ピエール=ロラン・エマールのゴルトベルク変奏曲(紀尾井ホール)

3月21日春分の日は、前々日に続き紀尾井ホールへ。

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紀尾井ホール:ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル

現代音楽も嫌いではない私は、ピエール=ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard) はかなり気になる存在でしたがこれまで実演を聴く機会には恵まれていませんでした。録音も手元にあるのはブーレーズやメシアンなどの作品集にエマールが参加しているものの他にはアーノンクールとのベートーヴェンのピアノ協奏曲集があるくらいで、膨大な録音を誇るエマールの録音のごく一部を知るにしか過ぎません。ということで今回は3公演のチケットを取り、これが2つ目。前々日にカンブルランと読響にエマールも加わった現代音楽のコンサートを聴いてますが、エマールは2曲目のメシアンでピアノパートに加わった程度。このコンサートはバッハを弾くということで特に興味をそそられチケットを取ったもの。プログラムのメインはバッハですが、前半はエマール得意の現代音楽です。

オリヴァー・ナッセン:変奏曲 Op.24
アントン・ウェーベルン:変奏曲 Op.27
ジョージ・ベンジャミン:シャドウラインズ - 6つのカノン風前奏曲
バッハ:ゴルトベルク変奏曲

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この日は祝日のマチネーということで、いつものアルコールではなくアイスコーヒーで覚醒して、コンサートに臨みます。

ロビーの掲示によるとプログラムは変わりませんが、演奏順序が変わり、1曲目と3曲目が入れ替わり1曲目がオリヴァー・ナッセンの変奏曲とのこと。現代音楽のコンサートはプログラムの解説が頼りということで、開演前に目を通してナッセンの曲の解説を読んでびっくり。オリヴァー・ナッセン、昨年2018年に亡くなっていたんですね。ナッセンは武満の信奉者として知られ、2016年の武満没後20周年記念コンサートでタクトを取っていた記憶が鮮明に残っています。巨体を揺らしながら武満の透明感あふれる響きを繰り出す見事な手腕はまさに武満の真髄を知り尽くした人だから繰り出せる音楽。このコンサートの模様はライヴ収録され、素晴らしい音質でリリースされており、コンサートレポートと、アルバム自体の双方記事にしています。

2017/11/26 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】没後20年武満徹オーケストラコンサート
2016/10/16 : コンサートレポート : 没後20年武満徹オーケストラコンサート(東京オペラシティ)

在りし日のナッセンの姿を思い出しつつ1曲目を聴きます。黒のシックな衣装に身を包んだエマールは、拍手に軽く会釈すると、譜めくりの男性が楽譜をピアノに置くやいなやさっと演奏を始めます。コンサートで演奏するというよりは、自分のために演奏しているよう。明晰なタッチから繰り出される漆黒に輝く芯の強いピアノの音色はエマールならでは。ナッセンの曲は常人には判別しがたい12の変奏で構成される曲ですが、エマールはほっぺたを膨らまして深く呼吸しながら、楽譜に封じ込められた音楽と対峙する修行僧のように恐ろしいばかりの集中力で演奏していきます。グールドのように時折音楽を口ずさみながらの演奏。7分少しの時間があっという間。最後の音が消えると曲の終わりだとわかり、観客からの拍手に包まれますが、軽く会釈するだけで、次のウェーベルンの演奏が始まります。

このウェーベルンはエマールにとって特別な曲なのでしょう。先ほどのナッセンの曲では楽譜と首っ引きでしたが、このウェーベルンでは楽譜に目をやることは少なく、まるで自分の体から音楽が湧き出てくるような演奏スタイル。録音など耳からの情報では極めて冷静に聴こえるエマールの演奏ですが、実演では体を大きく動かし、ある種の特別な感情移入が突き抜けている感じ。ミクロコスモスのように凝縮されたウェーベルンの音楽がイキイキと聴こえてくるから不思議です。

そして3曲目は現代イギリスの作曲家ジョージ・ベンジャミンの作品。エマールによって2003年に初演された曲。6曲からなるカノンの手法で作曲された曲。この曲は超絶的な技巧が必要でしょう。いくつものメロディーが同時に進行するような複層的な表情を持つ曲。抽象的なメロディーが知らぬ間にあちこちに流れており、耳がそれに気づくように始終探査していなければならないような緊張感を持つ曲。エマール独特の鋭い高音域の強音が轟いたかと思うと微弱音で別のメロディーが全く異なるテンポで流れているといった具合。前半3曲はどの曲も短い曲ながら、エマールの技巧と前衛的な気風が際立つ選曲で、エマールの圧倒的な存在感を実感した次第。紀尾井ホールの観客もエマールの超絶的な集中力に圧倒されたことでしょう。

休憩後はお目当のゴルトベルク変奏曲。刷り込みはグールドの旧新両盤ですので、長くても50分くらいかと高を括っていたら、結局1時間20分くらいの演奏でした。冒頭のアリアから明らかにエマールの音とわかる鋭いタッチによる研ぎ澄まされた響きと、明らかに独墺系のピアニストの演奏とは異なる色彩感。エマールの集中力はここでも凄まじいもので、楽譜の中のバッハの音楽と対峙する修行僧のごとき凄みがあります。どこか現代音楽へのアプローチに似て、バッハの書いたメロディーの一音一音をただのメロディーとしてではなく、意味ある音の塊として微視的に変化をつけていくようなところがあり、対位法や変奏を浮かび上がらせるアプローチとは異なり、バッハとしては少々の違和感を感じたのも正直なところ。ただし、気迫に満ちたエマールの迫力にグイグイ引き込まれ、長大な演奏にも関わらず集中して聴き続けられました。終盤から最後のアリアに帰ってくるところの安堵感は登った山の高さを実感するような気分。アリアの最後の一音の余韻が途切れたところで紀尾井ホールの観客の盛大な拍手に包まれました。

エマールも最後は観客の熱気のこもった拍手に何度も深く礼をして応じて、満足げな表情でステージを去りました。アンコールはありませんでしたが、精魂込めた演奏だけにアンコールに応じる余力はなかったでしょう。実演を通してわかったのは、先鋭冷静な録音のイメージとは異なり、かなり体を動かし、またかなり唸りながら演奏すること。あのエマールのキレの良い響きを繰り出すのは冷静なタッチではなく絞り出すような作業からだったということ。そしてクリアというか深い輝きを持つキレの良い高音は大きな手による強靭なタッチから生み出されていること。そしてそれらは類稀な集中力から生まれていること。エマールという人の音楽に少し近づけた気がします。

さて、週末はエマール3発目のコンサートです。



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tag : ナッセン ウェーベルン ベンジャミン バッハ

アントニーニ/読響による「軍隊」など(東京芸術劇場)

16日火曜日に続き、20日土曜はアントニーニの振る読響のコンサートを聴いてきました。

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読売日本交響楽団:第211回土曜マチネーシリーズ

火曜日はハイドンは歌劇「無人島」序曲だけだったんですが、この日は「軍隊」と本格的な曲がプログラムされ、しかもハイドンがとりを務めるというアントニーニらしい選曲。

ヴィヴァルディ:ドレスデンの楽団のための協奏曲(RV577)
ヴィヴァルディ:マンドリン協奏曲(RV425) マンドリン:アヴィ・アヴィタル(Avi Avital)
J.S.バッハ:マンドリン協奏曲(BWV1052) マンドリン:アヴィ・アヴィタル
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲(RV443) リコーダー:ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)
ハイドン:交響曲100番「軍隊」

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この日はサントリーホールではなく、池袋の東京芸術劇場。同じ指揮者、オケでもホールが違うと響きがだいぶ違いますのでそのあたりがどう演奏の印象に影響するのかというのも聴きどころですね。

マチネーということで開演は14時。芸劇のマチネーの時には芸劇の1階のカフェで食事をしてコンサートに臨むのが習慣になりつつあります。お昼に到着してホールに上がるエスカレーターの裏のカフェでランチをいただきます。

食べログ:ベルギービール カフェ ベル・オーブ 東京芸術劇場

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お昼時だったので席に着くまでちょっと待ちましたが、5分ほどで座れ、まずはビールとスパークリングワインをいただきます。

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頼んだのはハンバーグにハヤシライス。ここは基本的に何を食べても美味しいですよ。

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ハヤシライスは牛スジを煮込んでコクがありました。

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お昼すぎについて、しばらくゆっくりして落ち着いてホールに上がります。

この日の席は2階席のやや右手。オケを遠くから見下ろす席でした。芸劇とサントリーホールはどちらも客席数約2000席で規模は変わらないんですが、サントリーがご存知のようにステージを囲うような客席で席からステージが比較的近いのに対し、こちらの東京芸術劇場は縦に長い構造のためステージが遠く感じます。席の位置の関係もありましたが、この違いが演奏の印象に結構大きな違いを生みました。

客席はほぼ満員。この日のプログラムはヴィヴァルディの比較的マイナーな曲がメインにしてはお客さんの入りはいいですね。やはりアントニーニの知名度が集客に大きく働いているのでしょう。

この日もコンサートミストレスは客演の日下紗矢子。1曲目のヴィヴァルディのドレスデンの楽団のための協奏曲ではヴァイオリンなどソロ楽器を立たせて協奏交響曲のような布陣。火曜のコンサートでは出だしの「無人島」序曲からフルスロットルの演奏だったのに対し、このヴィヴァルディは典雅に音楽を流す感じでテンションがだいぶ異なります。アントニーニは腰を落とすことなく、リズムを少々煽り気味に曲に緊張感を与える程度。ホールの容積に対してオケも小編成のため、アントニーニに期待される前衛的な踏み込みよりも、心地よくキレのいい音楽が流れるように聴こえます。オーボエとファゴットのソロが活躍する曲で、日下さんのヴァイオリンを含めてソロのレベルは非常に高く、引き締まった演奏にまとまりました。

続く2曲目はマンドリンがソロを務めるマンドリン協奏曲。マンドリン協奏曲とは非常に珍しく、私も初めて聴く曲。マンドリンという楽器がオケに対して音量的にソロとして目立つ存在となるかという点も危惧しましたが、結果的には全く問題ありませんでした。というのも伴奏は基本的にピチカートでの伴奏故、柔らかな音色の響きでの伴奏でマンドリンのメロディーにかぶることはありませんでした。この曲はもとよりマンドリンのために書かれた曲ということで、ヴィヴァルディもそのあたりをしっかり考慮して書いたということでしょう。解説を読むとヴィヴァルディがマンドリンのために書いた協奏曲はこの曲1曲のみとのこと。マンドリンのアヴィ・アヴィタルのマンドリンは音量、コントラスト、リズムのキレとも見事で、この短い曲の魅力がよくわかりました。帰って調べてみたところDGからアルバムがリリースされており、その道では有名な人なのでしょう。末尾に参考アルバムとしてリンクをつけておきました。アントニーニはここでもマンドリンを引き立てることに徹している感じで、腰は立ったままでした(笑)

