【新着】井上裕子のフォルテピアノによるXVI:46(ハイドン)

最近リリースされたアルバム。絶品です。

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井上裕子(Yuko Inoue)のフォルテピアノによる"The Art of Emotions"と題されたアルバム。この中にハイドンのソナタが含まれています。収録曲は以下の通り。収録は2018年3月16日から18日にかけて、オランダのエンスヘーデ(Enschede)にある楽器修復家のエドウィン・バンク(Edwin Buenk)のアトリエでのセッション録音。レーベルはノルウェーのSIMAX classics。

C.P.E.バッハの「識者と愛好家のための曲集 第5巻より幻想曲ハ長調とロンド(Wq.59)
C.P.E.バッハ:ソナタ ト短調(Wq.65/17)
ハイドン:ソナタ 変イ長調(Hob.XVI.46)
モーツァルト:幻想曲(前奏曲)とフーガ(K.383a(394))
ベートーヴェン:「プロメテウスの創造物」のテーマによる15の変奏曲とフーガ(Op.35)

このアルバムは奏者の井上裕子さんのデビューアルバムとのこと。いつものようにハイドン関係の新譜を物色している中で見かけて注文していたもの。いつものように、未聴の奏者のアルバムということで虚心坦懐に聴いたところ、爽やかな容姿に似合わず、これはなかなか骨のある演奏ということで取り上げた次第。

アルバムは輸入盤ですが、珍しくライナーノーツには日本語も付いていて、奏者自身による読み応えのある詳細な解説がつけられている本格的なもの。アルバムタイトルである"The Art of Emotions"とは奏者が心酔するC.P.E.バッハの下記の言葉に基づいて付けられたもの。

「音楽家は自分自身が感動するのでなければ、聴衆を感動させることはできない。したがって音楽家は、聴衆の心に呼び起こそうとするすべてのアフェクトの中に自分浸ることがどうしても必要である。音楽家が自分の感情を聴衆に示し、そして彼らをそれに共感させるのである。悄然として悲しい部分では、自分自身悄然とし、悲しまなければならない。聴衆が、それを見、それを聞いて曲の内容を理解するのである」 (C.P.E.バッハ) ※ライナーノーツから引用


ということで"The Art of Emotions"は「感情表現の創造」とでも訳すのでしょうか。そして、アルバムの収録曲はC.P.E.バッハを敬愛したハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの作品から奏者が選んだ曲を配したものということです。

冒頭に置かれたC.P.E.バッハの曲は、まさに千変万化する感情表現を極めたような曲。いつも整然として知的でもあり、ユーモラスでもあり、起承転結が明快なハイドンの音楽を聴いているせいか、フレーズごとに型破りな音楽がどんどん展開されるのが非常に新鮮。演奏もC.P.E.バッハを得意としているだけに、全く迷いなくこのめくるめく展開を手中に収め、作曲者の感情と一体化するような見事なもの。C.P.E.バッハを聴いただけで、奏者の表現の幅の広さを確信した次第。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
この曲はハイドンのソナタでも奏者が度々演奏してきた曲とのこと。ハイドンの初期のソナタの中でも美しい曲想で知られ、録音も多い人気曲なのは皆さんご存知の通り。C.P.E.バッハで聴かせた幅広い表現は、ハイドンでは少し抑え気味にしてしなやかな曲の流れの良さを活かしていきます。それでも音階の一つ一つが粒立ち良く刻まれ、起伏が大きく、陰影も深くなるのは持ち前の雄弁な表現力によるところでしょう。使用している楽器はこのアルバム共通ですが、この曲の変イ長調(1楽章)、変ニ長調(2楽章)という特殊な調に伴い、調律もまろやかな響きになるように修正しているとのことで、華やかながらまとまりのよい響きに繋がっていると思われます。流石なのは、フレーズごとにかなり大胆な表現を織り交ぜているのに、音楽の流れに一貫性があり、ハイドンらしい機知と展開の妙を存分に楽しめること。
続くアダージョは奏者が「夢のような楽章」と言うように、まさに夢見るような境地。自在なタッチから紡ぎ出される音楽のなんと心地よいこと。コンディションの良い楽器だからこその弱音の美しさが際立ち、静寂の中に繊細な音楽が流れる快感。至福。
終楽章はC.P.E.バッハでも聴かれたキレキレのタッチで、ハイドンのフィナーレを壮麗に盛り上げます。快速テンポでもテクニックは万全。テクニックの誇示のような印象はなく、ここでも音楽がいきいきと弾み、クライマックスでは楽器の響きが濁る寸前まで鳴らしきる見事な終結。いやいや見事な演奏でした。

この後のモーツァルトとベートーヴェンももちろん出色の出来。特にベートーヴェンはこの奏者の表現力が見事にマッチして素晴らしいですね。

井上裕子によるハイドンのXVI:46ですが、これは日本人による演奏という但し書きをつけなくても、この曲の古楽器による演奏のベストと言っていいでしょう。評価はもちろん[+++++]とします。表現の方向は少々異なりますが、フォルテピアノの表現力はアンドレアス・シュタイアーと遜色ありません。最近聴いたベズイデンホウトや、ボビー・ミッチェルなどのフォルテピアノ奏者に続き、フォルテピアノでは最先端を行く人でしょう。デビュー盤でこの完成度ですので、この先が楽しみな人です。是非ハイドンの曲を録音してほしいものです。



最後に奏者のウェブサイトも紹介しておきましょう。日本語対応ですので経歴などは下記のウェブサイトをご覧ください。

Yuko Inoue | cembalist & fortepianist

このサイト、フッターに"Website crafted by Yuko Inoue"と書かれているので、おそらく本人が作っているのでしょう。経歴やコンサート活動の他にもこのデビュー盤を録音したエドウィン・バンク氏のアトリエでの録音風景の写真や、使われている同氏所有のフォルテピアノの写真などがアップされており、なかなか興味深いものです。



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tag : ピアノソナタXVI:46

【新着】ギョーム・ベロンのXVI:46、絶美!(ハイドン)

最近CDもいろいろ仕入れてはいますが、久々にぐっときたアルバム。

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ギョーム・ベロン(Gullaume Bellom)のピアノによる、シューベルののピアノソナタ(D.894)、ハイドンのピアノソナタ(XVI:46)、ドビュッシーの「版画」の3曲を収めたアルバム。収録は2016年9月、スイス、ラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueでのセッション録音。レーベルはclaves。

ギョーム・ベロンは全く知らなかった人。ライナーノーツによると、1992年生まれ(若い!)のフランスのピアニスト。ブサンソン音楽院(Busançon Conservatoire)でピアノとヴァイオリンを学び2008年に卒業、翌2009年にはパリ音楽院(Paris Concervatoire)のマスタークラスに進み、2014年からはArtist Interpreter Diplomaコースに進んでいます。2014年、シャンゼリゼ劇場でサンサーンスの動物の謝肉祭でデビュー。その後いくつかのコンクールで優勝して現在に至るという、ピチピチの若手です。

驚くのは若手とは思えない、むしろ老成したかのように落ち着き払った非常にしなやかな演奏。1曲目のシューベルトがあまりに素晴らしく、ぐいぐい引き込まれます。しかもハイドンの選曲は初期の名曲Hob.XVI:46ということで記事に取り上げた次第。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
いきなり、ほんのりと美しい残響を伴った磨き抜かれたピアノの美音が流れます。流石ラ・ショー=ド=フォンのSalle de Musique。理想的なピアノの響きに痺れます。オーソドックスな入りながら、デュナーミクのコントロールが絶妙に上手く、適度にテンポが揺れ、漂うような癒しに満ちた音楽。これが20代の青年の繰り出す響きかと驚きます。指先の神経が超絶的に繊細なのでしょう。フレーズのしなやかさと緩やかに移りゆく感情、気配が実に心地よい。このソナタから力みなくこれだけ柔らかな音楽を引き出す手腕は見事の一言。柔らかな起伏に酔います。
続くアダージョ楽章に入ると、さらにしなやかさに磨きがかかります。少ない音符が響く間に様々な方向から光が当たり、きらめくような響きの綾の色彩のグラデーションのなんと豊かなこと。可憐さの限りを尽くしたひととき。至福。ピアノが少し遠くに定位するような録音も秀逸。ベロンの演奏の美点を踏まえた見事な収録です。中程から少しくっきりとした表現に切り替えますが、その変化も絶妙。非常にわずかな変化を効果的に使ってきます。あえてダイナミクスをほどほどに抑えることでデリケートさを研ぎ澄ましてきます。
フィナーレはタッチの軽やかさとリズムのキレをさりげなく聴かせます。けっして力まず、軽快さを失わず、しかも抑制の効いたほどほどの表現から音楽の深さを感じさせる洗練された表現。最後のさりげない終わり方もセンスがいいですね。

