【新着】アルゲリッチ、マイスキーの協奏曲ポーランド放送ライブ(ハイドン)

久々にCDを取り上げます。しかも新譜です!

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マルタ・アルゲリッチ(Martha Argerich)のピアノによるハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)、ミッシャ・マイスキー(Mischa Maisky)のチェロによるチェロ協奏曲1番(Hob.XVIIb:1)などを収めたアルバム。伴奏はアグニェシュカ・ドゥチマル(Agnieszka Duczmal)指揮のポーランド放送アマデウス室内管弦楽団(Amadeus Chamber Orchestra of Polish Radio)。収録はピアノ協奏曲が1992年4月13日、チェロ協奏曲が1993年11月26日、ポーランド放送S1コンサートスタジオでのライヴ収録。レーベルはポーランドのフレデリック・ショパンインスティテュート(Narodowy Instytut Fryderyka Chopnia)。

アルゲリッチのハイドンのピアノ協奏曲はこれまでに2種の録音があります。1980年に録音したロンドンシンフォニエッタを自身で振ったもの(伊リコルディ、EMIなど)と、1993年に録音したイェルク・フェルバーの振るハイルブロン・ヴュルテンベルク室内管との録音(DG)。いずれもアルゲリッチのキレキレのピアノが楽しめる素晴らしい録音。前者はブログを始めたばかりの頃に記事にしています。

2010/07/10 : ハイドン–協奏曲 : 連日のピアノ協奏曲、今日はアルゲリッチにノックアウト

一方、マイスキーのハイドンのチェロ協奏曲にはよく知られた1986年にヨーロッパ室内管を振った1番、2番、ヴァイオリン協奏曲のライヴ(DG)の他、1983年録音のロンドンシンフォニエッタを自身で振った1番、2番(伊リコルディ、CARRERE)の他、1986年にフェルディナント・ライトナーの振るN響に客演した時のライヴ(KING INTERNTIONAL)などの録音があります。N響との演奏は記事に取り上げています。

2013/09/23 : ハイドン–協奏曲 : ミッシャ・マイスキー/N響のチェロ協奏曲1番ライヴ(ハイドン)

アルゲリッチもマイスキーも90年代以降ハイドンの録音は見当たりません。それぞれハイドンを複数回録音していた時期の貴重なライヴということで、このアルバムには期待も高まるわけですね。

このアルバムでタクトをとるアグニェシュカ・ドゥチマルは1946年生まれのポーランドの女性指揮者。Wikipediaなどによるとスカラ座に初めて登場した女性指揮者として知られているそう。ポーランドのポズナニ州立高等音楽学校を卒業しポズナニフィルのアシスタントコンダクター、ポズナニ歌劇場の指揮者などを経験。学生だった1968年に組織したオーケストラが1977年にポーランド放送のオケとなり、のちにこのポーランド放送アマデウス室内管弦楽団と名乗るようになったとのことです。

このアルバムは、1991年に完成したポーランド放送S1コンサートスタジオのオープンを記念して音楽収録のトップに招かれたアルゲリッチが企画した一連のコンサートシリーズの中の演奏のライヴ収録です。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
この演奏を聴く前に、リコルディの録音とDGの録音をちょっと聴き直した上で聴き始めました。前2者がセッション録音なので、録音はそちらの方がいいのですが、このアルバムの演奏、ちょっと尋常でない勢いを感じます。まずはドゥチマルの振るアマデウス室内管が冒頭からちょっと暴走気味なほど前のめりの快速テンポで入ります。アルゲリッチのキレを迎え撃つ気満点のエネルギー。そのオケのエネルギーがアルゲリッチを触発したのか、アルゲリッチもこれまでの録音のキレのいい入りとは打って変わって、最初から闘志むき出しでキレキレな入り。1ラウンドのゴングが鳴ると同時に壮絶な打ち合いになった試合のごとき様相。流石に両者ともテクニックは十分とみえて音楽が破綻することなくスリリングな掛け合いが続きますが、どちらも一向にテンションを緩めず1ラウンド、もとい1楽章は見応え十分な撃ち合い。手に汗握るとはこのことです。1楽章のカデンツァは意外にさらりとこなしたのが印象的でした。
2楽章はドゥチマルも落ち着いた序奏で今度はゆったりとアルゲリッチにもリラックスするよう促すかのような入り。もちろんアルゲリッチもそれに応えて輝かしいメロディラインを落ち着いて描いてゆきます。録音のバランスが通常の協奏曲の録音よりもピアノをアップしたものだけに、クッキリと陰影の深い音楽が流れます。ドゥチマルもやや叙情的なサポートで抑揚を大きくとって感情を込めてきます。驚いたのが2楽章のカデンツァ。アルゲリッチはここぞとばかりに美音を散りばめ、きらめく夜空のようなブリリアントなカデンツァを披露。ここを聴きどころとするために、1楽章であえてさらりとこなしたのでしょう。
フィナーレは火花バチバチを期待せずにはいられません。もちろん期待通り、3ラウンドの撃ち合いに入ります。ここにきてアルゲリッチは完全に主導権を確保。キレのいいアクセントは期待通り、若干曲芸的雰囲気すら感じさせる神業の連続は流石アルゲリッチ。スリリングな演奏とはこの演奏のこと。最後はキレまくって終わり、最後のフィニッシュはブラボーと盛大な拍手にかき消されます。