ヴィヴァルディに続いて大バッハのマンドリン協奏曲が続きますが、バッハにマンドリン協奏曲があったかと思うと、これはチェンバロ協奏曲1番をアヴィタルがマンドリン用に編曲したものとのこと。こちらは聴き慣れた曲。ヴィヴァルディの方はマンドリン用に書き下ろしたということでマンドリンの音色と音楽性を活かし切ったものだったのに対し、こちらのバッハの方はマンドリンの音色の面白さは活きていたものの、音階の鮮やかさや速いパッセージの切れ味はチェンバロには及ばずという印象も残しました。こちらは古楽器オケの演奏はいくつも聴いているため、現代楽器のオケでの演奏で、ソロが古楽器で音色の澄んだマンドリンということで、ザラついたオケの感触がなく、ソロが浮かび上がるということで意外にいい響きに聴こえます。ただアントニーニはこの曲でも攻めてくる感じはせずキレ味を感じさせるのみ。マンドリンは速い音階が多い分技術的にはかなり高度なものがあり、最難部分では少しテンポを落とすことでその苦労を共有するような演出。バッハは古楽器演奏の刷り込みが多い分、マンドリンの音色の面白さを味わえるところはあるもののバッハの真髄に迫るという感じまでには至りませんでした。それでもお客さんはもちろんマンドリンの妙技に拍手喝采。

アンコールはちょっとクラシックのレパートリーではなさそうなアヴィタルの演奏に会場が釘付けになる素晴らしいものでした。終演後に張り出されたアンコール曲の張り紙には「アヴィタル:プレリュード(Bucimis)とありましたが、Bucimisを調べてみると、「ブチミシュ(Bučimiš)」とありブルガリア(西トラキア)地方で踊られる15/16拍子のダンスのこととのこと。こちらもベストアルバムに収録されていましたのでリンクを貼っておきます。

休憩を挟んでヴィヴァルディをもう1曲。

今度はアントニーニ自身がリコーダーソロを受け持つヴィヴァルディのリコーダー協奏曲。この曲も初めて聴きます。アントニーニは指揮台の横のソロが立つ席にリコーダーを持って立ち、すっと首を振って演奏に入ります。かなり小さなリコーダーですので、ソプラノあるいはソプラニーノでしょう。冒頭からリコーダーソロが大活躍。この曲は晴朗快活なアレグロ、リコーダーの哀愁漂うメロディーが印象的なラルゴ、アントニーニの指づかいの限界まで攻めるフィナーレで10分少しの小曲ですが、マンドリン同様、ソロの超絶技巧で聴かせる曲。関心はオケよりもソロに集まります。アントニーニはリコーダーソロで指が追いつかなくなる寸前まで攻めまくり(笑) こう来るとは思いませんでした。

そしてようやく最後のハイドンです。リコーダー協奏曲の演奏が終わるとステージ中央に置かれたチェンバロがステージ脇に移動され、オケも人数が増え、ようやくティンパニやグランカッサ、シンバルの出番です。アントニーニの進行中の交響曲全集の録音ではこれまでパリセット以降の曲の収録には至っておりませんので、ハイドンの大曲においてアントニーニがどのような演奏をするかを初めて聴くことになります。もちろん脳裏には数日前に聴いた、キレキレの「無人島」序曲とベートーヴェンの交響曲2番の余韻が残っておりますので、ようやくこの日のメインディッシュに至り、聴覚に全神経を集中させて聴き始めました。

ぐっと腰をかがめて入るかと思いきや、1楽章は意外に抑えた入り。序奏のコントラストをくっきりとつけて来るかと思いきや、それほどでもなく、金管を唸らせてくるかと思いきやこちらもそれほどでもなく、均衡を保ち、ティンパニも時折り皮を破らんばかりに強打する岡田さんも、そこまで力を入れない感じ。これは後半にクライマックスを持ってくる計算が働いているのではと察します。続く軍隊の行進場面のアレグレットでも、同様。もちろんアントニーニ風にくっきりとした表情と前衛的な雰囲気を漂わせるのですが、現代オケでは音量を上げて迫力で聴かせる終盤の盛り上がりも明らかにフルスロットル寸前で抑えているよう。パーカッション陣の表情を見ていてもそのことがわかります。
アントニーニの動きに少々変化が見られたのがメヌエットから。明らかに少しコントラストを上げ、オケに対する指示も綿密になってきます。ハイドンの真髄はメヌエットにありとの確信があるよう。挟まれるトリオとの表情のコントラスト、低音弦のゴリっとした感触もはっきりしてきました。
そして、やはりフィナーレに入るアントニーニ、腰が落ちてきました! しかも弱音部をかなり音量を落としてコントラストを最大限に高めようという意図も汲み取れ、オケを煽り始めます。きましたきました! ハイドンの書いた当時は最前線を行っていた音楽を現代の最前線に持ってくるように、オケを煽りまくるアントニーニ。読響の方もアントニーニのギアチェンジに鋭敏に反応してテンションを高めます。この終楽章に明確にポイントを置いたアントニーニの戦略に会場のお客さんも身を乗り出して聴き入ります。そして最後のクライマクッスへ向けて集中。ティンパニ、シンバル、グランカッサ奏者も先ほどまでと力の入り方が違い最後は風圧を感じさせて締めます。

やはりアントニーニが振ると読響の響きが引き締まります、ヴァイオリンのソロの場面の多いプログラムでしたので、古楽にも通じる音色を持つ日下さんが合っていましたね。そしてハイドンはやはりアントニーニの才能を感じさせる素晴らしいものでした。惜しむらくは席が遠かったのとホールの容積がこの規模のオケには大きすぎたのか、飽和感を感じさせるまでに至らなかったことでしょうか。響きの印象はサントリーホールとは大きく異なりました。今回、アントニーニ自身も読響に対していい印象を持ったことでしょうから、この先も客演の機会はあろうかと思います。その際には是非、サントリーホールでの演奏を期待したいと思います。



(参考アルバム)




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トン・コープマン/アムステルダム・バロック管のロ短調ミサ(すみだトリフォニーホール)

9月8日土曜はチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

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トン・コープマンプロジェクト2018

いつものようにコンサートでもたったチラシから選んだもの。トン・コープマンが手兵、アムステルダム・バロック管弦楽団と来日して、しかも曲目は好きなバッハのロ短調ミサということで迷わずチケットを取ったもの。

コープマンの素晴らしさを知ったのはモーツァルトのK.136を聴いてから。他の演奏とはレベルの異なるしなやかさと高揚感。この特徴はモーツァルトに合うようで、そのリリースされているモーツァルトの交響曲を色々手に入れて楽しみましたが、最も感銘を受けたのは交響曲23番。当時の古楽器の繊細さと精緻な響きのトレンドとは逆に流麗豊穣かつ湧き上がるような躍動感に満ちた素晴らしい演奏。

もちろんコープマンはハイドンの協奏曲や交響曲を多数録音しているので、レビューでも何度か取り上げています。

2017/09/03 : ハイドン–室内楽曲 : トン・コープマンのクラヴィーア四重奏曲集(ハイドン)
2011/01/14 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】コープマン3度目のオルガン協奏曲
2010/09/23 : ハイドン–交響曲 : 新着! コープマンの97、98番

ハイドンの録音はコープマンがハープシコードやオルガンの独奏者を務める室内楽や協奏曲は素晴らしいものばかり。一方交響曲も初期の1枚、パリセットから1枚、ザロモンセットからから1枚リリースされていますが、コープマンらしい流麗な演奏であるものの、それほど印象的な演奏ではありません。それぞれシリーズ化されそうな体裁ながら1枚で終わっているのもそうしたことに起因しているかもしれませんね。

生では、オルガンのソロコンサートを一昨年に聴いています。

2016/06/23 : コンサートレポート : トン・コープマン オルガン・リサイタル(ミューザ川崎)

前置きが長くなりましたが、この日のコンサートはオルガンの独奏曲1曲とロ短調ミサ。

J.S.バッハ:「小フーガ」 ト短調(BWV578)
J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調(BWV232)

指揮・オルガン:トン・コープマン(Ton Koopmam)
ソプラノ:マルタ・ボス(Martha Bosch)
カウンターテナー:マルテン・エンゲルチェズ(Maarten Enngeltjes)
テナー:ティルマン・リヒディ(Tilman Lichdi)
バス:クラウス・メルテンス(Klaus Mertens)
アムステルダム・バロック合唱団(Amsterdam Baroque Choir)
アムステルダム・バロック管弦楽団(Amsterdam Baroque Orchestra)

土曜のコンサートということで、いつも通り開場時間前にホールに着くと、ホールの前の暗い廊下に行列ができています。開演時間前の気分は意外と重要で、サントリーホールやオペラシティの前は明るい広場になっていて待つ間も閉塞感はありませんが、ここは開演前に並ぶのは苦痛ですね。ホールの内部も含めてホールの収容人数にしては空間が狭く、設計者がコンサートを楽しむ人ではなかったのだろうと想像しています。

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列にしばらく並んでゾロゾロと入場したので、まずは喉を潤しにロビーの上の階にある北斎カフェに直行(笑)

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ビールにワインにサンドウィッチを頼んで一休み。ビールは冷えた陶製のビアグラスが添えられていて、これはグーです。ワインも軽めながら風味豊かでこちらもグー。そしてサンドウィッチは北斎の浮世絵をあしらったもので、またまたグー。カフェのサービスはいいですね。

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狭いながらも、カフェスペースは明るい吹き抜けがいい感じです。

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この日の席は3階席。ホワイエの階段を一番上の階まで昇って席に向かいます。

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席からの眺めはこんな感じ。かなり個性的なホールの形状が良くわかります。お客さんの入りはほぼ満員と流石の集客力。