シューベルトの深さで引き込まれ、ハイドンでさらりと表現力を見せつけたかと思うと、続くドビュッシーも透明感溢れる素晴らしい響きの構築力。ギョーム・ベロンという若手ピアニスト、恐ろしいほどの表現力の持ち主とみました。若手とは思えぬ成熟した繊細な感性は貴重ですね。ハイドンの評価はもちろん[+++++]といたします。ピアノ好きな方、必聴です。



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tag : ピアノソナタXVI:46

ウラディミール・フェルツマンのソナタ集(ハイドン)

今日はピアノソナタ。最近手に入れたアルバムで、これが絶品の演奏。

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ウラディミール・フェルツマン(Vladimir Feltsman)のピアノによるハイドンのピアノソナタ8曲(Hob.XVI:46、XVI:34、XVI:49、XVI:20、XVI:48、XVI:39、XVI:33、XVI:44)、12の変奏曲(Hob.XVII:3)の9曲を収めた2枚組のアルバム。収録は2012年3月31日、9月24日から26日にかけて、このアルバムのリリース元であるニンバスの本拠地である英ブリストル近郊のモンマス(Monmouth)にあるワイアストン・リーズ(Wyastone Leys)でのセッション録音。

ピアノのウラディミール・フェルツマンは初めて聴く人。いつものように調べてみると、1952年モスクワに生まれのピアニスト、指揮者。11歳でモスクワフィルとの共演でデビューするなど若くして頭角を現し、1969年からモスクワ州立チャイコフスキー音楽院でピアノを学び、その後モスクワ、レニングラード両音楽院で指揮を学びました。1971年にはパリで開催されたマルグリット・ロン国際ピアノコンクールで優勝し、以来世界の楽壇で活躍しています。どうやらバッハを得意としている人のようで、Apple Musicでバッハのパルティータ集を聴きかじってみると、独特の朴訥さを感じさせるタッチが魅力で、どちらかというと東洋的というか、禅の境地のようなものを感じる演奏をする人との感触を得ました。ハイドンのソナタをさらりと弾きこなす手腕はこのバッハの演奏の境地との類似性を感じます。
今日は、CD1枚目の4曲を取り上げます。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)

さりげないごく普通の入りという印象でしたが、すぐにほんのりと詩情が漂い始めます。特にスタッカート気味の部分に独特の風情が乗ります。緊張感を催す演奏ではなく、リラックスして淡々と弾き進めていく自然な流れとアクセントの対比の面白さが聴きどころと見ました。安定した技術に裏付けられたさりげない自然さ。指の回りもしなやかなわけではなく、響きの美しさの中にリズムもアゴーギクも適度に凸凹した印象を残しますが、それがこの演奏の面白さ。名のある陶工の茶碗に見られる焼きムラを景色として味わうのと似た感じ。これが実に心地よい。
この曲は初期の曲ながらアダージョの美しさが聴きどころの曲。リズムも自在に動かしながら弾き進めていくこの楽章は曲の美しさを際立たせる見事なタッチが印象的。まさに詩人の演奏というべき神業。豊かな表情が透徹した純粋さを表現する稀有な演奏。
フィナーレは文字通り軽妙洒脱なタッチの面白さで聴かせます。1曲目からいきなり素晴らしい演奏に圧倒されます。

Hob.XVI:34 Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
左手の力強いタッチとリズムの面白さで聴かせる曲ですが、それに限らずしなやかな流れとくっきりとした表情の美しさでまとめる見事な展開。流れ良く聴かせるのはこの人の天性の才能でしょう、はっきりとしたコントラストをつけながら、一貫して淀みなく曲を流していくところは見事。フレーズのつなぎもハッとさせるような閃きを聴かせます。
アダージョでは響きを研ぎ澄ますように形を整えるという感じの演奏ではないにもかかわらず、さらりとした演奏の中にディティールの様々な美しさを垣間見せ、ふと暖かな気配を感じさせたり、閃きを見せたりと聴くものを飽きさせません。
終楽章もリズムに変化を持たせながらさりげなくまとめます。最後に見得を切るのがこの人のスタイルなのでしょう、キリリと引き締めて終わります。

Hob.XVI:49 Piano Sonata No.59 [E flat] (1789/90)
晩年の有名なソナタ。ここにきて、かなり派手なアクセントをかまして表現力を駆使してきます。ハイドンの曲に仕込まれた機知を汲み取ってどうだと言わんばかりの外連味溢れる演奏。晩年のソナタだからこそ、こうしたウィットを込めたのだろうと言わんばかりの演奏にニンマリ。奏者の浮かび上がらせたハイドンの意図は私にはしっくりきました。このソナタから迫力や響きの美しさではなく、この外連味を汲み取るセンスは秀逸。全編に遊び心が満ち溢れます。
なぜか枯淡の境地を感じさせるアダージョ。ピアノという楽器の響きの美しさを感じさせながらも、叙情的にならずに淡々と曲を弾き進めていくことでかえって切ない感情を浮かび上がらせます。この曲の真髄に迫るさりげない解釈に凄みさえ感じるほど。
そしてフィナーレはタッチの硬軟の対比を随所に設けてテーマとなるメロディーに変化をつけて表現力を見せつけます。見事。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きな曲。1楽章は美しい2楽章の前座のようにこれまで聴く癖がありましたが、フェルツマンはこの楽章にも巧みに表情をつけることで、この楽章独自の面白さを印象付け、私の曲の印象も変わりつつあります。一般的な丁寧な演奏から生まれるまとまりの良い曲想から抱く印象とはちょっと違って、この曲の展開の面白さにいつもと違う方向からスポットライトが当たり、ハッとさせられました。
そして、お目当てのアンダンテ・コン・モートは期待以上に心に沁みる演奏でした。響きに固執することなく、小川の流れが岩に当たって所々急な流れになったり、穏やかになったりする自然の美しさをそのまま書き写したような曲の表情に気づかされます。緩急自在かつ響きの磨き度合いも自在に変化させるフェルツマンの軽妙なタッチ。絶美。
フィナーレはピアノの響きの面白さを適度な力感で楽しむがごとき演奏。力任せになることはなく、左手のアクセントを交えながら曲のメロディーと陰影の美しさを交錯させて流すように演奏。すっと力を抜く面白さまで加えて終えるあたり、流石のセンスです。

CD1枚目を聴いてウラディミール・フェルツマンの曲に対する読みの深さを思い知った感じ。表面的な響きの美しさというレベルを狙っているのではなく、曲ごとにハイドンが意図したであろうイメージを次々と汲み取って表情を作っていくことで、一見シンプルなハイドンのソナタの深さを見事に表現しきっています。このことが最もよくわかるのがXVI:49。このソナタに込められたアイデアをこれほどわかりやすく表現した演奏は他にありません。恐ろしいまでの表現力の持ち主ですが、それを穏やかにまとめるところが真の実力者と見ました。感服です。評価は4曲とも[+++++]といたします。必聴です。



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tag : ピアノソナタXVI:46 ピアノソナタXVI:34 ピアノソナタXVI:49 ピアノソナタXVI:20

【新着】アン=マリー・マクダーモットのピアノソナタ集第2巻(ハイドン)

最近リリースされたCD。

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アン=マリー・マクダーモット(Anne-Marie McDermott)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集の第2巻。収録曲はHob.XVI:48、XVI:39、XVI:46、XVI:37の4曲。収録は2017年4月17日から18日にかけて、デンマークのオーデンセ(Odense)のカール・ニールセンコンサートホール(Carl Neelsen Musikhuset)でのセッション録音。レーベルは米BRIDGE。

ちょっとエリザベス・テイラーを思わせる美貌のピアニスト、アン=マリー・マクダーモット。2014年にハイドンのソナタと協奏曲を収録した2枚組のアルバムがリリースされていましたが、緩徐楽章の美しい音楽が魅力的な一方、速いテンポの楽章にちょっとそそくさとした印象があって記事に取り上げるほどのインパクトはありませんでした。今回Vol.2がリリースされ、ちょっと聴いてみると、なかなか深い演奏ではありませんか。ということで記事に取り上げることにした次第。

