ジョナサン・ノット/東響のシュトラウス、リゲティ、タリス、シュトラウス(ミューザ川崎)

またもやご無沙汰になっちゃいました。色々バタバタしておりましたが、コンサートには通っております。

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東京交響楽団:川崎定期演奏会 第70回

7月21日はミューザ川崎にお気に入りのジョナサン・ノット/東響のコンサートに久々に出かけました。今回はハイドン目当てではなく、リゲティ目当てです(笑)

2018/12/11 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「フィガロの結婚」(ミューザ川崎)
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2017/07/17 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響のマーラー「復活」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

ご覧のように、2016年に素晴らしい「コジ・ファン・トゥッテ」を聴いてからノットのコンサートにはかなり行っています。モーツァルトのダ・ポンテ三部作は皆絶品でしたが、肝心のハイドンはちょっと弄りすぎで今ひとつだったんですが、元アンサンブル・アンテルコンタンポランの音楽監督だっただけに現代物は皆素晴らしい出来だったということで、ノットがリゲティのしかも「2001年宇宙の旅」で使われたレクイエムを振るということでチケットを取った次第。

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この日のプログラムは下記の通り。

J.シュトラウスⅡ:芸術家の生涯 op.316
リゲティ:レクイエム
(休憩)
タリス:スペム・イン・アリウム(40声のモテット)
R.シュトラウス:死と変容 op.24

ソプラノ:サラ・ウェゲナー(Sarah Wegener)
メゾソプラノ:ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー(Tanja Ariane Baumgartner)
合唱:東響コーラス(合唱指揮:冨平恭平)

このプログラム、一見滅茶苦茶な組み合わせに見えます。が、配布されたプログラムの最後に掲載されたこのプログラムを組んだ意図をノットにインタビューする記事を読むと、実によく考えられたプログラムであることがわかりました。今回の軸はノットが高く評価するアマチュア合唱団の東響コーラスがどこまでできるかというのがテーマ。ということで現代もののリゲティに40声部からなるタリスを組み合わせ、20世紀と16世紀の合唱によるピュアな宗教的表現の対比を描こうとするもの。そしてヨハン、リヒャルトの両シュトラウスの曲はワルツに潜む生と死と、19世紀の退廃の時代のドラッグのような時代感覚の対比を描こうとするもの。その二つの対比軸をコンセプトにするものとのこと。開演前にこの記事を読んでプログラムの企画意図に唸りました。

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高まる期待をいつも通りワインで落ちつかせて、コンサートに臨みます。

この日の席はいつもの2階席のRA。オケを右真横から俯瞰する席。指揮者の指示がよくわかるお気に入りの席です。

この日はステージいっぱいにオケ席が配置され、オルガン下の客席は合唱団の席となります。お客さんの入りは8割程度だったでしょうか。一般受けしにくいプログラムゆえ仕方のないところでしょうが、前日のサントリーホールの同プログラムとともにこのコンサートを聴かなかった人は一生の不覚です。この日は東響コーラスにやられましたね。アマチュア合唱団とは思えないポリフォニーの美しさ、精妙さ、そして人の声だけが持つエネルギーの力は圧倒的でした。

1曲めはヨハン・シュトラウスの「芸術家の生涯」。我々の世代はクレメンス・クラウス/ウィーンフィルの黄昏たいぶし銀の演奏で親しんだ名曲です。出だしの金管の音がちょっとひっくりかえったのはご愛嬌。ノットの指揮は予想以上にテンポを落としてじっくりワルツを描くもの。ウィーンの粋な雰囲気というよりデラックスなワルツという感じ。ノットの表情づけの濃さがちょっと気になるのは、刷り込みが高雅すぎるからかもしれませんね。