開演時刻となり、場内の照明が落ちたと思うと、ステージ上のオルガンの脇からコープマンが登場。観客に会釈してオルガンの前に座ると、1曲めの小フーガが始まります。誰でもが知っている聴き慣れたメロディーが重厚なオルガンの響きでホールを揺るがします。コープマンのオルガンは一昨年ミューザで聴いていますが、構えるところなくグイグイ弾き散らかしていくがごとき勢いが魅力なんでしょう。この日の演奏も指が回りきっていないところなど構いもせず勢いを落とさず轟音を轟かせていきます。わずか数分の演奏で、大曲ロ短調ミサの前にこの曲を演奏しなくてもいいとは思いますが、コープマン自身が演奏することが楽しいのでしょう。演奏が終わって拍手に包まれると、いつものように満面の笑顔で観客の拍手に応えていました。

コープマンがオルガンの前から退場して、しばらくすると、今度はステージ上にオーケストラが静かに入場。入念なチューニングを終えると今度はコーラスが入場。最後に歌手とコープマンが登壇すると、すぐにコープマンがマイクを持ち、直前に起こった台風と地震の犠牲者に対する追悼を述べ、そして、この翌日に予定されていた札幌のコンサートも中止となり、この日がジャパンツアー最後の公演となることを告げると、なんとなく、非常に貴重な公演だと思える雰囲気に包まれました。
ロ短調ミサが始まると、まずはコーラスの澄んだ響きと、コープマンらしい柔らかでしなやかなオケの響きに惹きつけられます。オケから遠い席だったので渾然一体となった響きをまるでアルバムを楽しむように聴けた感じ。オケの各パートは完全にコープマン風にふくよかで自然なフレージングにコントロールされ、スタティックなところは皆無。しなやかに盛り上がり、時に推進力、時に愉悦感に満ちながらじっくりと進めていくような演奏。歌手も声量、響きの艶やかさが揃った人選で流石と思わせるものでしたが特に素晴らしかったのがソプラノのマルタ・ボスが膨よかで美しい響きが最高。アルト役はカウンターテナーでこちらも味わい深い声。ロ短調ミサはそれこそ何度も演奏しているのでしょう、それぞれの曲の表情が揺るぎない説得力をもち、まるで千枚目の写経を無心でこなすような迷いのない演奏。コープマンの弾力ある動きにオケもそれこそいつものように反応。バロックトランペットやティンパニ、木管群などは素晴らしい安定感で燻らしたような深い響きを形作っていきます。また唯一ホルンが登場し超絶技巧を披露するQuoniamでは、時折音が外れるもののナチュラルホルンを見事に吹きこなしてホルンには厳しい音階を滑らかにこなすなどなかなかの腕前。この曲は何度かコンサートで聴いていますが、普通は第1部の終わりで休憩に入るところ、この日は第2部の終わりと曲の大部分を終えたところで休憩。第1部の終わりではかなりフライング気味に拍手とブラヴォーが飛んで、雰囲気を削いでしまいました。休憩後の第3部第4部は合わせても20分くらいなので、こちらも集中力十分な体制で聴くことができ、終曲のDona nobis pacemでは雄大で安らかな響きに包まれる素晴らしい瞬間を味わいました。最後はコープマンが腕を下ろすまで静寂が保たれ、すぐに万雷の拍手に包まれ、観客の拍手に何度も嬉ししそうにお辞儀をするコープマンの姿が印象的でした。

期待通り、コープマンのロ短調ミサは素晴らしかったですね。コンサートではラ・フォル・ジュルネでのミシェル・コルボとローザンヌ室内管のニュートラルな演奏も良かったですし、手元に10組ほどあるアルバムの中では古楽器ではブリュッヘン、現代楽器ではジュリーニが好きな演奏なんですが、このコープマンのコープマンにしかできないしなやかな喜びの表現も捨てがたい魅力があります。コープマンのERATO盤持ってないので、手に入れなくてはなりませんね。ただERATO盤も20年以上前のものゆえ、そろそろ新録音が出てもおかしくないですね。



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tag : バッハ すみだトリフォニーホール

クイケン/ラ・プティット・バンドのマタイ受難曲(東京オペラシティ)

前記事に書いた通り、3月5日の土曜日は以前からチケットを取ってあったコンサートにいってきました。

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東京オペラシティ:ラ・プティット・バンド「マタイ受難曲」

ハイドンでも素晴らしい演奏を聴かせるクイケン(Sigiswald Kuijken)とラ・プティット・バンド(La Petite Bande)によるマタイ受難曲という、現代最高の演奏が期待出来る千載一遇の機会。前記事でも触れましたが、クイケンは2011年の来日時、バッハのブランデンブルク協奏曲などを今回と同じ東京オペラシティで聴いています。

2011/07/02 : コンサートレポート : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲

録音では恐ろしく精緻な演奏聴かせるクイケンとラ・プティット・バンドですが、前回実演に接してわかったことは、実演でも恐ろしく精緻な演奏は変わりないということ。精緻といってもエッジの立った演奏とは対極のとても自然なもの。自然に呼吸するように演奏しながら、よく聴くと恐ろしく緻密なことに気づくという感じ。その精緻さでマタイという長大な曲がどのように響くのか、そして近年編成を小さくしてOVPPで響きのピュアさにこだわるクイケンによるマタイがどう響くのか。興味津々でチケットをとりました。

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開演時刻は東京オペラシティでの土曜のコンサートでは定番の15:00。ただしCDだと3枚組になるマタイですので、終了予定は18:00とたっぷり3時間コースです。いつものようにホワイエでワインなどをいただいて脳を覚醒させて開演を待ちます。席はオケを右上から見下ろすことができる好きな2階席。

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定刻となり、オケが登壇して、オルガンに合わせて丹念にチューニング。そしてソロ陣とクイケンが登場。会場はもちろん満員。マタイといえば2組のオケに少年合唱が加わるというのが定番でしょうが、合唱はなく8人のソロに加えて3人のソロが合唱パートまで歌うもの。ソロ陣は下記のとおり。

(下手4人)
ソプラノI:ミンナ・ニーベリ(Minna Nyberg)
アルトI:ルチア・ナポリ(Lucia Napoli)
テノールI & エヴァンゲリスト:シュテファン・シェルペ(Stephan Scherpe)
バスI & イエス:シュテファン・ヴォック(Stefan Vock)

(上手4人)
ソプラノⅡ:マリー・クイケン(Marie Kuijken)
アルトⅡ&証人Ⅰ:リディア・ヴィネス・カーティス(Kidia Vinyes Curtis)
テノールⅡ&証人Ⅱ:バルタザール・ズーニガ(Baltazar Zúñiga)
バスⅡ:イェンス・ハーマン(Jens Hamann)

(奥3人)
ユダ、大祭司カヤパ、祭司長Ⅰ:ニコラ・アッフテン(Nicolas Achten)
ペトロ、ピラト、祭司長Ⅱ:オリヴィエ・ベルテン(Olivier Berten)
ソプラノ・イン・リピエーノ、女中Ⅰ&Ⅱ、ピラトの妻:クリスティン・ネース(Kristien Nijs)

歌手は美女にイケメンぞろいの豪華な布陣です。

オケは少人数ですが左右に2組。オルガンも2組。クイケンは第1オーケストラのヴァイオリン席に座り、自分のヴァイオリンを調弦し終わると、オケに向かって表情でさっと合図を出して、有名な第一部の最初のメロディーがタケミツ・メモリアルホールに響きわたります。いきなり澄み切ったオケとソロ陣によるコーラスの響きに包まれ、落ち着き払いながらも純粋無垢な響きの美しさに包まれます。通例は少年合唱で歌われるパートは後方のソロ3人のなかのクリスティン・ネースの澄んだソプラノが担当。前のソロ陣よりもむしろ通りのいい声と感じるほど澄んで浸透力のある声。

クイケンは指揮するというより、要所でタイミングを指示するのみで、オケはほとんど自律的に演奏を進めます。ヴァイオリンとヴィオラは演奏する時には立ち上がって演奏しますが、クイケンは座っているときにはじっと他の奏者の演奏を聴き、時折弓で指揮をするような仕草をするのみ。

曲はほどよいテンポでしなやかに進み、レチタティーヴォとアリアなどによって語られる聖書のドラマの合間に癒されるようにコラールが挟まりますが、そのコラールの透き通った美しい響きが鳴り響くたびに癒しが降りそぎます。歌詞は正面のパイプオルガン席に設えられた電光掲示板に表示されるので物語も実によくわかります。長大な曲ながら、流石にオケの精度は素晴らしく、弦楽器、木管楽器、オルガンなど全パートの奏者が穏やかなながら実に活き活きと演奏していきます。ことに第1オーケストラのオーボエは絶品。メロディーが神がかっています。歌手ではエヴァンゲリストのシュテファン・シェルペが非常に美しいテノールを聴かせます。全編に心地よいテノールのレチタチィーヴォが演奏の高貴さを保ちますが、ここぞのメリハリも流石。素晴らしい歌唱でした。長い第一部の最後はさらりと終わり、長い静寂に包まれたあと拍手が降り注ぎます。この日のお客さんはあまりに完成度の高い演奏にのまれていたようで、拍手もじわりと湧き上がるようなものでした。

20分の休憩を挟んで後半も完璧な演奏が続きます。イエスの捕縛から始まり、イエスの罪を裁く裁判、十字架への磔、そしてイエスの死と、その墓収められるまでの物語り。レチタティーヴォとアリアの後にコラールが続く展開が繰り返され、コラールが響くたびに幸福感に包まれます。物語の要所は迫力ではなく少ない楽器による奇異なほどのドラマティックな響きによって表現されます。終盤クイケンは演奏中にヴァイオリンを席に置き、歌手の横に移動してヴィオラ・ダ・ガンバに持ち替えて、クライマックスを古雅な響きで演出します。クイケンの自在な弓裁きで鳴らされるガンバの巧みな演奏はこの日の聴きどころの一つでした。最後にイエスの復活を恐れて墓が封印されてから、終結のコラールまでの澄み切ったクライマックスは感動的。響きが天上に昇華していくような独特の気配を伴った純粋無垢な音楽にホールは完全にのまれ、最後の響きの余韻が消えると暖かい拍手に包まれました。

ホールを揺るがすクライマックスではなく、祈りの純度が心に沁みるような神聖な雰囲気に包まれた時間でした。普段バッハなど聴かない嫁さんも満足そう。もちろんカーテンコールは何度も続き、一旦引き上げたオケまで呼び戻されるほど。時刻は18時をとうにまわり、長大なマタイ受難曲を聴き切ったほどよい疲れと、幸福感が相まったひと時でした。

