ズービン・メータ渾身の春の祭典(ミューザ川崎)

母の葬儀後にも関わらず、事前にチケットをとってあったイベントが目白押し。くよくよもしていられませんので、予定をこなすことにしました。告別式翌日木曜は前記事に書いたポール・ルイスのコンサート、勤労感謝の日の金曜は友人の計らいで友人宅に招かれガーデンランチ、土曜日は歌舞伎座、そして日曜はバイエルン放送響のチケットをとってありました。それぞれチケットを取ったのは大分前なのでこのような流れになるとはついぞ思いませんでしたが、不思議と葬儀などと予定が重なることがなかったというか、かなり緊密なスケジュールとなってしまっています。

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ミューザ川崎:バイエルン放送交響楽団

このコンサートはご承知の通り、当初マリス・ヤンソンスの指揮ということでチケットを取りましたが、ヤンソンスが健康上の理由により来日できなくなり、代役としてズービン・メータが来日するとのアナウンスがありました。このチケットを取ったのは、一昨年、ミューザで聴いたヤンソンスの軍隊とアルプス交響曲が素晴らしかったからに他なりません。

2016/11/27 : コンサートレポート : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)

そのヤンソンスが再びバイエルン放送響を従え、春の祭典を振るということで、チケットを取った次第。指揮者がメータに変わりましたが、私の年代はメータを随分聴いていますので、ヤンソンス以上に懐かしさもあって、チケットはそのまま確保しました。プログラムは春の祭典は変わらずですが、前半はドヴォルザークの交響曲7番から下記のように変わりました。

シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」序曲(D.797)
シューベルト:交響曲第3番(D.200)
(休憩)
ストラヴィンスキー:「春の祭典」

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ミューザ川崎は意外と便利で、この日は日曜ということで車で行きましたが、自宅から40分ほどで着きます。世の中もうすぐクリスマスということで、イルミネーションが施され華やいだ雰囲気になってますね。

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この日は18時開演で17時開場ということで、開場時間にはホールについて、のんびりサンドウィッチなどをつまんで開演を待ちました。

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席はミューザ会員のみ発売の3階の一番安い席。視界はちょっと遮られますが、この席でも音響は非常に鮮明というか、正面の席より響きがダイレクトでこちらの席の方がいいくらい。3階席の音響が劣悪なオペラシティとはかなり違います。

この日のお客さんの入りは8割くらいだったでしょうか。チケットもそれなりの値段なので満員とはいきませんでした。

さて、開演時刻となり、後半の春の祭典ように設えられたステージの前の方に前半のシューベルトの演奏のメンバーが着席します。チューニングが終わると、メータが登場し、嵐のような拍手に迎えられます。というのもメータは介助者を伴い、杖をつきながらゆっくりと指揮台に向かいます。今年イスラエルフィルとの来日をがん性腫瘍の治療のために断念したとの情報は入っていましたが、恰幅のいいメータが歩くのもおぼつかないとは思ってもみませんでした。指揮台の下手側にはスロープがつけられ、介助者とコンサートマスターに支えられてようやくスロープを登れる状態。ヤンソンスの代理とはいえ、この体調でよくぞ日本までやってきました。ステージ上には椅子が置かれ、メータが椅子に腰掛けると介助者が15cmくらいの高さの脚台を置き、メータがその上に脚を置き準備万端。介助者が下手袖に戻る前にメータのタクトが上がり、1曲目のロザムンデ序曲が始まります。脚元はおぼつきませんが、眼光とタクトは鋭く、オケのコントロールするのは問題なさそう。そしてバイエルン放送響の奏でる響きは重厚かつうっとりするような柔らかく美しい響き。メータの指揮はゆったりと音楽をつくっていくまさに巨匠風。晩年のベームがウィーンフィルを振っているようなオケの自主性を活かした演奏。とろけるような響きに加えて、クライマックスへの持っていき方も若き日のメータの聴かせ上手さが感じられる見事なもの。一昨年に聴いたヤンソンスの滑らかなコントロールが行き届いた演奏とは異なり、味わい深さと響きの重厚な美しさが印象的な演奏でした。老いてしまったメータの姿に少々心配しましたが、演奏は見事なもの。もちろん盛大な拍手がふりそそぎました。

