グールド1959年のザルツブルク音楽祭ライヴ

いやはや、木曜日は飲み会、金曜日は仕事が忙しくちゃんとした更新がままなりませんでした。今週は激務でしたね。今日は気分転換を兼ねて、久しぶりにハイドン以外で好きなアルバムを取り上げましょう。

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グレン・グールドの1959年8月25日、ザルツブルク音楽祭でのコンサートのライヴ。プログラムはスウェーリンクのファンタジア、シェーンベルクのピアノのための組曲作品25、モーツァルトのピアノ・ソナタ第10番ハ長調K.330、そしてバッハのゴルドベルク変奏曲との痛快なプログラム。収録はザルツブルクのモーツァルテウムです。

ご存知のとおり、グレン・グールド(Glenn Gould)は1932年、カナダのトロント生まれのピアニスト。グールドが有名なのは、誰も真似の出来ない突き抜けた個性と、その個性を超越した、バッハを中心としたポリフォニックな音楽の素晴らしさによって。また、コンサートを捨てて録音というプロセスも含めて自身の演奏を再構成した創造行為によってその真価をつたえたことでも有名。グールドはコンサートで弾くことをやめてしまったので、ライヴ収録されたものは若い時のもの中心なんですね。このアルバムはグールド27歳の時の録音。

グールドについては書籍も多く出版され、私も興味津々で何冊か読みました。生前に出版されたジェフリー・ペイザントの「グレン・グールド なぜコンサートを開かないか」(初版1981年)は最初にグールド像を知った本。家にあるのは82年の2刷。今取り出してみたら、付箋がついていたり、気になる文に線が引かれていたり精読した痕跡が。昔は真面目に本を読んでいたんですね(笑)。この本からもグールドの狂気のような創造活動が伝わってきます。それから「WAVE37グレン・グールド(改訂版)」(1993年)。今は六本木ヒルズになってしまった六本木WAVEで買いましたが、グールドについて多くの記事をまとめたもの。編集が秀逸でグールド像が浮かび上がる素晴らしい構成。同じシリーズの「カルロス・クライバー」も素晴らしい出来で今でもたまに取り出します。そして、オットー・フリードリックの「グレン・グールドの生涯」(1992年)。おそらくグールドの伝記をまとめたものでは決定版という存在でしょう。グールドの音楽は、その音楽自体を聴いて得られる研ぎすまされた芸術性、突き抜けた個性と、書籍などから得られるその創造のプロセス、思考などの背景の両面を理解すると一層その大きさが理解できます。

グールドが亡くなったのが1982年、50歳という若さでしたが、気づいてみると来年2012年はグールド没後30年となるため、もしかしたらいろいろなアルバムが再発売されたり、雑誌や書籍がリリースされたりするのでしょうね。こちらも楽しみではあります。

グールドについては当ブログ立ち上げ初期にハイドンのソナタの演奏をを簡単に紹介しています。

ハイドン音盤倉庫:グールド最晩年の輝き

昔は簡単なレビューだったんですね(笑)

今日取り上げるアルバムはこれはインヴェンションとシンフォニアのスタジオ録音盤に並ぶ私のグールドの愛聴盤。このコンサートを生で聴いていたらグールドの恐ろしいまでの集中力と狂気にノックアウトされていたでしょう。基本的にセッション録音よりもライヴの方が好みゆえ、グールドのライヴはいろいろ手を出しましたが、私の聴く限りこのアルバムが突き抜けて素晴らしい出来です。

出だしのスウェーリンクのファンタジア。スウェーリンク(1562-1621)はルネサンス末期からバッロック期のオランダの作曲家とのこと。10分弱の小曲。ルネサンス期のゴールドベルク変奏曲のような曲。まずプログラムに最初にこの曲をもってくるというのが凄い発想。最後におかれたゴールドベルク変奏曲との関連を暗示させる曲想と、バッハとは異なる響きの奥深さ、歴史のパースペクティブの深遠さを感じる選曲。一音目から狂気と殺気が漲る恐ろしいまでの集中力。ホールの聴衆全員が静寂の中、グールドの指先から奏でられる旋律に惹き付けられているようすが伝わります。ルネサンス期の音楽らしい祈りにもにた純粋さを感じるシンプルな旋律を重ねて行き、徐々にポリフォニッックな展開になっていくにつれて、グールド特有のすべての旋律が独立してコントロールされているような完璧なコントロールに。おそらく聴衆はその音楽に打ちのめされているんでしょう。一曲目からグールドという天才奏者に完全に支配された奇跡的な瞬間に出会うこととなったこの日の聴衆がうらやましいです。曲が進むとグールド流のエクスタシーにも近い恍惚とした流れに。最後はその恍惚を断ち切るけじめのような終わり方。拍手が会場の興奮を伝えます。