流石にクイケンのマタイを聴きにくるお客さんは音楽をわかったかたばかりのようで、最後まで舞台に暖かい拍手を送り続けていました。記憶に深く残る素晴らしいコンサートでした。会場でもクイケンのマタイの録音を売っていたのですが、amazonの方がリーズナブルと知っていたので、帰ってから注文しちゃいました。あとでのんびり楽しむことにしましょう。





なお、プログラムに挟まれたチラシによると、ラ・プティット・バンドはこれだけ素晴らしい演奏をしながらも、ベルギー政府の補助金の大幅カットにともない財政難とのこと。クイケン自筆の書籍の日本語訳を購入する寄付を求めていました。これが3万円とちょっと勇気がいる額。1万円ならば寄付しちゃったんですが、、、(嫁さん許可付)

クイケンの振った「天地創造」は1982年の録音ともう34年も前。そろそろ新盤の録音も期待したいところですし、次回の来日時には是非「天地創造」を取り上げてほしいものですね。




(おまけ)

この日は東京オペラシティに到着したのが早かったので、併設されたアートギャラリーでサイモン・フジワラのアートワークを楽しみました。ちょっと前にテレビで知って見てみたかったもの。

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サイモン・フジワラ | ホワイトデー

「ホワイトデー」と題された展覧会。日本の製菓会社が導入したホワイトデーという儀式の裏に潜むシステムに光を当てた展示とのことで、入るなり床にお金がばらまかれていたり、日本社会の象徴である名刺が超巨大に印刷されたオブジェがあったり、毛皮をバリカンで刈り続ける女性がガラス箱に入っていたりと、かなり風刺が効いていますが、それをまとめるアーティスティックなセンスがいいので純粋にアートに見えるところが流石です。めずらしく撮影可の展示。作品が写真に撮られ、SNSやメディアに流れることも意識しているのでしょう。上のリンクでほとんどの作品を見ることができます。

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入り口を入ると早速買い物袋に入った毛皮にスポットライトがあてられたオブジェ。

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メインの展示の前半。床にはコインがばらまかれ、様々なオブジェが配されています。中にはお札でできた扇子やスターリンのお面まであります。奥には実際に人から型をとったオブジェが多数ならべられ、髪型から中国の兵馬俑を思わせます。

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メインの展示の後半はまさに兵馬俑そのもの。そしてトリッキーな編集を施された映像が流されています。さっと見て30分程度。コンサート前のひと時をアーティスティックに過ごすことができました。

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tag : バッハ

地元で再び静寂に消え入るクラヴィコードに聴き入る

先週、通勤途上でネットを見ていると、Twitterの書き込みでコンサートの情報をみつけました。今年の5月に東京は茗荷谷の学下コーヒーでクラヴィコードの生演奏をはじめて聴いて以来フォローしているクラヴィコード奏者の筒井一貴さんの書き込みですが、その筒井さんのコンサートが、なんと私の自宅のすぐそばで行われるとのこと。しかもその週の土曜日の夜ということで、幸いいろいろ予定が入っていたものの夜は都合がつきそうということで行ってみることにしました。以前に聴いた学下コーヒーでのコンサートの模様はこちら。

2015/05/16 : コンサートレポート : 茗荷谷のカフェでクラヴィコードの響きに耳を欹てる

コンサート会場となる場所は、自宅がら歩いてすぐ! なぜこのようなところでコンサートを開催されたかというと、筒井さんとコンサート会場を提供している会社の担当(社長の息子さん)が大学の同じクラブの先輩後輩という関係とのことだからと後からわかりました。それだけならまだしも、その担当者、なんと私の中学までの同級生でした! 私も父が亡くなるまでは生まれ育った地元を離れて暮らしていて、地元に戻って3年ということで、地元の交友が広いわけではありませんでしたので、今回の再会はまったくの偶然。このコンサートで同級生に約40年ぶりくらいに再会したことになります。

コンサートの情報はこちら。

古典鍵盤楽器奏者/筒井一貴 つれづれ草紙:9月12日/最も静かな鍵盤楽器、クラヴィコード 〜時を超えて蘇る モーツァルトの時代〜@狛江

会場となったのは地元の建設会社の中にあるコミュニティースペース。せっかくなので会場となった会社の方も紹介しておきましょう。

東建ハウジング

そもそも、クラヴィコードに興味を持ったのは、当ブログでクラヴィコードによるハイドンのソナタ集を取り上げた記事に、新潟は三条のクラヴィコード製作者である高橋靖志さんからコメントをいただき、いろいろアドバイスをいただいてから。そのあたりは茗荷谷の記事の方に触れてありますのでお読みください。

ご存知の通りクラヴィコードは音量が非常に小さい楽器ゆえ、録音でもその繊細な音色を伝えるのは非常にむずかしいもの。いろいろなアルバムを聴きましたが、前回の学下コーヒーでの生演奏を聴いて、やはり生で聴くのが一番この楽器の魅力が伝わると知った次第。それゆえ今回も貴重な機会ということで参加する気になったのですが、今回はクラヴィコードの魅力を前回以上に体感することができました。

学下コーヒーでは10名少し入る程度のとても小さなスペースでしたが、それでも春日通り沿いということで、耳を澄ますと車の往来の暗騒音が常にしている状態でした。ところが今回の会場は、住宅地で、しかも目の前の道路に車が通るのはごく稀。今回お客さんは20名くらいだったでしょうか、もともとマンションの一室のようなフローリングのスペースで、外からの騒音はほぼありません。

コンサートが始まるまではエアコンの音が主な暗騒音でしたが、コンサートのためにエアコンを切ると、かなり静か。前回同様筒井さんがいろいろお話ししながら、くつろいだ雰囲気で演奏が始まります。最初はクラヴィコードの音の小ささに皆さん驚いていたものの、ちょっと音色に慣れたところで、筒井さんが冷蔵庫の電源を切るように告げ、実際に電源を落とすと、本当の静寂が訪れました。

プログラムの構成は前回の学下コーヒーのコンサートとほぼ同じ。曲順が若干変わっているのと数曲入れ替わってますが、コンサートの基本的な流れは同じで、筒井さんがお話しされながら、次々と演奏をしていきます。

J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集より 第1巻第1番プレリュード(BWV846)
モーツァルト:アレグロ(K.3)、メヌエット(K.4)、メヌエット(K.5)
モーツァルト:アレグロ(K.9a)
モーツァルト:グラーフのオランダ語歌曲「われ勝てり」による8つの変奏曲(K.24)
モーツァルト:ウィーンソナチネ第6番
モーツァルト:クラヴィーアのための小品(K.33B)
モーツァルト:ウィーンソナチネ第3番
(休憩)
フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer):組曲集「音楽のパルナス山」より No.3 Melpomene:音楽・叙情詩の女神
パッヘルベル:アリエッタと変奏ヘ長調

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演奏に使っているクラヴィコードは、前回と同じもので、1763年製Johann Andreas Steinの旅行用クラヴィコードの複製でAlfons Huber & Albrecht Czernin(2002)というもの。

前回のコンサートでは耳が慣れた後半の曲の素晴らしい展開に圧倒されんですが、今回は逆に前半の曲のタッチの冴えが印象的でした。そもそも音量が小さな楽器ゆえ、今回のコンサート会場の静寂はクラヴィコードの演奏には理想的。筒井さんもこの会場が大変気に入られたようでした。私見ですが、この会場でクラヴィコードが良く鳴ったのはもちろん静寂が一番大きな理由でしょうが、他にもクラヴィコードをのせていたテーブルが無垢の木材によるかなりしっかりとしたものだったことや、響きすぎない適度な残響だったこと、クラヴィコードを置いた前が空の本棚で、適度に響きを散乱させる効果があったことも好影響だったんだと思います。

最初のバッハの平均律は冷蔵庫の電源を切る前に1回、そして電源を切ったあとに1回、都合2回演奏されましたが、ほんのわずかの騒音の違いが、響きの繊細さ、耳に届く繊細なクラヴィコードの響きの豊穣さに極めて大きな影響があることがわかりました。2度目の演奏の繊細な響きに皆さんウットリ。ここまで静かだとクラヴィコードの音量の小ささによるダイナミックレンジ、つまり強弱のレンジの狭さが全く気にならないどころか、ハープシコードなどと比較しても十分ダイナミックに聴こえることに気づきました。前半のモーツァルトの幼少時の曲は前回と全く同じ曲ですが、音量の小ささはまったく気にならず、逆に非常にダイナミックにも聞こえました。低音部は強く弾くと音程が若干ずれるのはクラヴィコードの構造特有のものですが、実際はかなり抑えたタッチなのに見事にメリハリがついた演奏に、クラヴィコードのさらなる魅力を発見した次第。筒井さんも会場の響きの良さに反応して、前半は前回のコンサート以上にクラヴィコードの音域、音量域を駆使してモーツァルトの曲の演奏を楽しんでいる様子でした。

それなりの人数で空調を切っての演奏が続くと、さすがに温度が上がってきます。前半を終えたところで休憩となり、エアコンを入れます。この日初めてクラヴィコードを聴く人も多かったようで、開演前にもクラヴィコードに近づき、しげしげと眺めている方が多かったんですが、実際にクラヴィコードの音色を聴いたあとなので、休憩時間にはみなさんクラヴィコードに触ってみたりと興味深々で和やかに談笑されていました。

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前回非常に感銘を受けた後半。おそらく筒井さんはこの会場の静寂を意識されて、前回よりもタッチを抑え、弱音の魅力を意識された演奏だったのでしょう。まずはモーツァルトの小曲を2曲のあと、前回とは逆の順で、先にフィッシャー、そしてパッヘルベルの曲順でした。どちらも前回はクラヴィコードの音色に慣れた耳に躍動感のつたわる演奏でしたが、今回は曲のそこここに静寂のなかに響きが消えていく美しさを意識した部分がちりばめられ、メロディーの美しさが印象的でした。パッヘルベルの癒されるような美しいメロディーがしなやかに浮かびあがる演奏はは今回も素晴らしかったです。

あまりに小さな音量に、お客さんも拍手を抑え気味。前回の演奏の時に、うまくいった時ほど拍手の音量が小さくなるんですと筒井さんが言っていたとおり、最後の響きが静寂のなかに消えると、ひとりひとりがクラヴィコードの音量に合わせた拍手で筒井さんの演奏に応えます。筒井さんも響きの良い会場での演奏に満足げ。アンコールは前回同様、モーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョ(K.617a)。筒井さんの言われるとおり、グラハーモニカの繊細な音色を表現するのにクラヴィコードはぴったり。まさに天上の音楽のような研ぎ澄まされた音色に脳内で変換されました。短い曲ですが、モーツァルトが晩年に到達した研ぎ澄まされた世界にトリップ。そしてもう一曲アンコールでモーツァルトのK.333だったでしょうか、筒井さんもここで演奏するのが楽しそうでした。