アン=マリー・マクダーモットはアメリカのピアニスト。風貌から想像するにアンジェラ・ヒューイットと同世代の方と見受けました。略歴などを見ても年齢や師事した人などの記載はなく、数多くのコンクールで優勝してコンサートピアニストとして長年活動している方ということです。調べてみると日本の浜松で1991年に開催された浜松国際ピアノコンクールで2位と日本人作品最優秀演奏賞を受賞していますね。アルバムはBRIDGEレーベルからショパン、モーツァルト、プロコフィエフなどのアルバムがリリースされていますが、中でもハイドンの2枚目のアルバムをリリースしてくるということは、ハイドンにひとかたならぬ情熱を傾けているということでしょう。ライナーノーツにはこのところの欧米や中国でのリサイタルでオールハイドンプログラムを演奏しているとも記載されています。彼女もハイドンの純粋無垢な美しさにとらわれたのでしょう。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
ピアノはヤマハCFX。最近ではジャン=エフラム・バヴゼがヤマハを使ってソナタ全集の録音に挑んでいますね。硬く澄んだ中音域がヤマハらしい音色。ゆったりとしたテンポでまるで山水画のように侘び寂びを感じさせるような入り。前作から明らかに演奏スタイルが進化しているように聴こえます。静寂の中に音を置いてく様子が枯山水の玉石のなかに点在する岩のよう。一音一音の余韻にうっすらと乗る淡い色彩の絶妙な変化を楽しむような趣。1曲目から素晴らしい緊張感に包まれます。
続くプレストは前作とは異なり、さらりと流すような余裕があり、しかも音符のグラデーションの綾を描くような統一感があります。軽妙洒脱なハイドンのウィットと純音楽的なキラメキが高度に融合した素晴らしい演奏。タッチも鮮やか。

Hob.XVI:39 Piano Sonata No.52 [G] (1780)
続いて軽いタッチのソナタ。キレ良く楽しげなタッチでハイドンの宝石箱のようなメロディーをなぞっていきます。実に楽しそうに演奏しているのが伝わります。そして微妙に陰る部分の陰影のデリケートなコントロールはハイドンのソナタを演奏し続けているからこそ表現できるポイントでしょう。変奏が重なって音楽がどんどん展開していく面白さを、フレーズごとに表情を微妙に変えることで表現していきます。そして最初のメロディーに帰ってきたときに広がる安堵感。ソナタの面白さを存分に味わえます。
続くアダージョはもとより深い情感の表現に長けたマクダーモット得意の楽章。いきなり峻厳な輝きに満ちた美しさに包まれます。純粋無垢な美しさとはこのような演奏のことでしょう。深い呼吸としなやかなタッチから生まれる絶美の瞬間。特に高音の磨き抜かれた響きの透明感と弱音のコントロールが見事。マクダーモットの演奏でこの楽章の素晴らしさを再認識した次第。
フィナーレもいい意味で力の抜けたいい演奏。複雑な音階をさらりと弾き進めていきますが、大きな音楽の流れをしっかりとつかんで進めているのでせいた感じは皆無。音楽の軽さとタッチの適度な重さが絶妙。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
初期のソナタの中では有名なもの。フレッシュな響きを意識しているのかこのソナタでも軽やかさは変わらず。メロディーラインをくっきりと浮かび上がらせながらもかなり短く切られた伴奏音が軽やかさを印象づけます。メロディーラインの響きの美しさ、表情の豊かさと一貫した伴奏の描き分けの見事さに唸ります。おそらくこれまでのコンサートでも繰り返し演奏したことでこの境地に到達したのでしょう、初期とはいえこの音楽の深みは見事という他ありません。
楽しみにしていた美しい曲想のアダージョ。空間の透明度が極限まで上がったような研ぎ澄まされた音楽に引き込まれます。響きの純度もこれ以上ないほどで、特に高音のメロディーは宝石のごとく輝き、詩情が滲み出してきます。ハイドンの美しいアダージョに浸る至福のひととき。冬の高原で満点の星を眺めるがごとき趣。セッション録音にも関わらず、今そこでピアノを弾いているような極上のコンサートを独り占めしている心境になります。絶品。
フィナーレは再び軽やかさを取り戻しコミカルでウィットに富んだ音楽をさらりと流します。この流し方が粋なんですね。軽く表情をつけながらもサラリ感に満ちた音楽で最後をまとめます。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
最後は中期の曲。鮮やかなタッチの魅力を最後に聴かせようということでしょう。速いパッセージにもくっきりとメリハリをつけながら決して足早に聴こえることないよう注意深く演奏されてています。この曲は1楽章の軽やかな展開から、2楽章でグッと沈み込む対比が聴かせどころですが、1楽章の鮮やかさが、次の展開の対比を想起させるハイドン一流の仕掛けがあります。
その仕掛けを見事に表現。2楽章のラルゴの冒頭は沈み込むのではなく壮麗な伽藍を思わせる見事な入りで度肝を抜きます。私の想像を見事に超えてきました。まさにマクダーモット入魂の演奏。ハーモニーに魂が宿ります。
そしてそよ風のような自然なフィナーレの入り。楽章間の変化の面白さを見事に活かした演奏は流石にハイドンを弾きこんできただけのことはあります。最後は媚びることなくさらりと軽やかに終えるところも見事。いやいや素晴らしい演奏でした。

マクダーモットの最初のハイドンの録音(下に参考アルバムとして掲載)から大きく進化した2枚目のアルバムは多くのコンサートでオールハイドンプログラムを演奏し続けてきたマクダーモットの面目躍如。最近聴いたハイドンのソナタ集では出色の出来です。高音の輝きはまるでグルダを思わせ、全体の見通しよく、ハイドンならではの機知やユーモアを織り交ぜながらも研ぎ澄まされたアーティスティックさでまとめられた素晴らしい演奏でした。このアルバムのジャケット写真をよく見ると、マクダーモットがピアノに向かいハイドンと心の対話をしながら演奏しているように見えてなりません。このソナタ集、必聴です。評価は全曲[+++++]とします。

(参考アルバム)
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tag : ピアノソナタXVI:48 ピアノソナタXVI:39 ピアノソナタXVI:46 ピアノソナタXVI:37

ジュリア・クロードのピアノソナタ全集第4巻(ハイドン)

最近入手した気になるアルバム。またまた宝物に出会いました。

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ジュリア・クロード(Julia Cload)のピアノによるハイドンのピアノソナタ9曲(Hob.XVI:8、XVI:2、XVI:12、XVI:14、XVI:25、XVI:42、XVI:46、XVI:20、XVI:32)を収めた2枚組のCD。収録に関する情報は記載されていませんがPマークが2009年と記載され、ハイドンのアニヴァーサリーイヤーであるこの年にコンサートも開いたとのこと。レーベルは英Meridian。

ジュリア・クロードのピアノソナタ集はこれまでに3巻がリリースされていましたが、それぞれ1985年、1989年、1990年のリリースということで、第3巻から20年近く経ってから第4巻がリリースされたことになります。ということで第3巻を記事に取り上げた際には完結などと書いてしまいましたが、どっこいまだ完結していなかったことになりますね。以前に取り上げた際の記事はこちらをご参照ください。

2013/10/03 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集完結
2010/09/25 : ハイドン–ピアノソナタ : ジュリア・クロードのピアノソナタ集

ジュリア・クロードはハイドン研究の大家、ロビンス・ランドンが推薦していたピアニスト。そのあたりのことは完結の方の記事をご参照ください。これまでにリリースされたアルバムの演奏はランドンが推すだけのことはあって、くっきりとした右手のメロディーの輝きを感じさせるなかなかの演奏でした。この度手に入れたアルバムはこれまでリリースされたアルバムとは時代が変わって、ジャケットのデザインも変わり、録音も比較的最近のものということでクロードのくっきりとした演奏にさらに磨きがかかったものであろうと想像して、アルバムを聴き始めました。ライナーノーツを見てみると、ハイドンのピアノのソナタ「全」集の第4巻とはっきりと書かれているので、この第4巻のリリースによって停滞していたと思われた全集化の歩みは止まっていなかったわけですね。

Hob.XVI:8 Piano Sonata No.1 [G] (before 1760)
ごく初期の練習曲のようなシンプルなソナタですが、豊かな残響の中にピアノがくっきりと浮かび上がる見事な録音によって、シンプルなメロディーがくっきりとしかも豊かにに響きわたります。ジュリア・クロードはかなりリラックスして、このシンプルなソナタをまるで小人の国で遊びまわるように楽しげに演奏していきます。オルベルツのような芯のしっかりした面もあり、それでいて響きの美しさは超一級。これまでの3巻の演奏から奏者の熟成を感じる素晴らしい演奏。ピアノはヤマハのCFIIIですが、これほど研ぎ澄まされたヤマハの音を聴くのは初めて。Meridianの素晴らしい録音によって初期のソナタの美しさが最上の形に仕上がっています。

Hob.XVI:2 Piano Sonata No.11 [B flat] (c.1762)
初期のソナタが続きますが構成は随分進歩して、楽章間の対比もよりはっきりとしてきています。研ぎ澄まされた響きの美しさは変わらず、そしてハイドンの仕組んだリズムの面白さや、ふとした瞬間の翳り、ハッとするようなアイデアを丹念に拾って美音に包みこんだ名演奏。そして表現も深みを帯びてきました。少し前に取り上げた、エイナフ・ヤルデンの演奏が知性に訴えるような美しさだったのに対し、ジュリア・クロードの演奏は優しさに包まれた響きの美しさ。揺りかごに揺られながら聴く音楽のような安堵感に包まれます。