拍手に応えてメータが奏者をねぎらうと、メータは座ったまま、すぐに2曲目の交響曲3番に入ります。3階席から見下ろすとメータは上半身はしっかりしているものの、脚はかなりやせ細っています。おそらく長期間ベットに伏していたために脚の筋肉が落ちてしまったのでしょう。ただし、鋭い眼光とタクトが繰り出す音楽は弾んでいました。ここでも均整のとれた重厚な響きで観客を魅了。ゆったりとしたテンポは変わりませんが、やはりバイエルン放送響の木管陣は見事。クラリネットがくっきりと浮かび上がり、フルートやオーボエの美しさも流石なところ。まさに横綱相撲。円熟味と圧倒的な風格で聴かせます。1楽章の重厚な構成感、2楽章のコミカルなメロディーを優雅に聴かせる表現力、ホールを柔らかく包むように鳴り響く3楽章のメヌエット、調性の綾の美しさを織り込みながらリズミカルに盛り上がる終楽章。タクトの先で的確にオケに指示を出し、やはりメータの音楽をしっかりとつくりあげていました。ミューザの美しい残響に浮かび上がるあまりに美しい響きにうっとり。シューベルトも得意な方ではありませんが、存分に楽しめました。もちろん、前半終了時にも関わらずホールの興奮は最高潮。木管を中心に奏者をねぎらうと、介助人が杖を持って迎えに入り、拍手に包まれながらメータがステージを降りて前半終了。

休憩後再び介助者に付き添われてステージ上にメータが現れると、暖かい拍手がメータを包みます。前半同様指揮台の上のイスに腰掛けると、今度は介助者の退場を見送る余裕がありました。後半の春の祭典は本当に素晴らしかった! 前半のシューベルトは激しい曲ではないので座ったメータのタクトで十分コントロールできる範囲ですが、春の祭典は厳しいのではなかろうかという予想を完全に裏切る緻密なコントロール。春の祭典といえば今年の6月にロト/レ・シエクルの爆演を聴いたばかりですが、それにも劣らぬ感動的な演奏でした。テンポは比較的遅めで雄大な春の祭典。しかも全盛期のメータを彷彿とさせる重量級のど迫力。オケは世界最高峰の一つであるバイエルン放送響ということで、メータの眼力で一糸乱れぬ演奏を繰り広げました。春の祭典でも木管陣は完璧。そして肝心のパーカッションもリズムキレキレ。またしても風格ある横綱相撲を見せつけられた感じ。体の動きに制限のあるメータでしたが、各パートへの的確な指示を繰り返してこの難曲を見事にまとめあげました。スリリングさの極致に到達したロトに対し、この現代音楽の古典を太い軸でまとめたメータの至芸をたっぷりと味わいました。脚元のおぼつかないメータの熱演に会場からは文字通り嵐のような拍手とブラヴォーが降り注ぎました。メータもこの日の出来に納得したのか次々と奏者をたたえ拍手に応えます。ステージ袖と指揮台を往復する体力は残されていませんが、自力で立ち上がって観客の拍手に会釈する姿は感動的でした。こうしたコンサートで、ましてやこのメータの体調でアンコールはないと思いきや、拍手を制したメータが観客席に向かって「チャイコフスキー!」と告げるとすぐにくるりと振り返って白鳥の湖のワルツが始まりました。春の祭典の緊張感から一変して優雅なワルツ。しかも聴かせ上手なメータのゴージャスなワルツが流れ、場内が一気にリラックス。アンコールにしては長い10分近い演奏に皆夢見心地。コンサートに足を運んだお客さんにこれ以上のもてなしはないでしょう。もちろん、割れんばかりの拍手喝采が続き、皆立ち上がってスタンディングオヴェーション。もちろんメータが介助者に付き添われて舞台袖に下がった後も拍手は鳴り止まず、今度は車椅子に乗って再び登場すると拍手は一層激しくなり場内は歓喜に包まれました。

いやいや、感動的なコンサートでした。この体調では再度の来日ができるかわかりませんので、代役という奇遇とはいえメータのコンサートを聴くことができたことは忘れられない出来事として記憶に残ることでしょう。メータは母と同じく1936年生まれの82歳。入院して脚が細くなってしまうのも重なって深く心に刻まれました。

メータさんもし来日する機会があれば必ず聴きにきます!



コンサートの興奮が残る中、ミューザのコンサート時に定番にしている1階の牛タン屋さんで牛タン定食をいただいて帰りました。

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本日は車なので、私はノンアルコール(涙)

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ここの牛タンは旨味が濃くて美味しいです。本場仙台よりも旨いくらい。オススメです。



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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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