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演奏後は筒井さんがビール片手に皆さんの質問に気さくに答える談笑タイム。クラヴィコードの仕組みの話やこの楽器が愛好されてきた歴史などを、いつも通り面白おかしく説明してくれました。これも小規模コンサートの楽しみの一つですね。

私はこの日体調がよければこのコンサートを聴きにきた母親を家に残してきていたので、談笑なかばで失礼させていただきました。筒井さんもこの静かな環境を非常に気に入られていたので、またこの会場でコンサートが企画されるかもしれませんね。

実は、この前の週には念願の浜松楽器博物館へ詣でており、筒井さんがこの日にクラヴィコードの歴史の説明で触れられていた、クリストフォリピアノやスクエアピアノ、フォルテピアノなどをいろいろ見てきました。鍵盤楽器の歴史のなかでも、最も表現力があるのはクラヴィコードというのはそのとおりと確信。昔の静かな環境で、蝋燭の火を囲んで家庭で音楽を楽しんでいた時代には、クラヴィコードこそ音楽を身近でたのしむには最適な楽器であり、その繊細かつ豊穣な響きをたのしむ心の豊かさがあったのだろうと、はるか昔に想いを馳せた一夜でした。

浜松楽器博物館詣では次の記事で!

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茗荷谷のカフェでクラヴィコードの響きに耳を欹てる

今週は水曜日にサントリーホールのコンサートに出かけたばかりですが、もう一つコンサートの予約をしておりました。

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珈琲と古楽 Vol.2 最も静かな鍵盤楽器、クラヴィコード

茗荷谷の学下コーヒーというカフェでクラヴィコードを聴くという15人限定のコンサート。

学下コーヒー
食べログ:学下コーヒー

当ブログのコアな読者の方ならご存知のとおり、いろいろなご縁から、クラヴィコードという楽器の素晴らしさに開眼したのは割と最近のこと。きっかけはたまたま取り上げたマーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるハイドンのピアノソナタ集の記事に新潟のクラヴィコード製作者の高橋靖志さんからコメントをいただいたこと。高橋さんの推薦されたデレク・アドラム盤を聴いて、クラヴィコードの深遠な世界を初めて知った次第。以来、クラヴィコードによる演奏は気になって取り上げている次第。

2015/02/05 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのクラヴィコードによるXVI:20(ハイドン)
2013/07/21 : ハイドン–ピアノソナタ : ウルリカ・ダヴィッドソンのソナタ集
2013/06/05 : ハイドン–ピアノソナタ : 綿谷優子の初期ソナタ集(クラヴィコード&ハープシコード)
2013/03/02 : ハイドン–ピアノソナタ : キャロル・セラシのフォルテピアノ/クラヴィコードによるソナタ集
2013/01/27 : ハイドン–ピアノソナタ : デレク・アドラムのクラヴィコードによるソナタ集
2012/12/22 : ハイドン–ピアノソナタ : マーシャ・ハジマーコスのクラヴィコードによるソナタ集

ハジマーコス盤のレビューでのコメントのやりとりを見ていただければわかるとおり、今回のコンサートの奏者である筒井一貴さんともご縁があったのでしょう。

クラヴィコードはピアノやフォルテピアノと比較すると極端に音量が低い楽器。多くのアルバムが録音に苦労しており、クラヴィコードのひっそりとした美音が自動車の通過音や暗騒音に紛れて聴こえる録音も少なくありません。このクラヴィコードの美しい音を是非生で聴いてみたいと思っていたところ、たまたまネットでこのコンサートの存在を知り、しかも席は15席限定で残り1席という状態だったので、慌てて予約したという次第。生のクラヴィコードをもしかしたら理想的な環境で聴ける千載一遇のチャンスかもしれないと思ったわけです。

当日は19:30開演のところ開場時間の19:00には駆けつけましたが、着いてみると既にほとんどのお客さんが席でコーヒーを楽しんでいるではありませんか。ちょっと出遅れ感です(笑)。

コンサート会場の学下コーヒーは茗荷谷駅から3分ほどの春日どおり沿いにあるカフェ。オーナーの方によると少し前まで目白の学習院下にあったお店がビルの建て替えにともなって茗荷谷に移り、元の学習院下、「学下」の名前のままやっているとのこと。お店のオーナーも古楽好きとのことで、このような企画となっているとのことでした。

お店の入り口からちょっと奥に入ったところに小部屋のような空間があり、そこにテーブル席がいくつかあるという構えですが、その隅にクラヴィコードが置かれ、まわりの席をコンサート向けに少し動かして、15人入るとちょうどいい感じの空間。白壁にシンプルなインテリアで、まるでハイドンの生家でクラヴィコードを聴くような心境になります。

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この日使われた楽器は1763年製Johann Andreas Steinの旅行用クラヴィコードの複製でAlfons Huber & Albrecht Czernin(2002)。演奏前には、この繊細かつ不思議な楽器を皆さんしげしげと見入ってました。

プログラムは次のとおり。

J. S. バッハ:平均律クラヴィーア曲集より 第1巻第1番プレリュード(BWV846)
モーツァルト:アレグロ(K.3)、メヌエット(K.4)、メヌエット(K.5)
モーツァルト:アレグロ(K.9a)
モーツァルト:ヴィレム・ファン・ナッソーの歌による7つの変奏曲(K.25)
J. S. バッハ:リュートまたは鍵盤楽器のためのプレリュード、フーガ、アレグロ(BWV998)
(休憩)
モーツァルト:クラヴィーアのための小品(K.33B)
パッヘルベル:アリエッタと変奏ヘ長調
フィッシャー(Johann Caspar Ferdinand Fischer):組曲集「音楽のパルナス山」より No.3 Melpomene:音楽・叙情詩の女神

まさにこの日のクラヴィコードが使われていた時代の音楽。ほどなく開演時時刻になり、奏者の筒井一貴さんが笑顔で登場。

筒井一貴/HASSEL 古典鍵盤楽器奏者(クラヴィコード/フォルテピアノ/チェンバロ)

筒井さんが、作品のことをお話しされて演奏するという、コンサートというよりはまさにサロンで演奏を楽しむという、クラヴィコードの時代のスタイルのような進行。クラヴィコードが最も静かな鍵盤楽器と呼ばれるように、最初にさらりと奏でられた音は、アルバムのみでクラヴィコードを聴いていた私の想像よりもかなり小さなものでした。まさに人が静かにしゃべる声と同じ程度の音。1曲目はバッハの平均律クラヴィーア曲集の冒頭の1曲。馴染みのメロディーですが、まだ耳が慣れないのか、身を乗り出して耳を澄ませて繊細な音色を聴きます。実は最初の1曲の印象はやはりか細いなかの繊細な音色という感じだったのですが、これが曲が進むにつれて、実にニュアンス豊かに聴こえるようになってきます。ちょうど暗い部屋に入ったときにはよく見えないのですが、目が慣れると暗さのなかにも陰影がくっきりついて見えてくる感じ。そう、バッハの曲は耳ならしという意図で配置されていたのでしょう。最初の曲が終わると15人の拍手がクラヴィコードの音以上にカフェに響きわたりますが、曲が進むにつれて拍手も小さな音になります(笑) これは皆さんがクラヴィコードの音に耳があってきたからということでしょう。

そして、続くモーツァルトの幼少時代の曲が何曲か続きます。作曲の背景や曲の成り立ちについてのとてもわかりやすい話に続いて、モーツァルトの天真爛漫なメロディーが奏でられますが、ケッヘル番号の1桁台ということで、1曲ごとにどんどんひらめきが加わり、モーツァルトの才能が急激に開花するようすが手に取るようにわかります。耳がなれて、クラヴィコードの繊細なニュアンスを伴った音楽に引き込まれます。すぐ外は春日通りということで、もちろん車の通る音も聞こえるのですが、お客さんはクラヴィコードの繊細な音色に集中しているので、ほとんど気になりません。小さな部屋で耳を澄ましてひっそりと音楽を楽しむ至福の時間とはこのことでしょう。

前半は小曲が中心で、前半の最後はバッハ。それまでのモーツァルトがクラヴィコードから閃きの進化を聞かせたのに対し、普段はハープシコードでの印象の強いバッハでは、バッハの音楽から華やかな音色という飾りを取り去った素朴な姿を想起させます。静かに耳を澄ませて聴くバッハの音階。静寂に潜む空気のようなものに触れたような気持ちになりました。演奏を終えて静かな拍手に笑顔で応えた筒井さんでした。



休憩を挟んで後半はモーツァルトから。最初の曲はもともと管楽器による演奏をイメージして書かれた曲。筒井さんの説明に従って、これまでの速い曲調ではなく、ゆったりとした曲調の曲を脳内で管楽器の音色を想像して聴いてみると、まさに楽器としてのクラヴィコードの優れた点がわかりました。

クラヴィコードは鍵盤を打鍵すると張られた弦の中央部を下から金属で「押して」その両側の弦が振動して音が鳴る仕組み。鍵盤を打鍵している間だけ音がなり、打鍵している鍵盤を抑える指に弦の振動がつたわってきます。以前クラヴィコードはヴィブラートがかけられると聞き、いったいどういうことなのか想像できなかったんですが、実際に楽器を目の前にして、自身で打鍵してみて初めて仕組みがわかりました。

このようなクラヴィコードだからこそ、管楽器の曲をイメージして演奏できるというわけです。このころの作曲家がクラヴィコードを愛用していた理由もなんとなくわかりました。

続いて演奏されたパッヘルベルのアリエッタと変奏曲。この曲はオルガンのための曲ですが、今度はオルガン用の曲をクラヴィコードで楽しみます。このパッヘルベル、素晴らしかったです。前曲同様、クラヴィコードの音色を聴きながら、オルガンの音色を想像して音楽を楽しみます。最初のテーマから次々と変奏がつづき、耳は完全にクラヴィコードの繊細な響きの変化のレンジに一体化して、デリケートに変化するメロディと音楽に引き込まれます。体を揺らしながら次々に変奏を繰り出す筒井さんの演奏に、カフェの小空間は完全に引き込まれました。カノンばかりが有名なパッヘルベルですが、このアリエッタと変奏曲はいいですね。特にこの日のクラヴィコードの演奏は絶品でした。筒井さんも満足そうに笑顔で暖かく静かな拍手に応えていました。