怒涛の拍手にアンコールのスカルラッティのソナタ(K141)が割って入りますが、この曲もアルゲリッチのタッチのキレを聴かせる曲で全盛期のアルゲリッチのライヴの凄さを実感した次第。再び曲の余韻が拍手にかき消され、この日のS1コンサートホールの聴衆の興奮がそのまま収められています。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765–67)
続いてマイスキーのチェロ協奏曲。ドゥチマル、今度はアルゲリッチの時ほどオケを煽らず、平常心の入り。ただしマイスキーの伸びのあるボウイングを引き立たせるためか、オケはあえて表情を抑え気味に入ります。特に低音弦の伴奏はリズムをクッキリと浮かび上がらせるような感じ。マイスキーも徐々にボウイングにゆとりが出てきていい感じに落ち着いた演奏。これはこれで余裕を感じさせる円熟の演奏として聴きごたえ十分。1楽章のカデンツァに入ってマイスキーのスイッチ・オン! 周りの状況がわかってマイスキーもようやくエンジンがかかってきました。
深いフレージングが印象的な2楽章はマイスキーとオケがゆったり淡々と演奏を重ねていきます。この録音もソロであるチェロを比較的大きな音量で収録し、バランスもソロ重視。後半音量を落としたところの巧みな表情付けが曲の深みを増します。この辺りは流石マイスキー。そしてカデンツァではテクニックではなく音楽が漂う魅力で聴かせる見事な手腕。
そしてフィナーレはオケの方もキレて挑んできました。明らかにリズムの刻みをクッキリとさせるオケに対し、マイスキーもそろそろ本気でボウイングのキレさせてきます。それに対しオケもボウイングが白熱。この演奏は終楽章に聴きどころを持ってきた感じ。最後はスリリングにフィニッシュ。アルゲリッチとは別の日の録音ですが、観客の盛り上がりはこの日も凄いものがありますね。拍手が手拍子に変わると、この日も拍手を止めるようにアンコールのバッハの無伴奏チェロ組曲2番のサラバンドが演奏されます。マイスキーのチェロがうなりを伴って鳴りまくる神業。最後はハイドンで熱狂した観客が静寂に包まれる神々しい雰囲気。驚いたのは、アンコールでバッハをあと2曲、都合3曲も続いたこと。ハイドン本編と同じくらいの時間アンコールを弾いていたことになります。

ポーランド放送S1コンサートホールのオープン直後の貴重なライヴ。アルゲリッチにマイスキーとスターを招いての記念コンサートだけに、聴衆の熱狂度合いも桁違い。録音を通してもその熱気が伝わってきます。当日会場に居合わせた聴衆が羨ましくもあります。この録音は25年以上経ってリリースされるべき価値があるものと断じます。演奏が終わり、拍手からアンコールまでが途切れずに収められていることもライヴ好きな私にとってもありがたいこと。評価は両曲とも[+++++]とします。オススメです。



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tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 チェロ協奏曲 ライヴ

【新着】パウル・クレツキ/フランス国立管の102番(ハイドン)

いやいや、暑い日がつづきますね。今日は新着アルバム。

Kletzki102.jpg
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パウル・クレツキ(Paul Kretzki)指揮のフランス国立管弦楽団の演奏で、ショパンのピアノ協奏曲1番、ハイドンの交響曲102番の2曲を収めたアルバム。ショパンのピアノはマリツィオ・ポリーニです。ハイドンの収録は1952年10月30日、パリでのライヴ。会場の表記はありません。レーベルはヒストリカル復刻の雄ARCHIPEL。

ジャケットには若きポリーニの眼光鋭い姿が見えますが、ポリーニが加わっているのはショパンだけなので、今日のレビューは純粋にクレツキとパリ国立管のハイドンの102番の演奏のみとなります。