Hob.XVI:12 Piano Sonata No.12 [A] (before 1765)
入りの気配から洗練の極み。いつもながらハイドンの創意の多彩さに驚かされますが、それも極上の美音で聴くと一段と冴えて聴こえます。メロディーもリズムもハーモニーも全てが信じられないような閃めきの彼方からやってきたよう。脳の全神経が音楽に揺さぶられて覚醒。短いソナタにもかかわらず、なんと刺激に満ちた音楽なのでしょう。それも優しさと機知に飛んだユーモラスな刺激。この演奏によってこのソナタにこれほどの魅力があると気づかされました。

Hob.XVI:14 Piano Sonata No.16 [D] (early 1760)
曲を追うごとに創意の多彩さに打ちのめされるのがハイドンのソナタ集の常。予想外に展開する音楽に呑まれます。音符を音にしているのではなく音符に宿る魂を音楽にしているがごとき見事なクロードの魔術にかかっているよう。タッチのデリケートさは尋常ではなくこれ以上繊細にコントロールするのは難しいとも思える領域での演奏。散りばめられたそれぞれの音が溶け合ってまばゆい光を放っています。こればかりは聴いていただかなくては伝わりませんね。2楽章のメヌエットから3楽章のアレグロへの変化は誰にも想像がつかない見事な展開。独創的な3楽章に改めて驚きます。

Hob.XVI:25 Piano Sonata No.40 [E flat] (1773)
これまでの曲よりも少し下った時代の曲。曲の展開とメロディーの構成は一段と緊密になりますが、これまでの曲のシンプルさもハイドンらしい音楽として見事に仕上げてきていますので、聴き劣りしていたわけではありません。フレーズごとの描き分けはさらに巧みになり、音楽の起伏も大きくなっていきますが、聴きどころがクロードの演奏の見事さから、曲自体の素晴らしさに移ってきているようにも感じます。この曲から聴き始めていたら、もう少し普通の演奏に感じたかもしれません。それだけシンプルな曲におけるクロードの表現が素晴らしいということです。もちろんこの曲でもクロードのデリケートな表現力は変わらず素晴らしいものがあります。

Hob.XVI:42 Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
CD1の最後の曲。有名曲ですので聴き覚えのある方も多いはず。クロードの演奏は洗練の極み。この曲の私の刷り込み盤はブレンデル。この曲で最初に手に入れたアルバムだけに鮮明に覚えていますが、クロードの演奏を聴いてしまうと、今まで磨き込まれた名演だと思っていたブレンデルの演奏が無骨に聴こえてしまうほど透き通るような透明感に溢れた演奏です。ハイドンのソナタがこれほどの輝きを持つことに驚きます。ゆったりと語られる一音一音にそれぞれ意味が込められ、まさに絶妙に磨き込まれた孤高の響き。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
CD2は1770年代の名曲が3曲並びます。空中にピアノの美音が漂うような雰囲気満点の録音。磨き抜かれた宝石のようなピアノの美音が転がりだしてきます。この曲は、構成の面白さ、アイデアの豊富さ、メロディーの美しさなどこれまでの曲よりさらに一段高いレベルの曲ですが、このジュリア・クロードの演奏はその中でも響きの美しさとメロディーの美しさに踏み込んだ演奏。曲の骨格よりもハーモニーの美しさを追い込んでいきます。この演奏によってハイドンが最も生み出すのが難しいものと語ったメロディーの類稀な美しさにスポットライトが当たります。特にデリケートなタッチによってヂュナーミクの変化は無限の階調とも言えるしなやかさを帯び、ハイドンがまるでエンヤの音楽のように漂います。ちょっとやりすぎのような気がしなくもありませんが、これはこれでハイドンのソナタの一つの姿とも言えるでしょう。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きなXVI:20。一歩一歩踏みしめるようなたどたどしい入りに驚きます。響きの深さはこのアルバムに共通ですが、表現が少しずつ深くなります。徐々に歩みを速めていきますが、聴き進む間にテンポを自在に変化させ、ソナタの格にふさわしい表現の深さを聴かせます。まさに詩情あふれる演奏とはこのこと。2楽章のアンダンテが聴きどころと思っていたところ、その前にやられてしまいます(笑)。そして2楽章は予想どおり美しさを極めた演奏となります。クロードのタッチはこの曲でもデリカシーに富んだものですが、曲が曲だけにそのレベルは極まった感じ。フィナーレの達観したかのような落ち着きも見事。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
最後も有名曲。タッチのキレに初めて殺気のような迫力を感じます。テンポが次々と変わり、CD2に入って自在な表現を極めてきた感じ。響きの美しさばかりでなく1楽章中盤からの畳み掛けるような迫力も加わり、過去に録音された3巻よりも明らかに表現のスケールが大きくなり円熟を感じます。より曲の本質に迫ろうとする意欲が音楽に乗っているのがわかります。メヌエットも直裁なキレを聴かせたかと思うと穏やかな膨らみで和ませ、キレ味を引き立てる見事な展開。そしてフィナーレは全方角から音の雫が降り注ぐようなこれも見事な表現に参ります。

1985年のシリーズ第1巻の録音から24年後、直近の第3巻の1990年の録音から19年を経て2009年に録音された2枚組の第4巻ですが、その間の時の流れを経ての録音であるとの説得力を感じさせる、円熟味が加わった見事な演奏。ジュリア・クロードというピアニストが人生を賭けてハイドンのソナタに取り組んでいるとわかる素晴らしい演奏でした。はじめは数曲取り上げるだけにしておこうかと思って聴きはじめましたが、あまりの面白さに3日かけてしっかり聴き通して記事にした次第。もちろん評価は全曲[+++++]とします。
これまでのリリース間隔から想像するに、すぐに第5巻がリリースされるとはいかないでしょうが、それでも2009年の録音から8年が経過しており、第5巻がそろそろリリースされてもおかしくないでしょう。次のアルバムが待ち遠しいですね。

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【新着】フランチェスコ・コルティのソナタ集(ハイドン)

今日はハープシコードによるソナタ集。

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フランチェスコ・コルティ(Francesco Corti)のハープシコードによる、ハイドンのファンタジア(XVII:4)、ピアノソナタ(XVI:37、XVI:31、XVI:32、XVI:46、XVI:26)、カプリッチョ「豚の去勢にゃ8人がかり」(XVII:1)の7曲を収めたアルバム。収録はパリのピエール・マルボスというピアノ販売店の4'33ホールでのセッション録音。レーベルは初めて手に入れるevidenceというレーベル。

フランチェスコ・コルティという人は初めて聴く人。調べてみると、何と今週近所で行われる調布音楽祭に来日するとのこと。いつものように略歴をさらっておきましょう。イタリアのフィレンツェの東南にあるアレッツォで1984年に生まれ、ペルージャでオルガン、ジュネーブとアムステルダムでハープシコードを学びました。2006年ライプツィヒで開催されたヨハン・セバスチャン・バッハ・コンクール、2007年に開催されたブリュージュ・ハープシコード・コンクールで入賞しているとのこと。2007年からはマルク・ミンコフスキ率いるレ・ミュジシャン・ドゥ・ルーヴルのメンバーとして活躍している他、主要な古楽器オケとも多数共演しているそうで、ハープシコード界の若手の注目株といったところでしょうか。

Hob.XVII:4 Fantasia (Capriccio) op.58 [C] (1789)
速めのテンポでハープシコード特有の雅な音色が響き渡ります。使っている楽器はDavid Ley作製の1739年製のJ. H. Gräbnerと記載されています。録音は割と近めにハープシコードが定位するワンポイントマイク的なもので、ハープシコードの雅な響きを堪能できる録音。約6分ほどの小曲ですが、ハープシコードで聴くとメロディーラインが全体の響きの中に調和しつつもくっきりと浮かび上がり、この曲の交錯するメロディーラインの面白さが活きます。しかも速めにキリリと引き締まった表情がそれをさらに強調するよう。最後に音色を変えるところのセンスも出色。普段ピアノやフォルテピアノで聴くことが多い曲ですが、ハープシコードによる演奏、それもキレキレの演奏によってこの曲のこれまでと違った魅力を知った次第。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
軽快なテンポは変わらずですが、今度は所々でテンポをかなり自在に動かしてきます。また、休符の使い方も印象的。ちょっとした間を効果的に配置して、ソナタになると少し個性を主張してきます。速いパッセージのキレの良さは変わらず、ハープシコードという楽器につきまとう音量の変化の幅の制限を、テンポと間の配置で十分解決できるという主張でしょうか。次々と繰り出される実に多彩なアイデアに驚くばかり。ピアノとは異なる聴かせどころのツボを押さえてますね。驚くのが続く2楽章。予想に反してグッとテンポを落とし、一音一音を分解してドラマティックに変化します。ハープシコードでここまでメリハリをつけてくるとは思いませんでした。そしてフィナーレでは軽快さが戻り、見事な対比に唸ります。フィナーレもハイドンの機知を上手く汲み取ってアイデア満載。見事なまとめ方です。