最後は大バッハがその作品を研究して、影響を受けたと言われるフィッシャーの曲。パッヘルベルに比べて明るく鮮やかなメロディーが織り込まれた組曲。曲が進むにつれて筒井さんのタッチも鮮やかになり、こちらも引き込まれる本格的な演奏。皆さん最初の曲の時とは異なり、クラヴィコードの音量と音色に完全にフォーカスが合って、音楽を楽しまれていました。

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最後も拍手につつまれ、アンコールで弾かれたのはモーツァルトのグラスハーモニカのためのアダージョ(K.617a)。いやいやクラヴィコードは想像力を掻き立てられます。この曲では天上から振り注ぐようなグラスハーモニカの繊細な音色を想像させます。

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いやいやいいコンサートでした。クラヴィコードを楽しむには絶好の規模。カフェの一室がバッハ、モーツァルト、ハイドンの時代にタイムスリップしたようでした。やはり生で聴くクラヴィコードは素晴らしいものでした。

終演後は筒井さんが皆さんの質問に気さくに応えたり、楽器を触らせていただいたりしながらしばらく談笑。リクエストに応じて愛器の前で写真も撮らせていただきました。

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大ホールでのコンサートとはまったく異なり、小さなカフェでクラヴィコードという楽器を存分にたのしませてもらう、まさに至福の時間。今週は仕事が忙しくお昼もろくに食べられないほど忙しかったのですが、このコンサートで心のそこから癒されました。主催者の皆さん、学下コーヒーの皆さん、筒井さん、ありがとうございました!

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クララ・ハスキル/ゲザ・アンダのモーツァルトとバッハの2台のピアノのための協奏曲

誰にでも時々無性に聴きたくなるアルバムがあります。まだまだ、LPシリーズいきますが、今日はハイドンではありません。

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HMV ONLINEicon(国内盤CD)/ amazon(輸入盤CD)

クララ・ハスキル(Clara Haskil)とゲザ・アンダ(Geza Anda)のピアノ、アルチェオ・ガリエラ(Alceo Galliera)指揮のフィルハーモニア管弦楽団の演奏で、モーツァルトの2台のピアノのための協奏曲(K.365)とバッハの2台のピアノのための協奏曲の2曲を収めたLP。収録は1956年4月25日、26日、ロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルは仏PATHE MARCONI。

このアルバム長らくCDで愛聴してきましたが、先日状態のいい仏PATHE MARCONI盤を見つけて手に入れたもの。CDのほうはバッハ、モーツァルトにアンダがソロを務めるベートーヴェンのピアノ協奏曲1番の3曲をカップリングしたもの。LPの方はベートーヴェンが入らず、曲順もモーツァルトが先になっています。

演奏はすでに評価の高いものですので、多くの人が聴いているでしょう。ハスキルとアンダのコンビが、このアルバムに収められたモーツァルトとバッハと言う全く異なる音楽を、どちらも絶妙の呼吸と、香しいまでに詩情の溢れる気高いタッチによって、神々しいまでに昇華した至福の演奏。

モーツァルトはハスキル独特の全く溜めのない直裁なタッチで転がるように滑らかな音階が行き来きする至高の音楽。オケにもピアノにもえも言われぬ詩情が漂い、まさに音楽の神様が降りてきたような演奏。アンダもハスキルをそっと支える見事な呼吸。そしてガリエラのコントロールするフィルハーモニア管弦楽団が非常にテンポのいい演奏。すべてが完璧にそろった奇跡のひとときです。この演奏CDもかなりいい録音なんですが、LPと聴き比べると、クリーンなCDの魅力もあるのですが、弦楽器のキレとピアノの存在感はやはりLPに分があります。聴いているうちに感極まる見事な演奏。

バッハの方は冒頭からポリフォニーの響きの渦に身を任せるような恍惚とした音楽。響きに耳を傾けているうちにバッハの書いた数多の音符が大河となって押し寄せてきて、トランス状態になります。こちらもモーツァルトに負けず劣らず感極まります。音階の繰り返し、重なり、変化が宇宙のごとき雄大さを表すと同時に、じつにしっとりと人間的な印象も合わせもつ希有な演奏。
2楽章のハイドンとは異なるバッハ独特の静謐な陰りが美しく、淡々としたタッチがグールドの過度にアーティスティックな印象ではなく、バッハ本来の敬虔な感情と、純粋に音楽を奏でる喜びの感情を浮かび上がらせます。最後のロンドは深遠なメロディーの循環を繰り返しながら一歩ずつ天上への階段を登っていくよう。

遅くに家に帰って、好きなアルバムをターンテーブルに乗せて、厳かに針を落として音楽に没入。今日も一日働いた疲れが一瞬で吹き飛びます。明日もがんばって働かねば(笑)

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シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲

今日は、東京オペラシティ、タケミツメモリアルホールのコンサートへ。

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カメラータ:ラ・プティット・バンド バッハ・コレクション

クラッシックのアルバムを出しているレーベルとしても有名なカメラータが招聘元。今日のプログラムは次の通り。

J.S.Bach
ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV1047
ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV1051
三重協奏曲 イ短調 BWV1044
ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050
ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV1048

バッハのブランデンブルク協奏曲を中心にしたプログラム。今日は土曜で3時開演。いつものように30分ほど前にホールについて、まずはサンドウィッチとビールで喉を潤します。

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サントリーホールだと好きなプレミアムモルツですが、オペラシティはエビス。良く冷えたグラスとともにビールの小瓶が供されます。嫁さんはいつも通りコーヒー。オペラシティのサンドウィッチはなかなかしっかりしていて、コンサート会場でいただくものとしては悪くありません。嫁さんと2人で一箱いただくとちょうど良いヴォリューム。

最近行くコンサートは空席が目立つものが多かったんですが、今日はほぼ満席。ステージ上ではハープシコードを丹念に調律しています。イスがなく譜面台がハープシコードのまわりに数台集中して置かれており、少人数の演奏であることがわかります。コンサート前のざわめきを楽しみながら、開演を待ちます。

陽の高いうちのコンサート。タケミツメモリアルホールの天井には空が見えるトップライトがあります。最初は空が見えていたんですが、開演を知らせるよう場内の照明が徐々に落とされた後見上げると、トップライトも塞がれてました。電動スクリーンのようなものがあるんでしょう。

拍手とともに奏者がステージに登壇し、じっくり調弦。いいですね、この間。

1曲目はブランデンブルク協奏曲2番。ハープシコードの他は6~7名だったでしょうか。ホールの大きさにしては音量がやはり小さめで最初は迫力不足かと思いましたが、演奏に聴き入るうちに雅な音色に耳を奪われます。圧巻はトランペット(F管だそうです)。古楽器のキーのないトランペットを片手でかなり上向きにかまえ、残りの手は腰に。そう、日本人が銭湯で牛乳を飲む時のあの決めポーズです。キーのないトランペットで朗々とメロディーを吹き進めていきます。もちろんキーのない楽器ゆえ時折音程が乱れますが、生だけに素晴らしい覇気。トランペットの登場はこの曲のみでしたが、バッハの名旋律を堪能できました。
オケの方はまだアイドリングのような感じ。シギスヴァルト・クイケンはなんとヴァイオリンではなくスッパラで登場。本来チェロで弾くところを1オクターブ高いスッパラという楽器で弾きます。ヴィオラよりちょっと大きめの楽器を首からバンドで下げて、弓で弾くというスタイルです。クイケンのアルバムはいろいろ聴いてますが、やはり構えなくすっと自然に演奏するスタイルが多いようです。1曲目は、まさに何事もなかったように、しかもステージで演奏するという構えもなく、毎日の練習のように入ります。まだまだ、暖まりきらないのかちょっとキレが悪く、音程も少しふらつく感じでした。

2曲目はブランデンブルク協奏曲6番。曲間に譜面台を動かし、この曲用の配置に。この曲では2台のチェロが入りヴァイオリンはなし。中低音楽器のみのアンサンブル。今日は双眼鏡を持っていったので、演奏をよく見ていると、弓の毛でしょうか、その張りがかなり柔らかそう。これも音色に影響していそうですね。ヴィオラ、チェロなど現代楽器だとかなり張りのある鋭さを感じる音色ですが、今日のラ・プティット・バンドはかなり柔らかい音。しかも調律も低そうですね。オケはまだまだ、本調子というより準備体操といった雰囲気でした。

そして休憩前の最後は三重協奏曲イ短調。この曲でちょっとしたアクシデント。1楽章の後半に入ったところで、この曲からヴァイオリンを持ったシギスヴァルト・クイケンの弦がビシッという音ともにきれてしまい、演奏は中断。クイケンのみステージを降り弦を張り替えているんでしょう。ステージ上ではメンバーがにこやかに談笑してクイケンを待ちます。数分の中断でしたでしょうか。この間のようすを観客もおおらかに楽しむよう。古楽器の演奏では弦が切れることも少なくないのでしょうか。日常の出来事のように淡々とした表情で待つメンバーの振る舞いに音楽文化の深さを感じましたね。

クイケンが再登場して、場内に何やら一言で、会場がわっと湧いて、3曲目を最初からやり直し。ここからオケにエンジンがかかったように緊張感が張りつめます。1楽章は短調の曲ゆえストイックなバッハ独特のメロディーが続き、2楽章はクイケンを含むソロの部分が長く聴き応えがあります。終楽章は再び弦楽アンサンブルとフルート・トラヴェルソの共演。この曲はバッハの音楽の峻厳さが際立ついい演奏でした。結果的には弦が切れたことで、オケの目が覚めた感じでしょう。

さきほどビールを楽しんだので、休憩時間はのんびり過ごします。お客さんの入りがいいのでホワイエはかなりにぎやかでした。

後半は、ブランデンブルク協奏曲の5番から。この曲は私はグールドのライヴを偏愛しています。1楽章の途中で狂気を帯びたようなグールドのピアノが切れまくり、あまりの覚醒ぶりにシナプスからアドレナリンが噴出するような演奏。バッハの音楽をヘヴィー・メタルな皆さんもリスペクトする理由がわかるよう。この曲の音符には狂気が宿っているんですね。

5番は抜群の出来でした。休憩開けから聴き慣れたメロディが柔らかな音色のオケによって、クッキリと浮かび上がり、またハープシコードを担当したベンジャミン・アラード(Benjamin Alard)が素晴らしいキレ。古楽器の演奏ゆえグールドの狂気とは異なりますが、ソロの部分のエクスタシー感は素晴らしいものがありました。