続いて、お目当のリゲティ。前曲の明るい雰囲気から一変。暗黒峻厳な雰囲気になります。冒頭から微弱な音量のコーラスがただならぬ雰囲気を描きます。間近でコーラスの精妙かつ透明なミクロポリフォニーに包まれる恍惚としたひと時。これは録音では決して味わうことができない響きです。入りのイントロトゥスで緊張感をピキピキに味わったところで、2001年に使われたキリエに入ります。脳内には2001年の映像が交錯しますが、この音楽、実に繊細な構成になっているのに気づきます。コーラスをはじめとしてオケの各楽器が非常に細かく制御され、数多の楽器の織りなす綾が様々な色に光り輝きながら大きな流れとコントラストを作っていきます。その千変万化する音色のそれぞれに耳をそばだてながら異様な雰囲気に包まれる不思議な感覚。コーラスを見ると実に細かく各パートが制御されていることに気づきます。どうしたらこのような音楽が生み出せるのか、常人の創作能力では計り知れぬ領域に達しています。
続く審判の日ではソプラノとメゾソプラノが大活躍。鋭い響きが交錯する中、艶やかなソプラノやメゾソプラノの叫びが加わり、パーカッションの乱舞、そして束の間の静寂が繰り返されます。
最後のラクリモサは不気味な低音にかすかな高音が重なりながら発展。宇宙の果てにいるような感覚。音楽が静寂に包まれ曲が終わるとブラヴォーの嵐。ノットも東響コーラスの健闘に満足いったようで、コーラスメンバーを称えますが、それがマナーなのかコーラスメンバーは緊張を保ちながら直立不動で拍手を受け続けます。いやいや素晴らしかった。生で聴くリゲティは圧倒的でした。

休憩を挟んで、後半はタリスのスペム・イン・アリウム。コーラスのみの曲ですが、オケも入場します。客席が落ち着くとノットとコーラスにスポットライトがあたり、オケは暗転。このタリスは素晴らしかった。実に40声部に及ぶ構成もさることながら、オルガン下の座席いっぱいでも足りず折りたたみ椅子を配置して入った120名規模のコーラスが完璧に制御されて40声部を歌うエネルギーは圧巻。まるでホールが16世紀に引き戻されたような純粋な祈りの空間になります。これがアマチュア合唱団との驚きとともに練習を繰り返してこの領域に至った努力に打たれます。なんと純粋な響き! なんと圧倒的なエネルギー! 10分少々の曲ですが素晴らしい歌唱に本当に圧倒されました。この快演に聴き入っていたオケも含めて場内から嵐のような拍手が降り注ぎました。

そして最後はリヒャルト・シュトラウスの「死と浄化」。先ほど合唱のみの曲でもステージ上にオケがいたのと同様、タリスの曲が終わってもコーラスは下がらず、席に残ります。互いの渾身の演奏をしっかり聴こうということでしょう。これはいいですね。
この曲は滅多に聴く曲ではありませんが、刷り込みはべームとケンペ。特にシュトラウスの愛弟子のベーム/シュターツカペレ・ドレスデンのザルツブルク音楽祭ライヴはこの曲の豊かな表情を楽しめる名盤。ノットは丁寧にじっくりとメリハリをつけて音楽を作っていき、フレージングも盛り上げ方も非常に巧み。これはリヒャルト・シュトラウスに合いますね。この複雑な構成の大曲を場面ごとに見事に描き分けていきます。ベームが大局から音楽を作っていくとするとノットはディティールを丁寧に磨いてシュトラウス独特の退廃した雰囲気と官能的な響きの交錯を描いていく感じ。オケもノットの棒に従ってきっちり描いていきます。ただ、この曲のティンパニのリズムの打ち方は難しいですね。苦労している様子が間近でよくわかります。それでもしっかりとノットの指示に合わせて渾身の打撃!
英雄的なメロディーから目まぐるしく変わる曲想を繰り返しながら終結に向かい、最後はしっかりと盛り上げて終わります。東響渾身の演奏に今度は先ほどまで表情の硬かった東響コーラスが笑顔の拍手で称えます。もちろん観客も拍手喝采。ノット監督、この日が最後のコンサートとなるチェロ主席の西谷さんを労い、最後は2人でカーテンコールを受け、一般参賀。

この日のコンサート、プログラムの企画意図通り、両シュトラウスの対比と中世と現代のコーラスによる宗教的表現の対比を鮮やかに浮き彫りにする見事な構成を体験できました。そしてリゲティの生の迫力、何より東響コーラスの渾身の歌唱が心に残る素晴らしい演奏会でした。



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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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