Hob.XVI:31 Piano Sonata No.46 [E] (1776 or before)
冒頭のメロディーのハープシコードによるクリアな響きが印象的。この曲では落ち着いた入り。一音一音のタッチをかみしめるように弾いて行きながら、徐々にタッチが軽くなっていく様子が実に見事。曲想に合わせて自在にタッチを切り替えながら音楽を紡いでいきます。瞬間瞬間の響きに鋭敏に反応しているのがわかります。ここでも印象的な間の取り方で曲にメリハリがしっかりとつきます。アレグレットの2楽章は壮麗な曲の構造を見事に表現、そしてフィナーレではハープシコードの音色を生かしたリズミカルな喧騒感と楽章に合わせた表現が秀逸でした。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
ピアノでの演奏が耳に残る曲で、低音の動きの面白さが聴きどころの曲ですが、コルティのハープシコードで聴くと、新鮮な響きでその記憶が刷新されるよう。ハイドンはハープシコードの華やかな響きも考慮して作曲したのでしょうか。古楽器では迫力不足に聴こえる演奏も少なくない中、そういった印象は皆無。むしろキレのいいタッチの爽快感が上回ります。続くメヌエットでは調が変わることによる気配の変化が印象的に表現されます。ピアノではここまで変化が目立ちません。そして短調のフィナーレは目眩くような爆速音階が聴きどころ。コルティ、テクニックも素晴らしいものを持っていますね。最後の一音の余韻に魂が漲ります。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
初期のお気に入りの曲。壮麗な1楽章、この曲が持つ静かな深みのような不思議な気配を見事に捉えたタッチに引き込まれます。メロディ中心の穏やかな曲想だけに、落ち着いたタッチで穏やかに変化する曲想をじっくり楽しむことができます。やはり曲想に応じて巧みにタッチをコントールしており、その辺りの音楽性がハイドンの真髄を捉えているのでしょう。特に高音のメロディの研ぎ澄まされた美しさを聴かせどころで披露するあたりも見事。そして、アダージョではさらに洗練度が上がり、響の美しさは息を呑むほど。このアルバム一番の聴きどころでしょう。微視的にならずに曲全体を見渡した表現に唸ります。比較的長い1楽章と2楽章をこれだけしっかり聴かせるのはなかなかのものですね。そしてそれを受けたフィナーレは爽快さだけではなく、前楽章の重みを受けてしっかりとしたタッチで応じ、最後に壮麗な伽藍を見せて終わります。

Hob.XVI:26 Piano Sonata No.41 [A] (1773)
ソナタの最後はリズムの面白さが際立つハイドンらしい曲。コルティは機知を汲み取り、リズムの変化を楽しむかのようにスロットルを自在にコントロールしていきます。そして明るさと陰りが微妙に入れ替わるところのデリケートなコントロールも見事。途中ブランデンブルク協奏曲5番の間奏のようなところも出てきますが、これぞハープシコードでの演奏が活きるところ。曲が進むにつれて繰り出されるアイデアの数々。コルティの多彩な表現力に舌を巻きます。メヌエットは端正なタッチで入りますが、終盤音色を変えてびっくりさせ、非常に短いフィナーレではさらに鮮やか。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「豚の去勢にゃ8人がかり」 [G] (1765)
最後はユーモラスなテーマの変奏曲。この曲を最後に持ってくるあたりにコルティのユーモアを感じざるを得ません。ハープシコードでの演奏に適したソナタ数曲のまとめに、軽い曲を楽しげに演奏するあたり、かなりハイドンの曲を研究しているはずですね。もちろん演奏の方はソナタ同様素晴らしいものですが、力を抜いて楽しんでいる分、こちらもリラックスして聴くことができます。まるでソナタ5曲をおなかいっぱい味わった後のデザートのよう。聴き進むとデザートも本格的なものでした! 最後はびっくりするような奇怪な音が混じるあたりにコルティの遊び心とサービス精神を味わいました。

久々に聴いたハープシコードによるソナタ集。まるで眼前でハープシコードを演奏しているようなリアルな録音を通してフランチェスコ・コルティの見事な演奏を存分に楽しめました。これは名盤ですね。評価は全曲[+++++]とします。調べてみると、これまでにも色々とアルバムをリリースしているようですので、私が知らなかっただけだと思いますが、若手の実力派と言っていいでしょう。コルティのウェブサイトにもリンクしておきましょう。

Francesco Corti

これは是非実演を聴いてみたいところですが、折角近所で行われる調布音楽祭にコルティが出演する6月14日も17日もあいにく都合がつきません。次回の来日を期待するとしましょう。

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【新着】マルクス・ベッカーのピアノソナタ集(ハイドン)

久々にCDに戻ります(笑)

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マルクス・ベッカー(Markus Becker)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:21、XVI:34、XVI:28、XVI:46、XVI:23)を収めたアルバム。収録は2015年10月、ドイツのハノーファーにある北ドイツ放送(NDR)の放送大ホールでのセッション録音。レーベルはAvi-musicとdeutschelandradioの共同プロダクション。

しばらくLP、もちろん旧譜で手に入れにくいものばかり取り上げておりましたので、ここらで新譜を取り上げませんと、新譜情報を求める読者の期待を裏切りかねません。最近手に入れたものの中でもこれはという演奏でしたので取り上げます。

Markus Becker - Pianist

奏者のマルクス・ベッカーは1963年生まれのドイツのピアニスト。カール=ハインツ・ケマーリング(Karl-Heinz Kämmerling)やアルフレッド・ブレンデル(Alfred Brendel)に師事し、1987年、ハンブルクで開催された国際ブラームスコンクールで1位となりました。また、マックス・レーガーの作品の録音では2000年にドイツ・レコード賞、エコー賞などを受賞しています。また、1993年からはハノーファーの音楽演劇大学の教職にあります。

上に掲載した彼のサイトの録音のページを見るとこれまでにかなりの枚数のアルバムがリリースされていて、バッハからブラームス、シューマンをはじめとして数多くの作曲家の作品を録音していることがわかります。ひときわ目を引くのがマックス・レーガーの12枚に及ぶ作品集。マックス・レーガーとなると、こちらは全くの門外漢ということで、マルクス・ベッカーの奏者の器を計れる立場にありませんね(笑) ということで、このハイドンのアルバムでその器を実感したいと思います。

Hob.XVI:21 Piano Sonata No.36 [C] (1773)
非常に軽やかなタッチの演奏。録音も非常に優秀で空間にピアノがクリアに定位し、ハイドンのソナタの理想的な演奏。あえて低音の重厚感を殺し、中高域のクリアさを強調しているよう。よく聴くと一音一音ごとに絶妙にタッチがキレており、タッチのキレ味で聴かせる演奏。リズムの小気味良さが光り輝く演奏。これは鮮やか。
アダージョに入っても一貫して気持ちよく響くピアノの音色の心地よさ。これがマルクス・ベッカーの持ち味と見ました。ゆったりした楽章でもゆったりし切ることなく、適度にクリアでタイトなピアノの響きの面白さで聴かせるかなりの腕前。全ての音の響きが澄み渡ってて本当に気持ちよく楽器を響かせます。こんな印象を感じたのは初めて。
びっくりしたのがフィナーレ。一音一音のコントラストの見事な演出。完全に全ての指のタッチの強さとタイミングが制御しきれている感じ。しかもさっぱりとした爽やかさを纏う完璧なタッチ。力みは皆無でむしろかなり力を抜いているように聴こえます。ハイドンがこんなにも爽やかな表情を見せる匠のタッチ。1曲からベッカーの爽やかさにやられました。

Hob.XVI:34 Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
ブレンデルの演奏が刷り込みの曲ですが、ベッカーを聴いてブレンデルの響きをデフォルメした演奏の垢が完全に落ちました。この曲も爽やかなピアニズムが聴きどころだったと再発見。相変わらず全音符が完璧に制御され、一音一音のタッチの鮮やかさはもはや神がかってきています。重厚さとは無縁のリズムのキレに惚れ惚れとします。次々とやってくる打鍵の波に打たれるエクスタシー!
アダージョも前曲同様ゆったりすることなくピアノの響きに吸い込まれるような透明感。これほどにタッチのキレを感じた演奏は他にはアムランの演奏がありますが、アムランの響きには青白くひかる狂気のような前衛性を感じるのに対し、ベッカーの演奏は純粋無垢。そしてタッチは冴え渡っているのに、どこかほのぼのとした印象もあり、それがハイドンらしさを感じさせます。響きの余韻に無駄がなく清潔さも保つ見事さ。
そしてジブシー風な3楽章のメロディーから滲み出る独特な雰囲気のセンスも見事。見事。見事。こりゃ参りました。