最後はブランデンブルク協奏曲3番。今日の1曲目と同様、この日の最大編成で登場。ハープシコードの反響版(ふた)をはずし、ハープシコードの後ろに譜面台が並び替えられましたので、ハープシコードをかこんで真ん中にスッパラ3台と両側にヴァイオリン、ヴィオラ、フルート・トラヴェルソがならび、迫力の布陣。最初にトランペットを含む2番、最後に壮麗な3番をもってくるあたり、コンサートでの演奏映えをよく考えた曲順でした。演奏は今日一番の出来。全楽器が活き活きとメロディーを刻みバッハの緻密な音楽と多くの音符で編み込まれた精緻なフレーズをエネルギー感豊かに演奏。最後はブラヴォー連発。アンコールは3番の終楽章をもう一度演奏して終わりました。

終了後はサイン会があったようで、ホワイエには既にサインを待つ人の長い列ができていました。

以前にもクイケンのハイドンはこのブログでも取りあげましたが、さりげない演奏の中に深い音楽がある人だなとの印象。最近ではバッハのマタイやロ短調ミサの新譜が出ておりそちらも、ライムンドさんのブログなどで取りあげられて気になってました。やはりアルバムとは異なりコンサートでは鮮明な印象が残るもので、今日は良いコンサートでした。

今でもしぶとく聴いています:OVPPによるバッハのロ短調ミサ S.クイケン

※ライムンドさんのブログへのトラックバック誤ってましたので張り直しました(7/3)

最近でも来日予定がキャンセルされる演奏家も多いと聞いていますので、この時期の来日はなかなか大変でしたでしょう。今日はバッハの真髄に触れられ、いい思い出になりました。



コンサートが終わって、5時ごろということで、今日はオペラシティの地下の居酒屋で反省会。

食べログ:釜めし やきとり 藩 東京オペラシティ店

なにはともあれ、まずは生です。

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コンサート前はエビスでしたが、今度はモルツ。良く冷えてて美味しい。やはり日本の夏のビールはキンキンに冷えていないと。

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ビールを一気に飲み干して、すぐに日本酒です。つまみは穴子の柳川とホタルイカの沖漬け。バッハの反省会にはザウアークラウトとかの方が良いのでしょうが、もう後戻りできません(笑)
穴子の柳川がなかなかの味付けで、非常に旨い。ホタルイカの沖漬けも大根おろしとシソの葉が添えられていいですね。
あとテーブルが釿(ちょうな)仕上げの粋なもの。なかなかいい趣です。

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今日頼んだのは、仙台に住んでいたときに散々飲んだ、宮城石巻の銘酒「日高見」。震災の影響からか、品揃えの良いうちの近所の酒屋さんからも姿を消してしまい心配していたんですが、「希望の光」という震災を経たもろみを使ったお酒でした。久しぶりの日高見。慣れ親しんだ味に安堵しました。どちらかというと吟醸系のお酒。日高見の吟醸はフルーティさが際立って美味しいんですね。

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鮎の塩焼き。遠めの火で焼いたようで火の通りが絶妙。がぶりといきました。こちらも香りがあって美味。

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大根をつかった餃子。このあたりで日本酒おかわり。今度は「臥龍梅」と言うお酒。仙台では臥龍梅といえば、松島瑞巌寺なんですが、これは静岡のお酒。さきほどの日高見もフルーティでしたが、さらにキリッとしていてフルーティ。今日はあたりですね。どちらのお酒も非常に美味しかったです。

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〆は冷やし鶏蕎麦。これがまた旨い。鶏の出汁がよく利いてこくがあります。さっぱりといただけました。

藩はチェーン店ですが、味はなかなか良かったです。以後オペラシティでのコンサート後の反省会の場所として定番化しそうですね。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : バッハ 東京オペラシティ

アンドレス・セゴヴィアによるバッハの無伴奏チェロ組曲3番

今日は久々のハイドン以外のアルバム。前記事でリュートを取りあげたらギターが聴きたくなってきました。

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MCA盤

ギターの神様、アンドレス・セゴヴィア(Andrés Segovia)のギターによるバッハの作品集。今日はこのなかから無伴奏チェロ組曲3番を取りあげます。収録は1961年4月、ニューヨークにて。このアルバムは実は小学生のころカセットテープが最初に手に入れたもの。現在手元にはそのカセットはなく、上記のMCAのCD、そして音源がDeutsche Grammophoneに移ってからのものの2種類のアルバムがあります。

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DG盤(4枚組)HMV ONLINEicon / amazon

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DG盤(バッハ単独盤)HMV ONLINEicon / amazon

DGに移ってからはいろいろなパッケージで再発されているようです。今回MCA盤とDG盤を聴き比べてみるとMCA盤の方が線が細くカチッとした音ですが響きがデッドに聴こえます。DG盤の方は音像が多少太めで響きも余韻が長い感じ。楽しむならDG盤の方がおすすめです。

この曲はバッハの無伴奏チェロ組曲第3番BWV1009をジョン・デュアルテという人が編曲した楽譜によるもの。原曲のハ長調からイ長調に編曲。

この演奏は本当によく聴いたもの。ギターを弾いたことのある人ならわかるかと思いますが、単に弦をはじくだけで音色の変化を付けるのは至難の業。セゴヴィアのギターはもの凄い弦の回転運動を引き起こす力強いタッチと千変万化する音色の変化。とろけるような柔らかい音から引き締まったフラメンコギターの響きにちかい硬質な音を自在に使い分け、ギターの響きをコントロール。ギタリストはずいぶん聴いていますがセゴヴィアほど図太い音を出すギタリストには未だお目にかかりません。
ギターと言えばソルやタルレガ、グラナドス、ポンセ、ロドリーゴですが、私はセゴヴィアの真髄はバッハにあると思ってます。この無伴奏チェロ組曲はセゴヴィアトーン炸裂の圧倒的名演。神がかった演奏とはこのことを言うのでしょう。久しぶりにセゴヴィアのバッハの魅力に包まれて幸せです(笑)

I.プレリュード
冒頭からセゴヴィアトーンに圧倒されます。天から降ってきたような幸福感溢れる音階。フレットを左手の指が移動するキュッという音もギターのリアリティを感じさせます。ヴァイオリンでもこれだけの音色の変化をつけるのは至難の業。バッハの書いた音階の音符のひとつひとつに意味があるように感じさせる演奏。メロディーラインのひとつひとつの波が独立して流れてくるような素晴らしいフレージング。ギターの倍音の響きを利用してアクセントをつける音が図太い響きを次々においていく様子は見事というよりほかありません。何という美しい音色、響き、胴鳴り。練っているのに全くくどさがなく自然そのもの。

II.アルマンド
ギター独特のたどたどしさが逆に素晴らしい芸術性と聴こえるような運指の切れ目が印象的。音楽が一人で推進していくような不思議な感覚。音楽の真髄が指に宿っているよう。中盤の高音の柔らかさは筆舌に尽くし難い素晴らしい音色。軽いタッチで固い音を重ねて行く部分と図太く柔らかい音のコントラストの付け方は天才的。

III.クーラント
アルマンドにつづいて音楽が流れていきます。セゴヴィアトーンに痺れっぱなし。時折指を速めにはじいてインテンポの妙味を感じさせます。力を抜いた表現とアクセントの交互にやってくる波。低音弦の強音の連続がずしりと心に響きます。ギター独特の詰まった音も迫力たっぷり。

IV.サラバンド
すでに完全にギターによるバッハ、というよりセゴヴィアによるバッハに巻き込まれてます。ただただセゴヴィアのギターの響きの海に呑まれています。唸る低音弦と孤高のメロディーの組み合わせ。美しいを通り越して宇宙的な感じすらさせます。

V.ブーレ
こんどは下界におりたったような明るい舞踏調のメロディーライン。すっと短調に転じ、また明るい調子にもどります。相変わらず素晴らしい推進力。これだけのギターの推進力は滅多にお目にかかれません。

VI.ジーグ
終曲にふさわしい図太いメロディーと脇の軽い音の対比。ギターとしてはものすごいダイナミクス変化。一貫してエネルギーを感じますが、柔らかい音とのコンビネーションを聴いているうちに癒される感じを帯びてくるのが不思議なところ。

久々にセゴビアの魅力を堪能。つづくリュートのための前奏曲やシャコンヌも最高なんですが、今日はこの辺にしておきましょう。ギターやリュートの魅力は尽きませんね。ハイドンの曲ではありませんので評価はしませんが、未聴の方には是非聴いていただきたい素晴らしい演奏。人類の至宝です。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : バッハ ギター おすすめ盤 ヒストリカル

グールド1959年のザルツブルク音楽祭ライヴ

いやはや、木曜日は飲み会、金曜日は仕事が忙しくちゃんとした更新がままなりませんでした。今週は激務でしたね。今日は気分転換を兼ねて、久しぶりにハイドン以外で好きなアルバムを取り上げましょう。

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HMV ONLINEicon / amazon

グレン・グールドの1959年8月25日、ザルツブルク音楽祭でのコンサートのライヴ。プログラムはスウェーリンクのファンタジア、シェーンベルクのピアノのための組曲作品25、モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330、そしてバッハのゴルドベルク変奏曲との痛快なプログラム。収録はザルツブルクのモーツァルテウムです。

ご存知のとおり、グレン・グールド(Glenn Gould)は1932年、カナダのトロント生まれのピアニスト。グールドが有名なのは、誰も真似の出来ない突き抜けた個性と、その個性を超越した、バッハを中心としたポリフォニックな音楽の素晴らしさによって。また、コンサートを捨てて録音というプロセスも含めて自身の演奏を再構成した創造行為によってその真価をつたえたことでも有名。グールドはコンサートで弾くことをやめてしまったので、ライヴ収録されたものは若い時のもの中心なんですね。このアルバムはグールド27歳の時の録音。

