【新着】ヴィヴィアヌ・シャッソのアコーディオンによるピアノ協奏曲集(ハイドン)

今日は変り種なんですが、聴いてびっくり、演奏は驚くべきもの。

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ヴィヴィアヌ・シャッソ(Viviane Chassot) のアコーディオン、バーゼル室内管弦楽団(Kammerorchester Basel)による、ハイドンのピアノ協奏曲など4曲(Hob.XVIII:11、XVIII:4、XVIII:3、XVIII:7)を収めたアルバム。収録は2016年9月19日から21日にかけて、フライブルクとバーゼルのちょうど中間あたりにあるドイツのミュールハイム(Müllheim)にあるマーティン教会(martinskirche)でのセッション録音。レーベルはSONY CLASSICAL。

ハイドンの協奏曲はピアノ、オルガン、ヴァイオリン、チェロ、ホルン、トランペットなど様々な楽器用の曲が作曲されていますが、それぞれ対象の楽器の特性や音色をしっかりと踏まえて書かれており、ソロのメロディーはその楽器でこそといえる響きが存分に活かされたもの。ホルン協奏曲に見られるホルンの低音を聴かせるところなど、まさにそうしたハイドンの周到な筆致の一例です。そうした協奏曲を他の楽器に置き換えて演奏する例は過去にもありました。

鍵盤楽器はオルガン、ハープシコード、フォルテピアノ、ピアノと時代のパースペクティヴを楽しむことができますし、楽器をなかな用意できないリラ・オルガニザータをフルートとオーボエで置き換えたりする例もあります。またピアノ協奏曲をハープで弾くなど、レパートリーの少ない楽器での例などもあります。

今回はピアノ協奏曲とオルガン協奏曲をアコーディオンで演奏するというもの。ハイドンの新譜をチェックしている際にこのアルバムをみかけて、アコーディオンでピアノ協奏曲を演奏するという企画は珍しいもののさして期待もせず、ちょっと美人奏者のルックスに気が緩んでポチりとしましたが、到着して聴いてみてびっくり。アコーディオンという楽器の表現力に驚くばかり。

そもそもアコーディオンは手動でフイゴをコントロールするオルガンのようなものですが、ポイントは2つ。1つは音を出した後に音量を自由に上げ下げできること。アコーディオンといえばピアソラでしょうが、あの多彩な響きはアコーディオンのこの特徴によるものですね。そして今回わかったのがアコーディオンの反応の俊敏さ。オルガンの長いパイプを空気が移動する時間、そして鍵盤からメカニックを通じて弦を打つまでのフリクションにくらべ、アコーディオンの俊敏さは比較にならないほど。このアルバムを聴くと、これまで鍵盤楽器で聴いていた協奏曲とはソロの俊敏さが段違い。鮮やかなメロディーの展開に圧倒されます。もちろん音色は皆さんの想像するアコーディオンの音色であり、ピアノやフォルテピアノとは雰囲気が一変しますが、なによりその俊敏さによって、曲に別の魂が入ったよう。これはすごい。

奏者のヴィヴィアヌ・シャッソは1979年、スイスのチューリッヒ生まれのアコーディオン奏者。12歳からアコーディオンのレッスンを受け、ベルン芸術大学のアコーディオン科に進み、その後様々な賞を受賞。アコーディオンのレパートリー拡大に努めており、デビュー盤はなんとハイドンのソナタ集だったとのことで、すかさず注文! その後ラモーのソナタ集やツィターとのアンサンブルなどの録音があり、このアルバムでメジャーレーベルであるSONY CLASSICALにデビューとのことです。

