。
フィナーレはハイドンの奇抜なアイデアのオンパレード。ウィットに富んだテーマを軸にオケがフル回転でメロディーを膨らませながら盛り上げていきます。メロディーもリズムも楽器の掛け合いも全てがアイデアに満ち溢れ、その芽を全て拾って膨らませるアントニーニの見事なコントロールに唸ります。いやいやいきなり見事な完成度!
Hob.I:81 Symphony No.81 [G] (before 1784)
録音時期と収録場所は異なりますが、音色の差はそれほど気になりません。あえて言えばこちらの方が少々響きがダイレクトな感じがします。冒頭からキレ味鋭いオケが素晴らしい推進力で覇気溢れる響きを聴かせます。鋭利ながら迫力も素晴らしく、グイグイ引っ張って行きます。エネルギーに満ち溢れているとはこのこと。これ以上だと強引に聴こえてしまうギリギリのラインを保ってのコントロール。このほんのすこしの差が演奏の印象を大きく変えてしまうリスクがありますが、その線をギリギリ保つことで類まれな生命感を帯びた音楽になります。力を抜くところでしっかりと抜けているのがポイントでしょう。1楽章から圧倒的!
前曲同様緩徐楽章は正攻法で彫りの深い音楽を奏でます。小細工なしに曲の良さを素直に生かす演奏こそ、ハイドンの真髄に迫る演奏になるとの確信があるよう。後半は意外にもかなり穏やかな音楽にほっこりします。
その穏やかさは鋭利なメヌエットへの対比のためだったのでしょう。このメヌエットも驚くべきアイデアに満ちたもの。アントニーニがそのアイデアをクッキリと浮かび上がらせて本質的な面白さを見抜きます。
そしてフィナーレももちろん千変万化する響きに目がクラクラするほど豪華な響きに圧倒されます。オケにもエネルギーが満ちてまるでライヴのような高揚感に包まれます。これまた見事!
この後ヨーゼフ・マルティン・クラウスの交響曲です。手元に何枚かクラウスの曲はありますが、この曲を聴いてあまりの構成感の見事さに驚いた次第。ハイドンがその才能を認めただけのことはありますね。まさに才気の人。アントニーニも渾身の演奏でクラウスの才気に応えます。
Hob.I:19 Symphony No.19 [D] (before 1766)
ハイドン中期の交響曲2曲にあまりに本格的なクラウスの交響曲というメインディッシュに対して、最後にデザートのように置かれたハイドン初期の交響曲。リズムのキレの良さでさらりと入ったかと思いきや、デザートも力が入っていました。パティシエ渾身の細工の見事さを見せつけらるようなメロディーのキレに唸ります。聴きどころは続くアンダンテでした! ここでもさらりと入った後に音楽が深く響いていく様子の見事さに唸らされます。この曲のアンダンテがこれほど素晴らしい曲だと初めて気づかされた気分。そしてフィナーレも短いながらアントニーニのコントロールが行き届いて軽やかさとオケの吹き上がりの見事さでまとめました。
第5巻でオケがバーゼル室内管に変わった、ジョヴァンニ・アントニーニのハイドン交響曲全集。これまでリリースされた中では間違いなく一番いい出来。特にこれまであまり重んじられてこなかった80番、81番というパリセット直前の2曲の面白さをこれまでで最も引き出した演奏と言っていいでしょう。ハイドン3曲の評価はもちろん[+++++]とします。そしてヨーゼフ・マルティン・クラウスのハ短調交響曲にもびっくらこきました! この全集、企画、演奏、アートワークが三拍子揃った素晴らしいものであり、1巻1巻揃える楽しみがあります。今から次のリリースが楽しみです!


レスリー・ジョーンズ/リトル・オーケストラ・オブ・ロンドンのホルン信号、告別など(ハイドン)

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レスリー・ジョーンズ(Leslie Jones)指揮のリトル・オーケストラ・オブ・ロンドン(The Little Orchestra of London)の演奏で、ハイドンの交響曲31番「ホルン信号」、交響曲19番、交響曲45番「告別」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ネットで検索したところ原盤は1964年にリリースされた模様。レーベルは英PYE RECORDSのライセンスによる日本のテイチク。
レスリー・ジョーンズの交響曲集は以前にもnonsuchのLPを取り上げています。
2013/07/17 : ハイドン–交響曲 : レスリー・ジョーンズ/リトル・オーケストラ・オブ・ロンドンのラ・ロクスラーヌ、78番
リンク先の記事にある通り、レスリー・ジョーンズとリトル・オーケストラ・オブ・ロンドンはかなりの数のハイドンの交響曲の録音があり、現在ではアメリカのHAYDN HOUSEからLPをCD-Rに落としたものを手に入れることができます。上の記事にHAYDN HOUSEへのリンクをつけてありますので、興味のある方はご参照ください。
前記事ではレスリー・ジョーンズの情報が少なく、どのような人かあまり判然としませんでしがが、今回の国内盤には村田武雄さんの解説の最後に演奏者の紹介文が付いています。それによると日本でもチャイコフスキー、ドヴォルザークの弦楽セレナード、グリーク、シベリウスなどの録音がリリースされており、着実、素朴な指揮をする人との評がありました。ハイドンについては先のHAYDN HOUSEに40曲弱の交響曲、「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版、オペラ序曲などの録音があることから格別の愛着を持っていたに違いありません。