パウル・クレツキは1900年、ポーランド中央部のウッチ(Łódź)の生まれ。地元のオケに15歳で入った後、第一次世界大戦に出兵。その後ワルシャワ大学で哲学などを学び1921年にベルリンに移ります。1920年代に彼が作曲した作品は当時トスカニーニやフルトヴェングラーに評価され、フルトヴェングラーは1925年に彼をベルリンフィルに招いて、指揮する機会を提供しました。ユダヤ人だったため、1933年にはドイツを離れますが、イタリアでもファシスト政権の反ユダヤ主義的政策の苦労したため、1936年にソ連に逃れます。今度はスターリンの大粛正のため、結局スイスに亡命します。彼の代表作である交響曲3番「イン・メモリアム」はナチスの犠牲者のための墓碑として1939年に作曲されたとのこと。両親や姉妹を含む肉親をホロコーストによって殺害され、精神を破壊されたということで、1942年以降作曲することはなくなりました。戦後は指揮者として活動し、ベートーヴェンとマーラーを得意としていました。1954年から55年までロイヤル・リヴァプール・フィルの音楽監督、1958年から61年までダラス交響楽団の首席指揮者、1966年から亡くなる1973年までスイス・ロマンド管の音楽監督を務めました。来日もしていて日本フィルハーモニー交響楽団を振ったこともあるようです。2度の大戦に翻弄されながらも、多くの録音を残した偉大な指揮者だったのですね。

今日取り上げるクレツキの102番、終戦からしばらく経ってからのパリでのライヴ。彼の経歴を知って聴くと、重みも増すのでしょうか。

Hob.I:102 / Symphony No.102 [B flat] (1794)
録音は時代なり。ヒストリカルなライブ独特の饐えた感じが少々ありますが、音像は鮮明。残響はそれなりにあるホールですが、かなりオンマイクな録音なので、実体感は抜群。幽玄な序奏につづいて、速めのテンポによる畳み掛けるように主題に入ります。クレツキがオケを煽っているのでしょう、オケは足並みが乱れるところもありますが、細かいところは気にせず、グイグイドライブをかけて怒濤の迫力。ハイドンの交響曲の1楽章の類いまれな構成感を良く理解して、もの凄く緊密な演奏。入魂の演奏とはこのことでしょう。
2楽章のアダージョはオケの粗さはそのままに、穏やかなこの曲ではありますが、彫りの深い彫刻的な演奏。噛み締めるようにフレーズ毎に険しい表情で鉈で木を荒々しく削りこんでいくよう。癒しを感じる演奏が多い楽章ですが、クレツキの演奏には張りつめたものがあり、真剣勝負な気迫が漲っています。荒々しい響きがかえって迫力につながっています。
メヌエットはざらついたオケの迫力が尋常ではありません。微妙にテンポを落として迫力を感じさせたり、テンポをちょっと上げたり、意外とデリケートなクレツキのコントロールが行き渡ってます。途中テープの伸びでしょうか、一瞬音程が揺らぎますが、一カ所だけ。木管陣はヴィブラートをほとんどかけず、持続音をきっちりふききりメロディーを重ねていくことで、剛直な感じを演出。さらりとした荒々しさが次のフィナーレの爆発を予感させます。
入りから、気合いが漲っているのがわかります。冒頭はヴァイオリンの音階さらりとこなし、盛り上がってからは、各パートがしのぎを削って畳み掛けます。ゴリゴリザクザクメロディーラインが展開するうちにエネルギーが集まり始めます。音量を上げて聴くと素晴しい迫力。最後のリズムの面白さを聴かせる部分もなかなかの演出。楽章間の咳払いなどはすべて録られているのに最後の一音が鳴ったあとはさっと絞って拍手はカットです。不思議なライヴ収録。

パウル・クレツキ入魂のハイドン。時代なりの粗い録音から、当時のホールの様子がリアルに伝わります。手に汗握る迫力の演奏。ライヴ独特の粗さはありますが、手綱を締め上げながらオケをコントロールするクレツキの様子がよくわかる録音です。ヒストリカル、ライヴ好きの方には是非聴いていただきたい演奏です。わたしはクレツキの略歴を調べているうちに、苦難の人生を送ったパウル・クレツキと言う人にちょっと興味をもちました。戦争が終わり、家族を失っても指揮台に立ち、実に彫りの深い音楽を奏でる不屈の人と言うイメージをもちました。音楽とは心で感じるもの。このアルバムから流れる響き以上に何か深いものを感じざるを得ません。心に残る良い演奏でした。評価は[+++++]とします。クレツキの交響曲3番、手に入れて聴いてみたいと思います。

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tag : 交響曲102番 ライヴ ヒストリカル

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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