つづいてシェーンベルクのピアノのための組曲作品25。スウェーリンクの響きに潜む現代音楽にも似た響きの韻を踏むような選曲。この曲の他の奏者の演奏は数例しか聴いたことはありませんが、音楽の濃さは別次元。ヴェーベルンまで音を分解する前のメロディーを少し残したシェーンベルクの曲を、グールド流にポリフォニックな関連を色濃く描いていきます。特に左手の強い打鍵が印象的。途中トラック6の時計のリズムのような曲想の部分では宇宙のような空間の広がりを感じさせる閃き。この曲も全体で10分少しの小曲ながら、会場はグールドの音楽に完全に支配されています。脳のシナプスからアドレナリンが噴射するようすをみるような覚醒と狂気。ライヴ独特の素晴らしい緊張感。これはグールドのセッション録音盤から味わえない魅力ですね。途中グールドの声も出始めています。スウェーリンクの時は静かでした(笑)

このアルバムで最もキレた演奏は次のモーツァルト。冒頭のなんという絶妙な入り。シェーンベルクの余韻もさめやらぬ中、まるで奏者が変わったかのような完璧なスタイルチェンジ。羽毛のような軽さと可憐さとその奥に潜む暗黒の狂気のようなものまで暗示させる、抑制の美学。私はモーツァルトのK.330でこの演奏が最も好きな演奏です。1楽章はおそらく5分程度の力で、おそらく凄まじい集中力で指先をコントロールしていることでしょう。コントロールされた軽さと言えば良いでしょうか。2楽章は同様の力感ですが、バッハのポリフォニーの一部のみを取り出したような旋律のコントロール。曲想も手伝って孤高の音楽がしばらく続きます。これだけ少ない音符からこれだけ濃い音楽を、限られたデュナーミクとリズムの変化の中で表現できるのはものすごいことなんでしょう。3楽章にはいるとテンポが上がってグールドの指はキレまくります。グールドの歌声も激しさを増します。モーツァルトの音楽からグールドが乗ったときに見せる恍惚感すら感じさせ、最後の音をカチッと強調して終了。おそらく会場はグールドマジックに包まれているでしょう。

おそらく休憩を挟んでのことと思いますが、最後はグールドの十八番、ゴールドベルク変奏曲。1955年のスタジオ録音盤で衝撃的なデビューとなったグールド故、そのアルバムがグールドの代表的なアルバムとなっていますが、私はライヴの緊張感もあり、このアルバムの方の演奏の方が好きです。初めてグールドの演奏を手に入れたのは晩年の方のゴールドベルク変奏曲のLP。こちらもすり切れるまで聴いた愛着ある演奏ですが、その後55年盤を聴いた時の衝撃は忘れられません。55年盤の自由闊達さのエネルギーの凄さに圧倒されました。そしてこのライヴには55年盤の創意に加えてライヴの感興が加わり、録音もこの時代のライヴとしては申し分ない鮮明さ。長くなりましたので、ゴールドベルク変奏曲は是非聴いてそのすばらしさを味わっていただきたいと思います。

ジャケットの出来も含めてこのアルバムはグールドの数多いアルバムの中でも私は一押しのおすすめ盤です。健全だった若い時のグールドの迸る狂気をそのまま真空パックで自宅に持ち込めるようなすばらしいプロダクション。ピアノ音楽の可能性の一つの極致をしめしたものではないかと思ってます。

朝飯は味の干物をつまみに近所の床屋さんにいただいた山形蕎麦をすすってます。せっかくの土曜ですが今日はこれから仕事に出かけます(涙)。できれば夜、ハイドンのレビューを一本書きたいと思います。

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : モーツァルト スウェーリンク シェーンベルク バッハ ライヴ録音 おすすめ盤 ザルツブルク音楽祭

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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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