今回入手したLPはオークションで手に入れたものですが、針を落としたとたん暖かい素朴な響きにすぐに引き込まれ、これはレビューすべしと即断した次第。テイチク盤ということで音質はあまり期待していなかったんですが、これがいい! 実に味わい深い響きにうっとりです。
Hob.I:31 Symphony No.31 "Hornsignal" 「ホルン信号」 [D] (1765)
たっぷりと響く低音、自然な定位、味わい深い弦楽器の音色。針を落としたとたんに素晴らしい響きに包まれます。ホルン信号はもちろんホルンが大活躍の曲ですが、ことさらホルンを目立たせることをせず、実に自然に、しかもイキイキとした音楽が流れます。仄かな明るさと、翳りが交錯しながら素朴な音楽が展開します。ホルン信号の理想像のような演奏。アーノンクールやファイなどに代表される尖った演奏もいいものですが、このオーソドックスかつ素朴な演奏の魅力には敵わないかもしれません。
2楽章のアダージョも最高。至福とはこのこと。ヴァイオリンを始めとする弦楽器の実に美しいこと。まさに無欲の境地。演奏者の澄み切った心境が見えるほど。ピチカートに乗ったヴァイオリンソロとホルンの溶け合うようなメロディーの交換に感極まります。そしてチェロも落ち着いたいい音を出します。絶品。
続くメヌエットも落ち着きはらって、じっくりとリズムを刻んでいきます。オーケストラの響きが全て癒しエネルギーになって飛んでくるよう。先日取り上げたパノハ四重奏団同様、オケのメンバーの全幅の信頼関係があってこその、この揺るぎないリラックスした演奏でしょう。もちろんリズムはキレてます。
曲を回想して締めくくるようなフィナーレ。オケ全員が完全に自分の役割通りに演奏していく安心感。リズムもテンポもフレージングもどこにも揺らぎはなく、これしかないという説得力に満ちた音楽。変奏の一つ一つを慈しむように各楽器が受け継いでいきます。やはりホルンの溶け合う響きが最高。フルートも最高、ヴァイオリンも最高、木管群も最高、チェロも最高、みんな最高です。おそらく奏者自身が最も楽しんでいるはず。曲想が変わって最後の締めくくりも慌てず、しっかりとまとめます。いや〜、参りました。
Hob.I:19 Symphony No.19 [D] (before 1766)
グッとマイナーな曲ですが、ハイドンの初期の交響曲の快活な推進力と展開の妙を楽しめる曲。レスリー・ジョーンズはホルン信号の演奏でもそうでしたが、実に素朴な手腕でハイドンらしい音楽を作っていきます。これはドラティよりいいかもしれません。短い1楽章から、すぐに短調のアンダンテに入りますが、これがまた美しい。絶品の響きにうっとり。次々と変化していくメロディーに引き込まれ、この短い曲の美しいドラマに打たれます。
フィナーレは再び快活に。ハイドンの初期の交響曲の演奏の見本のようなオーソドックスな演奏ながら、これ以上の演奏はありえないと思わせる完成度に唸ります。完璧。
Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
目玉の告別。これまでの演奏で、レスリー・ジョーンズの素朴ながら見事な手腕にノックアウトされていますので、この告別の最高の演奏を期待しながらB面に針を落とします。もちろん予想通りの素晴らしい入り。適度に速めのテンポで分厚く柔らかな響きに包まれます。音楽の展開と響きの美しさとが音楽の喜びを運んできます。どこにもストレスのない曲の自然な運びによってハイドンの書いた素晴らしい音楽が眼前に広がります。
何度聴いても唸らざるをえない、このアダージョ。弱音器付きの弦楽器によって奏でられる穏やかな音楽。奏者らの絶妙なテクニックがこの自然さを支えていると知りながら、まるで奏者の存在が消えて無くなって音楽自身が流れているような気にさせる見事な演奏。録音も超自然で見事なもの。適度な残響と実に自然な定位感が印象的。これは絶品です。
メヌエットも予想通り適度にキレの良さを聴かせながら落ち着いた演奏。全く野心も邪心もない虚心坦懐な演奏ですが、やはりこれ以上の演奏は難しいでしょう。それほど見事ということです。
この曲1番の聴きどころであるフィナーレ。前半は予想よりも速く、ここでメリハリをつけてくるのかと、聴かせどころを踏まえたコントロールに唸ります。そして一人ずつ奏者が席を立つ有名なアダージョ。もう、癒しに満ちた音楽にとろけそう。なんという優しい音楽。ハイドンという天才がはやくもたどり着いた音楽の頂点。各奏者の素晴らしい演奏に打たれっぱなし。これほど美しいアダージョがあったでしょうか。ノイズレスのLPの細い溝から生まれる音楽のあまりの美しさに息を呑みます。楽器が減るにつれ音楽の純度が高まり、最後は静寂だけが残る感動のフィナーレ。
いやいや、これは参りました。絶品です。流石にハイドンの交響曲の録音を多く残した人だけあって、素朴なのに味わい深く、心にぐさっと刺さるハイドンでした。LPならではの美しい響きも手伝って、まさに理想的な演奏。全曲絶品です。これは他の曲も集めなくてはなりませんね。もちろん録音時期などによるムラなどもあるでしょうが、この素晴らしさを知ってしまった以上、追っかけないわけには参りません。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