Hob.XVI:28 Piano Sonata No.43 [E flat] (1776 or before)
次々と演奏されるソナタですが、この曲も冒頭から鳥肌がたたんばかりのタッチの見事さに圧倒されます。まさに音符ごとにタッチが千変万化。なんというコントロール力でしょうか。指一本一本の打鍵の強さとタイミングが超精密に制御され、超自然な響きを生み出します。細密画はどこか不自然な緻密さがあるものですが、その不自然さが皆無な超自然な細密画のよう。しかも写真とは異なるアーティスティックさを帯びているので、絵としての迫力も十分。ハイドンという古典を自然なまま現代アートにも比較し得る作風で蘇らせているよう。ソナタを聴く快感に溺れます。
鳥のさえずりのようなメヌエットの入り。さっと日が陰るとデリケートなニュアンスを帯び、同じ鍵盤からとは思えない音色に変わり、そして再び鳥のさえずりに戻ります。この音色とニュアンスの変化の面白さこそがハイドンの真骨頂。
そして、驚異のタッチを感じるフィナーレ。完璧な制御で絶妙なタッチの連続に再び驚きます。この楽章がこれほど聴きごたえがあったとは。マルクス・ベッカーのもはやマジックレベルのタッチが冴え渡ります。ユッタ・エルンストもビックリ(笑)

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
こちらも有名曲ですが、これまでの演奏の垢を一切感じさせない純粋な響きにちょっと驚きます。音符を重ねる重ね方のアクセントが絶妙な面白さを生み出し、こんな響きがあったのかと改めて気づかされます。新たなハーモニーを発見した気分。特に速いパッセージの流麗なタッチから生み出されるさざ波のような響きの面白さは並ではありません。そして天から星が降り注ぐような高音のメロディーの美しさ、硬質なアクセントのキレ、硬軟織り交ぜた音色の変化。やられっぱなしです。おそらく左手はかなり控えめな力での演奏ですが、それがクリアな響きを生んでいるよう。休符を長く取ることで曲想の変化を印象づけるのではなく、むしろ休符を短くしてタイトな印象を作ってきます。色々発見のある演奏。
この曲でもアダージョの美しさは筆舌に尽くしがたいもの。無言で夜空の星を眺めていたい気分。音符が少ないだけに一音一音の意味を噛み締めて聴きますが、やはりハイドンは天才だと思う素晴らしいメロヂィーの連続。爽やかな演奏から深い深い情感が滲みます。
アダージョの余韻の消え入る絶妙なタイミングでフィナーレに入ります。耳を澄ますと右手の鮮やかたタッチに加えて左手の表情の豊かさもかなりのもの。この爽やかながらイキイキとした表情の秘密がわかった気がします。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
あっという間に最後の曲。聴きなれた曲が新鮮に響くのはこれまで通り。リズムは踊り、メロデイーはクッキリと浮かび上がり、大きな波の変化もあり、そしてそこここに新鮮なハーモニーを感じます。ハイドンのソナタが完全に現代風にクリアに響く快感。しかもエキセントリックなところは全くなく、古びた感じもなく、モーツァルトよりも垢抜けていて、ここに音楽のすべての面白さが詰まっていると言っても過言ではありません。
最後の曲のアダージョはやや叙情的な曲ですが、もちろん純粋無垢な美しさに仕上げてきます。一つとして同じメロディーの繰り返しがないように、演奏の方もニュアンスを次々と変化させながら進み、曲の素晴らしさと演奏の素晴らしさの相乗効果で音楽に深みが宿ります。
フィナーレはむしろあっけらかんとしているほどの吹っ切れ方。最後に純粋にリズムの面白さを印象付けて終わります。

イカしたデザインショップの店員さんのような風貌のマルクス・ベッカーですが、繰り出された音楽は素晴らしいものがあります。ハイドンのピアノソナタにはこれまでにも色々名演奏を紹介してきていますが、このベッカー盤も1、2を争う名盤と言っていいでしょう。タッチの鮮やかさ、制御の完璧さは目もくらむほど。特に爽やかさとクッキリ感は並外れたものがあります。ハイドンの音楽の癒しはこの純粋無垢な演奏の向こうにも広がっていました。すべての人に必聴の名盤です! 評価は全曲[+++++]とします。

色々ストレスを抱えて癒しを求めてる方、癒されてください!

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【新着】ジョン・オコーナーのピアノソナタ集(ハイドン)

今日はピアノの美しい響きをとことん味わえるアルバム。

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ジョン・オコーナー(John O'Conor)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:32、XVI:23、XVI:46、XVI:20、XVI:23)を収めたアルバム。収録は2016年8月29日、ニューヨークのスタインウェイホールでのセッション録音。レーベルはピアノで有名なSTEINWAY & SONS。

最近リリースされたアルバムをチェックしていて、何気なく手に入れたアルバムですが、ピアノメーカーのスタインウェイが自らリリースしているアルバムということで、ちょっと気になる存在でした。世界中の一流のピアニストに弾かれる楽器ゆえ、多くのピアニストの中から、スタインウェイの美音を最も美しく響かせる演奏に違いないとの想像力も働きます。

ピアニストのジョン・オコーナーは1947年、アイルランドのダブリン生まれのピアニストで教育者。ダブリンのベルヴェデーレ・カレッジでピアノを学んだ後、オーストリア政府の奨学金でウィーンに留学、ディーター・ウェーバーの元で学びました。その間、ケンプにベートーヴェンの演奏の教えを受け、1973年にウィーンで開催された国際ベートーヴェンピアノコンクールで優勝、1975年にはベーゼンドルファーコンクールで優勝し、世界に知られるようになったとのこと。今回アルバムをリリースしているスタインウェイとはライバル関係にあるベーゼンドルファーのコンクールで優勝しているのも何かの因果でしょうか(笑)

これまでにリリースされているアルバムを調べてみると、TELARKレーベルからベートーヴェンのピアノソナタ全集、協奏曲全集、モーツァルトの協奏曲全集などがリリースされており、やはりベートーヴェンを得意としているようですね。

ということで、早速聴いてみます。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
流石に最新の録音だけあってピアノの臨場感は素晴らしいものがあります。自然な響きと鍵盤の重みが伝わってくるような録音。このところエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなど、ハイドンの機知をアーティスティックに表現したピアノを聴いてきましたが、このジョン・オコーナーは実にオーソドックスで変な自己顕示欲は皆無。淡々とハイドンの書いた音楽をピアノに乗せていく感じの演奏で、安心して演奏を楽しむことができます。オコーナー自身もリラックスして演奏を楽しんでいる感じ。かといってオルベルツほど枯れてもおらず、程よくバランスのとれた演奏。先生が楽しげに見本で演奏しているような感じ。この「楽しげに」というのが大事なところ。タッチが精緻を極めるわけでもなく、このすっかりリラックスしてストイックさとは無縁の表情がハイドンの面白さを引き立てるわけです。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
軽いタッチで入る曲。まるで朝飯前だとでも言いだしそうなカジュアルな入り。これが曲想にピタリ。よく聴くと一音一音が磨かれていて、流石にピアノの音色は絶品です。1楽章は流れるように一貫して軽めにサカサカ弾き進めていくのが乙なところ。
素晴らしいのが続くアダージョ。軽さを保ちながらも、ぐいぐい響きが深く変化して行きます。デリケートな表情の変化に引き込まれます。音の長さを絶妙にコントロールして曲の一貫性を保ちながら表情を変えていく表現が素晴らしい。
そして軽いフィナーレ。同じ軽さでもわずかな曇りを帯びさせて曲想に合わせているのがわかります。ピアノの響きをリアルに伝える録音だからこそ、こうしたデリケートな変化を味わえます。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
同じく軽くくるのかと思いきや、実に滑らかしっとりとした表情にハッとさせられます。ピアノの響きの表情の変化を実に巧みに表現してくる、さすがスタインウェイという演奏。ふとしたフレーズの切り替えのアクセントの一音の変化で響きが実に新鮮に聴こえます。こうしたところを控え目にさりげなく挟んでくるのが流石なところ。静寂の中に浮かび上がるハイドンのメロディーの美しさが際立ちます。徐々にタッチがチョコがとろけるように流れ出したり、千変万化するオコーナーのタッチに聴き惚れます。この曲からこれまで聴いたことのないような多彩な響きがあふれ出します。
前曲同様、アダージョの美しさは絶品。とりわけピアノの響きの美しさは鳥肌もの。凜と澄んだ夜空に浮かぶ天の川を眺めるよう。細かい星雲に無数の表情が宿り、美しい音楽が心に刺さります。
対比のためにあえて繊細さを避けるようにグイグイとくるフィナーレで曲を引き締めます。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きな曲。入りは意外に少し重め。この短調の入りを厳かなコントラストで強調しようということでしょう。もちろんふと力を抜いたり、さりげないアクセントで曲の変化の面白さを炙り出してくるところはこれまで同様。力の抜き際のタッチの鮮やかさが徐々に印象的になり、曲にグイグイ引き込まれて行きます。最初の重さから徐々にキレてくる絶妙な演出。聴き進むうちにオコーナーの意図がなんとなくわかってきました。
ハイドンのソナタの緩徐楽章の中でも一二を争う美しい楽章。期待どおり、あまりの美しさに言葉になりません。この詩情あふれる楽章がオコーナーの手にかかると、美しさも極まり、一音一音が宝石のごとく輝きます。ピアノという楽器の素晴らしさを思い知らされる感じ。
フィナーレはアンダンテの余韻をすっと断ち切り、気配を一瞬にして変えるマジックのよう。全く異なる音楽の魅力を突合させるハイドンのアイデアとそれを鮮やかに演出するオコーナーの技にやられました。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
最後の曲は唯一晩年の曲。最後は余裕たっぷりに有名曲の演奏を楽しむスタンス。自分の指から繰り出される多彩な響きを自ら楽しんでいるよう。ピアノの余韻が消え入る美しさを存分に味わえます。聴き進むうちに後年の作曲であるアンダンテと変奏曲を先取りするような曲想を感じさせる大きな構えの音楽であることに気づきます。
そして、絶妙な軽さのタッチでのロンド。このタッチの変化の幅の大きさと自然さがオコーナーの魅力でしょう。重さも軽さも自在に使い分けながらピアノという楽器の表現の幅を生かしきった演奏。ハイドンだけにダイナミクスの表現の幅は上品な範囲でこなしていくところが良識的です。最後はカッチリとした響きで締めました。