グールドについては書籍も多く出版され、私も興味津々で何冊か読みました。生前に出版されたジェフリー・ペイザントの「グレン・グールド なぜコンサートを開かないか」(初版1981年)は最初にグールド像を知った本。家にあるのは82年の2刷。今取り出してみたら、付箋がついていたり、気になる文に線が引かれていたり精読した痕跡が。昔は真面目に本を読んでいたんですね(笑)。この本からもグールドの狂気のような創造活動が伝わってきます。それから「WAVE37グレン・グールド(改訂版)」(1993年)。今は六本木ヒルズになってしまった六本木WAVEで買いましたが、グールドについて多くの記事をまとめたもの。編集が秀逸でグールド像が浮かび上がる素晴らしい構成。同じシリーズの「カルロス・クライバー」も素晴らしい出来で今でもたまに取り出します。そして、オットー・フリードリックの「グレン・グールドの生涯」(1992年)。おそらくグールドの伝記をまとめたものでは決定版という存在でしょう。グールドの音楽は、その音楽自体を聴いて得られる研ぎすまされた芸術性、突き抜けた個性と、書籍などから得られるその創造のプロセス、思考などの背景の両面を理解すると一層その大きさが理解できます。

グールドが亡くなったのが1982年、50歳という若さでしたが、気づいてみると来年2012年はグールド没後30年となるため、もしかしたらいろいろなアルバムが再発売されたり、雑誌や書籍がリリースされたりするのでしょうね。こちらも楽しみではあります。

グールドについては当ブログ立ち上げ初期にハイドンのソナタの演奏をを簡単に紹介しています。

ハイドン音盤倉庫:グールド最晩年の輝き

昔は簡単なレビューだったんですね(笑)

今日取り上げるアルバムはこれはインヴェンションとシンフォニアのスタジオ録音盤に並ぶ私のグールドの愛聴盤。このコンサートを生で聴いていたらグールドの恐ろしいまでの集中力と狂気にノックアウトされていたでしょう。基本的にセッション録音よりもライヴの方が好みゆえ、グールドのライヴはいろいろ手を出しましたが、私の聴く限りこのアルバムが突き抜けて素晴らしい出来です。

出だしのスウェーリンクのファンタジア。スウェーリンク(1562-1621)はルネサンス末期からバッロック期のオランダの作曲家とのこと。10分弱の小曲。ルネサンス期のゴールドベルク変奏曲のような曲。まずプログラムに最初にこの曲をもってくるというのが凄い発想。最後におかれたゴールドベルク変奏曲との関連を暗示させる曲想と、バッハとは異なる響きの奥深さ、歴史のパースペクティブの深遠さを感じる選曲。一音目から狂気と殺気が漲る恐ろしいまでの集中力。ホールの聴衆全員が静寂の中、グールドの指先から奏でられる旋律に惹き付けられているようすが伝わります。ルネサンス期の音楽らしい祈りにもにた純粋さを感じるシンプルな旋律を重ねて行き、徐々にポリフォニッックな展開になっていくにつれて、グールド特有のすべての旋律が独立してコントロールされているような完璧なコントロールに。おそらく聴衆はその音楽に打ちのめされているんでしょう。一曲目からグールドという天才奏者に完全に支配された奇跡的な瞬間に出会うこととなったこの日の聴衆がうらやましいです。曲が進むとグールド流のエクスタシーにも近い恍惚とした流れに。最後はその恍惚を断ち切るけじめのような終わり方。拍手が会場の興奮を伝えます。

つづいてシェーンベルクのピアノのための組曲作品25。スウェーリンクの響きに潜む現代音楽にも似た響きの韻を踏むような選曲。この曲の他の奏者の演奏は数例しか聴いたことはありませんが、音楽の濃さは別次元。ヴェーベルンまで音を分解する前のメロディーを少し残したシェーンベルクの曲を、グールド流にポリフォニックな関連を色濃く描いていきます。特に左手の強い打鍵が印象的。途中トラック6の時計のリズムのような曲想の部分では宇宙のような空間の広がりを感じさせる閃き。この曲も全体で10分少しの小曲ながら、会場はグールドの音楽に完全に支配されています。脳のシナプスからアドレナリンが噴射するようすをみるような覚醒と狂気。ライヴ独特の素晴らしい緊張感。これはグールドのセッション録音盤から味わえない魅力ですね。途中グールドの声も出始めています。スウェーリンクの時は静かでした(笑)

このアルバムで最もキレた演奏は次のモーツァルト。冒頭のなんという絶妙な入り。シェーンベルクの余韻もさめやらぬ中、まるで奏者が変わったかのような完璧なスタイルチェンジ。羽毛のような軽さと可憐さとその奥に潜む暗黒の狂気のようなものまで暗示させる、抑制の美学。私はモーツァルトのK.330でこの演奏が最も好きな演奏です。1楽章はおそらく5分程度の力で、おそらく凄まじい集中力で指先をコントロールしていることでしょう。コントロールされた軽さと言えば良いでしょうか。2楽章は同様の力感ですが、バッハのポリフォニーの一部のみを取り出したような旋律のコントロール。曲想も手伝って孤高の音楽がしばらく続きます。これだけ少ない音符からこれだけ濃い音楽を、限られたデュナーミクとリズムの変化の中で表現できるのはものすごいことなんでしょう。3楽章にはいるとテンポが上がってグールドの指はキレまくります。グールドの歌声も激しさを増します。モーツァルトの音楽からグールドが乗ったときに見せる恍惚感すら感じさせ、最後の音をカチッと強調して終了。おそらく会場はグールドマジックに包まれているでしょう。

おそらく休憩を挟んでのことと思いますが、最後はグールドの十八番、ゴールドベルク変奏曲。1955年のスタジオ録音盤で衝撃的なデビューとなったグールド故、そのアルバムがグールドの代表的なアルバムとなっていますが、私はライヴの緊張感もあり、このアルバムの方の演奏の方が好きです。初めてグールドの演奏を手に入れたのは晩年の方のゴールドベルク変奏曲のLP。こちらもすり切れるまで聴いた愛着ある演奏ですが、その後55年盤を聴いた時の衝撃は忘れられません。55年盤の自由闊達さのエネルギーの凄さに圧倒されました。そしてこのライヴには55年盤の創意に加えてライヴの感興が加わり、録音もこの時代のライヴとしては申し分ない鮮明さ。長くなりましたので、ゴールドベルク変奏曲は是非聴いてそのすばらしさを味わっていただきたいと思います。

ジャケットの出来も含めてこのアルバムはグールドの数多いアルバムの中でも私は一押しのおすすめ盤です。健全だった若い時のグールドの迸る狂気をそのまま真空パックで自宅に持ち込めるようなすばらしいプロダクション。ピアノ音楽の可能性の一つの極致をしめしたものではないかと思ってます。

朝飯は味の干物をつまみに近所の床屋さんにいただいた山形蕎麦をすすってます。せっかくの土曜ですが今日はこれから仕事に出かけます(涙)。できれば夜、ハイドンのレビューを一本書きたいと思います。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : モーツァルト スウェーリンク シェーンベルク バッハ ライヴ録音 おすすめ盤 ザルツブルク音楽祭

プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

最新記事
カテゴリ
ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
タグリスト
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交響曲54番迂闊者ネルソンミサバリトン三重奏曲弦楽四重奏曲Op.54ベートーヴェンピアノソナタXVI:52ピアノソナタXVI:49交響曲2番ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:46日の出皇帝弦楽四重奏曲Op.71交響曲88番ブルックナーベルリオーズベンジャミンウェーベルンバッハナッセングリゼーシェルシメシアンヴァレーズOp.20弦楽四重奏曲モーツァルト交響曲65番交響曲67番交響曲9番弦楽四重奏曲Op.76交響曲39番交響曲73番狩り交響曲61番リームピアノソナタXVI:48アンダンテと変奏曲XVII:6ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:6四季交響曲全集リムスキー・コルサコフラヴェル弦楽四重奏曲Op.64ピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:45ピアノソナタXVI:21ピアノ三重奏曲第九ヒストリカル太鼓連打オックスフォード時計ボッケリーニ交響曲99番シューベルトロンドン天地創造交響曲5番ストラヴィンスキーチャイコフスキーチェロ協奏曲ピアノ協奏曲XVIII:11ライヴ弦楽四重奏曲Op.2序曲ヴィヴァルディ軍隊オペラ序曲パイジェッロアリア集ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.74変わらぬまこと騎士オルランド哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェアルミーダ無人島チマローザ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:1ピアノ協奏曲XVIII:4ピアノ協奏曲XVIII:3弦楽四重奏曲Op.20古楽器アレルヤラメンタチオーネ交響曲3番交響曲79番驚愕チェロ協奏曲1番交響曲27番交響曲19番交響曲58番ショスタコーヴィチ紀尾井ホールドビュッシーミューザ川崎協奏交響曲LPオーボエ協奏曲ヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:29ピアノソナタXVI:38スタバト・マーテルピアノソナタXVI:39マーラー十字架上のキリストの最後の七つの言葉交響曲90番告別交響曲97番交響曲18番奇跡ひばりフルート三重奏曲悲しみ交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者ニコライミサ小オルガンミサミサブレヴィス交響曲95番交響曲93番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃武満徹SACDライヴ録音交響曲81番交響曲80番交響曲21番マリア・テレジア豚の去勢にゃ8人がかりクラヴィコードBlu-ray東京オペラシティ交響曲10番交響曲12番交響曲11番交響曲4番交響曲15番交響曲1番交響曲37番ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:3ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:5ディヴェルティメントリヒャルト・シュトラウス東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35ピアノソナタXVI:7ドニぜッティロッシーニライヒャ弦楽三重奏曲シェーンベルク東京文化会館ホルン協奏曲フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ピアノソナタXVI:26ピアノソナタXVI:31ファンタジアXVII:4パレストリーナモンテヴェルディアレグリタリスバード美人奏者交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンスコットランド歌曲ガスマンヴェルナーピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲35番交響曲46番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3ラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナードピアノソナタXVI:51五度ラルゴラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス時の移ろい交響曲42番ベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番トランペット協奏曲ピアノソナタXVI:10リュートピアノ五重奏曲チェチーリアミサ東京国際フォーラムラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン雌鶏冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:9ピアノ協奏曲XVIII:5ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオモテットオフェトリウムドイツ国歌カノン弦楽四重奏曲Op.50よみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難パリセット交響曲84番ベルク主題と6つの変奏オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノ交響曲68番交響曲57番リラ・オルガニザータ協奏曲交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲交響曲38番火事リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲34番交響曲77番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生ピアノソナタXVI:47bisピアノ小品音楽時計曲ピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフヘンデルサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲75番交響曲66番交響曲91番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭ピアノソナタXVI:22変奏曲XVII:7天地創造ミサジャズ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲62番交響曲108番交響曲107番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲スカルラッティカンタータ声楽曲戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽ピアノソナタ

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