また、オケはバーゼル室内管ということで、古くはホグクッドの協奏交響曲などの録音によって知られたオケですが、最近では2032年の完結を目指して進められているジョヴァンニ・アントニーニのハイドンの交響曲全集をイル・ジャルディーノ・アルモニコと分担して録音することで知られたオケです。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
序奏は快速テンポで爽やかそのもの。指揮者は置いていませんが、見事な入りに期待が高まります。普段はピアノかフォルテピアノで聴くソロは、アコーディオン独特の音色で置き換えられますが、最初に書いたように、あまりに俊敏な反応にのけ反らんばかり。ピアノやフォルテピアノとは反応速度が全く異なります。オケが快速なのに合わせて、それを上回る俊敏さでソロがグイグイきます。しかも音量のコントロールもダイナミックに変えてきて、うねるように音量を変えてきます。あまりに鮮やかなタッチに楽器の音色の違いが気になるどころか、鮮やかな音色に圧倒されっぱなしの1楽章です。終盤に至るまでに幾度かの波を超えているので、すでに違和感はありません。カデンツァはアコーディオン独特のタッチによりだいぶスッキリとしたもので、聴いているうちに哀愁に包まれる見事なもの。
続く2楽章も入りは序奏の滑らかさが印象的ですが、ソロが入るとアコーディオン独特の音色と俊敏な反応に釘付けになります。聞き進むうちに中盤のアクセントの鮮やかさにさらに釘付け! さすがに自身でフイゴのコントロールをしているだけのことはあります。アコーディオンの音色には慣れてきましたが、俊敏な反応には唸りっぱなしです。やはりカデンツァはアコーディオン独特の世界に入ります。
フィナーレは前2楽章以上に反応の鮮やかさが際立ちます。ソロに触発されて、オケの反応も異次元のレベルに。協奏曲だけにオケの方もソロの勢いに負けじと感覚が冴え渡って火花が散ります。そしてその刺激がソロに戻り、アコーディオンを操るシャッツにも戻って刺激が刺激を呼ぶ展開。あまりに鮮やかな展開に驚くばかり!

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
1曲目で完全にペースを掴まれ、すでにノックアウト気味。何気にオケの方もソロとは関係なく異常に興奮した感覚を保ち、序奏からソロに宣戦布告する始末。もう冴えまくった感覚を競い合うようなシャープな応酬に唖然とするばかり。聴き慣れた曲が鮮やかに蘇り、まるで初めて聴くような新鮮な響きで迫ってきます。ソロのないところでもオケに魂が乗り移っているよう。中間の展開部に入って以降、さらに2段ロケットに点火したような冴え方。もはや鮮やかさを通り越して別の曲を聴くような感覚に陥ります。この曲のカデンツァのキレはもはや神業のレベル。もともとアコーディオンのためにこの曲が書かれたのかと錯覚するほど。
2楽章はアダージョ・カンタービレ。穏やかな序奏が終わると、まるで中世の宗教音楽のような響きに今度は鳥肌が立つような思い。俊敏さだけではなく、こうした繊細な音色の感覚も持ち合わせていました。不思議な音色に包まれ、峻厳な雰囲気に一変します。アコーディオンという楽器の可能性を感じる楽章。
フィナーレは息を吹き返したようにオケとアコーディオンが乱舞。速いパッセージの音階のキレは他のどの楽器よりも鮮やか。この異次元の鮮やかさがキレまくり、ハイドンの書いたフィナーレのキレ味を飾ります。最後のカデンツァで我々の想像の彼方に行ってしまうことも忘れません(笑) こんなに高い音が出るんですね。

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
次はどんな球が飛んでくるのドキドキしながら聴き始めます。すでに原曲がピアノやフォルテピアノのために書かれたことを忘れそうなほどアコーディオンの印象が刷り込まれてしまいました。軽やかな音階にキレ味鋭いアクセント、そしてグッと力むアクセントの連続攻撃にヘロヘロ。この曲ではソロもオケも少し力を抜いたような部分がさらに加わり、完全にペースを握られます。今更ながら同じメロディーからこれほど多彩な表情が生まれることに驚くばかり。アコーディオンという楽器の表現力に驚きます。めくるめくような展開の連続にすでにトランス状態に。音楽が脳にもたらす刺激としては最強の部類ですね。
2楽章は前曲同様、俊敏さではなく抑えた音色の冴えで聴かせる楽章。一定のテンポで訥々と進めていきますが、それでもアコーディオンという楽器の魅力がジワリと伝わります。ヴィヴィアヌ・シャッソという人、テクニックのみならず、音色に関する類い稀な感覚の持ち主と見ました。
フィナーレはこれまでの曲同様、鮮やかにまとめます。