ベテランピアニスト、ジョン・オコーナーによるハイドンのソナタ集。最初はオーソドックスな演奏かと思いきや、これは深い演奏です。途中で触れたように、最近聴いたエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなどハイドンの曲に潜む機知をアーティスティックに表現した演奏とは表現の方向が異なり、自然な美しさの範囲での表現ですが、円熟の技がもたらすその美しさはかなりのもの。ピアノメーカーであるスタインウェイがリリースするアルバムだけあって、ピアノという楽器がもつ響きの美しさを存分に活かした演奏となりました。これはこれで素晴らしいもの。非常に気に入りました。XVI:20も良かったんですが、その前のXVI:46は、この曲の素晴らしさを改めて知ることになった秀演です。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

これほど美しい音色ゆえ、できればSACDでリリースすべきでしょうね。

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友田恭子のピアノソナタ集(ハイドン)

今日は久しぶりの日本人演奏者のアルバム。また一枚、名演盤をみつけました。

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友田恭子(Yasuko Tomoda)のピアノによるハイドンのピアノソナタ4曲(Hob.XVI:42、XVI:37、XVI:34、XVI:46)と、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の合わせて5曲を収めたアルバム。収録は2002年8月28日から30日、青森県鯵ヶ沢にある音楽ホール、日本海拠点館あじがさわでのセッション録音。レーベルはコジマ録音というマイナーレーベル。

このアルバムの奏者である友田恭子さんはもちろんはじめて聴く人。売り場でこのアルバムをみつけてコレクションにないものということだけで、たまたま手に入れたものですが、帰ってライナーノートを読んでみると、この友田さん、アルバムリリース当時は青森県の明の星高校の音楽科の非常勤講師。青森の高校の音楽の講師が青森のホールで録音したアルバムということで、なんとなくアルバムの立ち位置を勝手に想像して、さして期待もせず聴き始めましたが、一音目からあまりに研ぎすまされた響きにのけぞりました。なんたるギャプ! いや、これは素晴しい演奏です。青森県はハイドン王国なのでしょうか?

あらためて友田さんについて調べてみました。彼女のサイトがみつかりましたので、紹介しておきましょう。

ピアニスト友田恭子 Official Website

出身は桐朋学園大学で、卒業後ヨーロッパに渡り、いくつかのコンクールで入賞し、ソロや室内楽、オケとの共演などヨーロッパでの演奏活動ののち1992年に帰国。国内では東京、大阪、神戸、青森などでリサイタルを開いたり、ペレグリーニ四重奏団と共演するなどの活動を行っているとのこと。姉の笠原純子とのピアノデュオではヨーロッパでもリサイタルを開き評判をとったそうです。レコーディングはおそらくこのハイドンのソナタ集がデビュー盤で、他にモーツァルトのソナタ集が4枚、笠原純子とのデュオによるシューベルトなどの録音があります。モーツァルトのソナタ集は評価が高いようで、ピアノ好きな方の間では知られた存在なのかもしれませんね。

このアルバム、ハイドンのソナタの中から詩的な響きの美しい曲を選りすぐった選曲。曲の並びからも並々ならぬ意気込みが伝わってきます。

Hob.XVI:42 / Piano Sonata No.56 [D] (c.1783)
実に落ち着いたタッチで入ります。広めのホールに気持ちよく広がる残響をうまく捉えた録音。ライヴで聴いているような実体感のあるピアノの音が美しく響き渡ります。奏者も録音スタッフもハイドンのピアノソナタが美しく響くツボををよく理解しているような素晴しい録音。右手のメロディのきらめき感がポイント。リズムも落ち着いてしっとりとしたもの。曲の美しさを知り抜いた人のさりげない演奏と言う感じ。岩清水のような清澄さに溢れています。濃い音楽ではなくあくまでも清らかさを主体とした日本人奏者ならではの研ぎすまされた感覚です。

Hob.XVI:37 / Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
キレのいいタッチが印象的な入り。実にオーソドックスな演奏ながら、音楽が適度に弾んで豊かに展開します。さりげないパッセージにも音楽が息づいているあたり、この奏者の力量が示されている感じ。良く聴くと大きな流れの起伏もしっかりついて、しかもディティールの磨き方も非常に自然なもの。この曲でも2楽章のラルゴの、沈みながらもほのかに明るさを保ったフレージングの見事さに上手さが光ります。一貫して爽やかさを保ちながらの詩情の表現。音の流れ、時の流れに身を任せながらゆったりと楽しめます。
たっぷりと間をとって、その間の気配をふまえたフィナーレの入り。このしなやかながら鋭敏な感覚。狂気を感じるようなキレではなく実におだやかな鋭敏さ。最後も爽やかな余韻で終わります。

Hob.XVI:34 / Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
刷り込みはブレンデルの磨き込まれた演奏ですが、友田さんの演奏も磨きこまれ方は劣りません。ただ、日本人らしい爽やかさを基調としている根底のところが違うだけ。左手のアクセントもブレンデルの厚みのある強靭さには及びませんが、逆に、バランスを保った強さと言う意味でいいところを突いています。和音の変化の余韻が美しいので、聴き飽きません。
楽章間のコントラストは程々に、ゆったりとしたアダージョに入ります。淡々と進めながらも儚い美しさ、高音のきらめくような音階の美しさをうまく表現しています。フィナーレに入ると意図的なのか、ちょっとタイミングをはずすような休符で変化をつけ、緩急の変化の面白さを引き出します。やはりフレーズ毎の描き分けも見事なので、詩情も濃くなります。

Hob.XVI:46 / Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
終盤にちょっと響きの変わった曲を配置。この曲で際立つのは速いパッセージの音階の鮮やかなキレ。曲ごとの聴かせどころを踏まえて、実に巧みな演出。この曲こそ緩急の面白さが際立ちます。この縦横無尽な音階をさらりとこなすあたり、テクニックはかなりのものと見受けました。
この曲でもアダージョの美しさは格別。オーソドックスなのに音楽が溢れてくる名演奏。音数が少ない曲ゆえ、一音一音の磨き抜かれた響きの美しさがグッと沁みます。あえて音量を落として夜空の星の瞬きのような深みを感じさせます。ほんのりと暖かい音楽に移り変わって行くところの変化の見事さ。フィナーレは今までで一番快活。グイグイ来ます。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後に傑作をもってきます。ここまでの演奏ですっかり聴き惚れてますので演奏スタイルは予想がつくものの、実際に曲が進み、美しいメロディーが変奏となって交錯するところの美しさはなみなみならぬもの。メロディーの描き方が上手いので、音楽が淀まず、清潔感ただよう色気のようなものに聴き惚れます。これまでのソナタで聴かせた清澄な印象は決して構成の弱さなどにつながらず、むしろ美しさを際立たせる方向に作用して、独特の輝きを生んでいます。このアルバム、冒頭にもふれましたが録音が素晴しく、ピアノの響きの美しさと実体感をともに感じる理想的なもの。鯵ヶ沢町のホールでの録音ですが、有名なラ・ショー=ド=フォンで録ったといわれてもおかしくない仕上がり。演奏は最後までゆるまず、素晴しい緊張感がつづきました。

まったく知らなかった友田恭子さんのハイドンのソナタ集。レビューを読んでいただければわかるとおり、大変気に入りました。選曲も演奏もハイドンの面白さを知り尽くした人のものと唸らされるもの。日本人らしい清らかな響きに彩られたハイドンのソナタの演奏として広くオススメできます。評価はもちろん全曲[+++++]とします。友田さんには是非ハイドンのソナタ集の続編の録音を期待したいところです。最近ではダリア・グロウホヴァのショパンのようなハイドンのピアノソナタ集が印象に残っていますが、それに劣らず、日本らしい美しさを帯びたハイドンとして全世界にその素晴らしさを問いたいものです。友田さん、レコード会社の方、是非ご検討ください!