Hob.XVIII:7 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (before 1766,1760?)
最後はオルガンのために書かれた曲。フォルテピアノよりもオルガンの方がアコーディオンと音色が近いですが、これまでオルガンで聴いてきた曲でも、これまでの演奏の印象が完全に塗り替えられるほどのインパクトがあります。オケの方も重厚なオルガンとの掛け合いではなく俊敏すぎるアコーディオン相手ということで、前曲までと同様冴えまくった状態で迎え撃ちます。もちろんオルガンの方が絶対音量は上でしょうが、強弱のダイナミクスはアコーディオンに分があり、それが大きな違いを生んでいます。鮮やかに吹き抜けるソロの印象が曲を支配します。
これまでの曲の緩徐楽章とは雰囲気が異なり、アコーディオンがオルガンを再現するような演奏になります。この変化の幅を聴かせるために最後にこの曲を持ってきたのでしょうか。最後までオルガン然とした演奏を保つ見識を持ち合わせているんですね。
そしてフィナーレも、これまでと異なるアプローチ。もちろんキレ味は変わらないんですが、オルガンの音色を意識しているようで、弾け飛ぶような展開には至らず。いやいやこの辺りのアプローチにはシャッソのこだわりを感じます。見事。

冒頭に書いた通り、何気なく手にいれたアルバムでしたが、これは驚きの素晴らしい出来。ハイドンの協奏曲のアルバムの中でも特別な一枚と言っていいでしょう。これまでピアノやフォルテピアノなどで聴いてきた曲が、初めからアコーディオンのために書かれたような説得力を持った演奏です。テクニックはもとより、曲ごとに演奏スタイルもしっかりと考えて演奏しており、ヴィヴィアヌ・シャッツという人の音楽性も類い稀なものです。このアルバム、すべての人に聴いていただく価値がある名盤と言っていいでしょう。評価は全曲[+++++]とします。

このアルバムの記事を書きかけたところで、カンブルランのコンサートに出かけたため、途中のままコンサートの記事を先にアップしたところ別記事のコメントにこのアルバムの凄さを知らせていただく書き込みがありました。いやいや、書いている最中にその記事を予測されたという展開に驚きました(笑)

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怪演! ミハイル・プレトニョフのピアノ協奏曲集

今日の2組目はプレトニョフのピアノ協奏曲とソナタ集。

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演奏はミハイル・プレトニョフ(Mikhail Pletnev)のピアノと指揮、ドイツ室内管弦楽団(Deutsche Kammerphilharmonie)。アルバムにはピアノ協奏曲3曲(CD1)とピアノソナタなど(CD2)が含まれていますが、今日はピアノ協奏曲の演奏を取り上げます。録音は1995年4月3、4日にハノーヴァーのNDRの放送大ホールでの収録。

プレトニョフは1957年生まれのロシアのピアニスト、指揮者。最近はDeutsche Grammophoneの専属となっているようですが、HMV ONLINEでは今日時点で”pletnev”の検索で95組のアルバムがヒットし、そのうち25組がチャイコフスキーということで、やはりロシアものが得意のよう。つづくのがベートーヴェンの16組ということで正統派でもあり、最近はベートーヴェンの交響曲全集を指揮者としてリリースするなど指揮者としての活動も活発になっているようですね。

ハイドンの録音はこのアルバムに含まれる曲のみが現在リリースされているのみで、これがハイドンの録音のすべてかも知れません。

演奏は、非常にコンセプチュアルなものですね。とりあえずハイドンの協奏曲の演奏の中では変わり種という範疇でしょう。

最初のピアノ協奏曲XVIII:4。この曲の作曲は1768年頃とされていますが、正確なところはわからないとのこと。ハイドンは1766年にそれまでの楽長ヴェルナーの死によって34歳でエステルハージ家の楽長に就任して、益々仕事が充実し始めた年。若いハイドンが手がけた協奏曲という位置づけ。
演奏は、遅めのテンポかつ、力を相当抜きつつ、そしてリズムのメリハリをしっかりつけて、生気と推進力というより、非常に冷静にとらえて俯瞰的な視点でとらえた始まり。ピアノは音を短く切って点描ののような音の配置の仕方。この曲の1楽章のリズムはいきなり快速な展開とはなりにくいものの、かなり極端な解釈でしょう。実はこの姿勢はこの曲のみならず、プレトニョフのハイドンの協奏曲全体に共通する基調となっています。ハイドンのピアノ協奏曲を現代楽器で演奏する場合、もう少し流麗な展開となるのが一般的なところでしょうが、ここにはソロも指揮も担当するプレトニョフの意思が働いているのは確実でしょう。ハイドンの協奏曲としてどうこうというより、協奏曲の演奏のスタイルとして成り立つかということでしょう。ハイドンが作曲した時代背景などとは離れて、純粋に音楽としてみると、プレトニョフのアプローチは有りでしょう。
2楽章は、1楽章につづき、じっくりとしたアプローチで、まるでショパンの協奏曲のような展開。詩情があふれたいい演奏。左手の音階をかなり極端なスタッカートで刻むのが斬新。カデンツァはプレトニョフによるものですが、とてもハイドンの時代の曲とは思えないロマンチックなもの。気に入らないということではなく、むしろ素晴しいカデンツァといえるでしょう。
3楽章も最初のリズムから非常に冷静な展開。音楽が熱くならず常に冷静な視点からコントロールされている感じですね。ピアノもオケも非常に繊細なコントロールで、演奏の質は非常に高いんですが、静寂と間を生かした展開ゆえ、ハイドンの協奏曲の3楽章としては異例のスタティックな印象ですね。非常に個性的な演奏と言えるでしょう。

次がピアノ協奏曲XVIII:7。この曲は偽作との指摘もある曲。作曲は1766年頃ですが真偽のほどは定かではありません。前曲と同様のアプローチゆえ、いきなり耳が分析的な聴き方になってしまいます。ハイドンの曲の見事な展開を追うというよりはリズムをとりながら設計図を見るような印象。1楽章から神経を鋭敏に張り巡らせて、ピアノタッチとオケの微妙な音量コントロールと節目をクッキリさせるテンポ感の展開にシナプスからアドレナリンが伝達する様子をCGで眺めるような演奏。意味不明ですいません(笑)。音量を抑えて理性的に進める展開に慣れて、聴いているうちに快感に溺れてきました。これはなかなかの演奏ですね。
2楽章は前曲同様、ショパン。音楽的な展開はクレメンス・クラウスの天体の音楽のような、大きく揺るぎない素朴さのような音楽。
3楽章の出だしは見事。音符のリズムの本質をえぐるような曲想を、7分の力で描くような展開。グールドから灰汁と強さとうなり声を取り除いたような清透な個性。

最後が最も有名なピアノ協奏曲XVIII:11。ちょっと安心したのがこの曲の神髄といえる快速な推進力は感じられること。ただ、透徹したコントロールは健在ですね。このアルバムの中ではもっとも標準的なピアニズムを感じられる演奏。おそらく、先人の多くの演奏が耳に残って、個性的なアプローチ、創意の入り込む余地を縮めたのではないかと想像しています。1楽章は前2曲とは異なり、個性は弱い方ですね。
2楽章は逆に、純粋に曲の美しさを究極まで洗練させたような演奏。これは名演ですね。ピアノの右手の紡ぎ出すメロディーがダイヤモンドのごとき輝きをはなって、美しさを極めます。グルダとアバドによるモーツァルトの21番の2楽章を思い起こさせます。カデンツァは至福の瞬間の連続。絶品ですね。
3楽章は再び、洗練されたコントロールによるピアニズム。ハイドンのピアノ協奏曲のフィナーレの魅力の総決算のような演奏。途中からはっきりギアチェンジしてテンポを上げたり、オケとの掛け合いの空気感の巧みな演出があったり、表現の限りを尽くした演出で楽しめます。

評価はXVIII:4が[++++]、XVIII:7とXVIII:11が[+++++]としました。

これまでプレトニョフに特に注目してきたことはありませんでしたが、この人は要注目ですね。現代の演奏家のなかでは強い個性、それも音楽的には非常に洗練された個性の持ち主とみました。ハイドンの録音がこのアルバム限りということは寂しい限りですね。もっと注目されていいい人ではないかと思います。

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プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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