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ハイドンの時代の響き パウル・バドゥラ=スコダのフォルテピアノ作品集

今日は今まで取りあげていなかった著名演奏家のアルバム。

BaduraSkoda46.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

パウル・バドゥラ=スコダ(Paul Badura-Skoda)のフォルテピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:46)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)、ピアノソナタ(XVI:20)、「神よ皇帝フランツを護りたまえ」変奏曲(III:77)、アダージョ(XVII:9)の5曲を収めたアルバム。収録は2008年10月18日から19日、オーストリアのリンツの南にある街クレムスミュンスター(Kremsmünster)のクレマグ城楽器博物館でのセッション録音。レーベルは仏ARCANA。

楽器博物館での録音というのもこのアルバムに使われている楽器自体がポイントになります。ライナーノーツを開くとハイドン自身の言葉が紹介されています。

「シャンツこそ最も優れたフォルテピアノ工房である」

ここに書かれたシャンツとはこの録音に使われているウィーンのヨハン・シャンツ(Johann Schantz)のことで、録音にはシャンツの1790年頃製作のオリジナル楽器が使われているとのことです。

ハイドンのピアノソナタの演奏にはクラヴィコードやスクエアピアノ、ハープシコード、フォルテピアノなど様々な古楽器による演奏があり、楽器の音色によって醸し出される表情は大きく変わります。はたしてハイドンの好んだ響きが浮かび上がるのでしょうか。

演奏者のパウル・バドゥラ=スコダは1927年ウィーンに生まれたピアニスト、音楽学者。彼とイェルク・デームス、フリードリヒ・グルダの3人を称して「ウィーン三羽烏」と呼ぶそう。ウィーン音楽院で学び、1947年にオーストリア音楽コンクールに優勝して頭角を現しました。それをきっかけにエトヴィン・フィッシャーに師事することととなります。その後、1949年にフルトヴェングラー、カラヤンなど当時の一線級のの指揮者と共演を重ね、国際的な活躍をするようになり、1950年代には来日もしているとのこと。レパートリーはもちろんウィーン古典派が中心となりますが、とりわけモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトを得意としているようですね。1976年にはオーストリア政府よりオーストリア科学芸術功労賞を授与されています。

これまでもバドゥラ=スコダのハイドンは何枚か持っていて聴いてはいるのですが、わかりやすいキャラクターというものが感じられず、実に堅実かつ地味に弾く人との認識です。フォルテピアノは奏者によっても響きが千変万化し、シュタイアーの自在さ、ブラウティハムのダイナミックさ、ピノックの緊張感ある規律など人それぞれ。バドゥラ=スコダの音楽の根底にあるのは、時代への誠実さでしょうか。

Hob.XVI:46 / Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
比較的近めに定位するフォルテピアノ。残響はどちらかというと少なめで、狭い部屋で間近で聴いているようなリアルな音像。楽器のせいか演奏のせいか、低音は あまり鳴らずに中高音の鮮明な響きが印象的なものです。リズミカルに躍動するメロディーが特徴のこの曲の入りですが、バドゥラ=スコダは虚心坦懐な表現。淡々と楽譜をこなしさらさらと弾いていく感じ。アクセントをつけようとかフレーズを上手く聴かせよう等ということは一切考えずに、ただただ、淡々と弾いて いく感じ。速い音階もちょっとごつごつとして引っかかりもあります。曲のデュナーミクの波も意図してコントロールする感じではなく、自然に任せるようで す。まるでハイドンが練習でもしているようです。そう、演奏家の演奏というよりは作曲家が音符を確かめているような演奏。聴いているうちに自然な佇まいに慣れていきます。
アダージョも変わらず淡々としていますが、曲想がマッチして枯淡の境地。途中楽器の音色を何度か変えて表現の幅を広げますが、基本的に淡々と弾いているので、解脱した人の演奏のよう。独特の味わいがありますが、聴いている人に合わせた表現ではなく、自らが慈しむために弾いているよ う。聴いているうちに、バドゥラ=スコダの意図がなんとなくわかってきました。
フィナーレも同様。ピアノでは素晴らしい聴き映えのする曲ですが、フォルテピアノの限られたダイナミクスのなかでの表現で、しかもさらさらと弾流すような独特の演奏で、この曲の違った一面を感じるよう。

Hob.XVII:6 / Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
次は大曲XVII:6。名曲ゆえ録音も多く、ハイドンの時代からベートーヴェンへの橋渡しのような位置づけの曲。冒頭の短調の入りから、前曲よりかなり繊細なタッチで音色をコントロールしていきます。フレージングの根底には前曲同様さらりとしたものがありますが、明らかに表現が丁寧になります。ダイナミクス の変化はあまりつけずに淡々と行きますが、音色の変化でかなりはっきりとしたメリハリがついて、なかなか聴き応えがあります。この楽器、高域の音がツィンバロンのような音色で、高域の音階がクッキリと浮かび上がります。最後は抑えた部分と楽器の音色の変化を織り交ぜて大曲のスケール感をしっかりつけに行 き、ダイナミックさも聴かせてから、さっと汐が引くように終わります。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
名曲つづきでXVI:20。ピアノで聴き慣れた曲ですのでちょっとフォルテピアノの演奏は不利でしょうか。ちょっとテンポが重い部分が引っかかりますが、この曲独特のきらめくようなメロディーラインはうまく表現されています。この曲は年老いたハイドンが昔を慈しみながら自ら弾いているような風情。指がまわっていない感もちょっとありますが、音楽的にはなんとなく味わい深い方向に作用していて、それほど悪くありません。時折バドゥラ=スコダの息づかいやうなり声のようなものがうっすら聴こえます。
2楽章のアンダンテは意外となめらかなタッチでフォルテピアノならではの美しさを表現。速めのテンポでさらさらいくところはバドゥラ=スコダならでは。ちょっとハイドン時代にトリップした気分にさせられます。メロディが最高域を奏でる部分では楽器の限界も聴かせますが、それもハイドンの時代の楽器ならではのことでしょう。
フィナーレはザラザラと弾き進めていくいつものバドゥラ=スコダスタイル。この拘りなく音符をどんどん弾いていくスタイルが定番ですね。最後の一音もさっと響きを止めてしまうあたりが面白いです。

Hob.III:77 / String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartett" 「皇帝」 [C] (1797)
このアルバム、選曲は本当に名曲揃い。現ドイツ国歌として有名なメロディーによる変奏曲。演奏を聴けというより、曲自体を聴けといっているよう。あまりに拘りなくサクサクとすすめていくがかえって新鮮です。意外にこの曲、バドゥラ=スコダの演奏スタイルに合ってます。

Hob.XVII:9 / Adagio [F] (before 1792)
最後も好きな曲。ブレンデルの演奏を愛聴してますが、ブレンデルの透徹したピアノが静寂のなかに消えていくような絶妙の演奏に対して、バドゥラ=スコダは一貫して淡々としたもの。ある意味予想どおりの演奏です。美しい曲の儚さを、儚い美しさではなく、時の儚さ、表現の儚さと一歩踏み込んでいるよう。

なんとなくとらえどころのない演奏をする人との印象があったバドゥラ=スコダですが、このアルバムを聴いて、ちょっと演奏スタイルが見えたような気がします。古楽器の演奏ではブラウティハムなど、楽器の響きをどうやって美しく聴かせようかということに集中しているのに対し、バドゥラ=スコダはその対極のスタンスでしょう。視点は演奏家ではなく作曲者の視点のよう。ハイドン自身になりきって、曲の構造や着想、メロディーをまるで作曲者自身がさらって演奏しているような演奏です。響きへのこだわりではなく、頭の中で鳴っている音楽を、ひとつひとつ確認していくようです。このアルバム、選曲はまさに名曲揃いで初心者向けですが、演奏は玄人向けです。ハイドンのピアノソナタをいろいろな演奏で聴き込んだ、違いのわかる人にこそ聴いてほしい、このさりげなさ。私は、聴いているうちにちょっと気に入りました。磨き抜かれた演奏もいいですが、たまにはこういった演奏もいいものです。評価は全曲[++++]としました。

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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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