バルトルト・クイケン/オーケストラ・リベラ・クラシカ第44回定期演奏会(石橋メモリアルホール)

11月3日から8日まで約1週間、関西方面に旅に出ておりました。この後いつものように旅行記をアップします。そして帰着翌日の9日はチケットを取ってあったコンサートへ。

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オーケストラ・リベラ・クラシカ 第44回定期演奏会

皆様ご存知のとおり、オーケストラ・リベラ・クラシカ(OLC)はハイドンを集中的に取り上げているオケですが、私は前回の定期公演で初めて顔を出しました。その件は前回のレポートをお読みください。

2019/06/29 : コンサートレポート : 鈴木秀美/リベラ・クラシカ第43回定期演奏会(三鷹市芸術文化センター)

そして前回に続いて今回もチケットを取りましたが、お目当てはフラウト・トラヴェルソの名手、バルトルド・クイケンに他なりません。バルトルトのハイドンは冴え冴えとした名演ばかり。

2015/08/28 : ハイドン–室内楽曲 : 【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2015/07/19 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン三兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)
2011/11/23 : ハイドン–室内楽曲 : クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」

フルートものには格別に造詣が深い当ブログのご意見番Skunjpさんをして「消え際の天才」と称されるバルトルト・クイケンのフルートを生で聴く千載一遇のチャンスということでチケットを取った次第。

この日のプログラムは以下のとおり。

ハイドン:交響曲第4番 ニ長調(Hob.I:4)
モーツァルト:フルート協奏曲 第1番 ト長調(K.313)
(休憩)
ヨハン・クリスティアン・バッハ:フルート協奏曲 ニ長調(W. C 79)
ハイドン:交響曲第104番「ロンドン」 ニ長調(Hob.I:104)

通常は協奏曲を1曲のところ、休憩前後に2曲の協奏曲がおかれるプログラム。そしてハイドンの交響曲は4番と104番「ロンドン」。ロンドンが取り上げられたということで、もうかなりの数の交響曲が演奏されたかと思いきや、配布されたプログラムによると、2002年に始まったこれまでの44回の公演で演奏されたのがハイドンの交響曲の半数くらいとのこと。加えて、このOLCの公演は鈴木秀美さんの体調や経済的理由により1年間お休みとなることが記されていました。104曲という数はそれだけインパクトのある数ということなんでしょう。

会場の石橋メモリアルホールは今回初めての訪問。もともと1974年に室内楽用のホールとしてオープンしたものが、2010年に建て替えられたものとのこと。上野学園の高層ビルの低層階に設けられたもので、設計は現代建築研究所。

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ホワイエは現代建築研究所らしく整然として白を基調としたクリーンな印象。ホワイエの要所の壁面にバブル全盛期に流行ったスタッコアンティコ風の仕上げの壁面があり妙に懐かしい気持ちになった次第(笑)

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この日の席は2階右側のバルコニー席から見下ろす感じ。

開演は15時。お客さんの入りは9割くらい。

1曲目のハイドンの交響曲4番では鈴木秀美さんは指揮台ではなく、オケの中央でチェロを演奏しながらの指揮。この曲は番号どおりごく初期の交響曲でおそらくモルツィン伯爵家の音楽長時代に作曲されたもの。メヌエットが終楽章にくる3楽章構成の小交響曲。編成はヴィオラ以下を1名に絞った小編成の弦楽器とホルン、オーボエが各2本。ホールの天井面が巨大な平面なせいか、オケの響きがやや鋭利に聴こえる感じ。演奏は快活そのもので、心配されたリズムも重くなく、素直に楽しめる演奏。1楽章はう少しテンポが速ければより爽快になるじゃないかしらと思いながら聴きました。なかなか良かったのがアンダンテ。不思議な音階のリズムに乗って静謐なメロディーが重ねられる初期のハイドンの独創的な音楽。生で聴くと楽器のメロディーの受け渡しの視覚的な情報もあって音楽の構造がよくわかりました。フィナーレのメヌエットはナチュラルホルンが重ねる響きが美しく聴き応え十分。鈴木秀美さんは中央でチェロでいきいきとオケをリードします。1曲目でしたがオケの精度も悪くなく、見事な演奏に拍手喝采。

続いて、お目当てのバルトルト・クイケンのソロによるモーツァルトのフルート協奏曲。この曲を聴くのは実に久しぶり。刷り込みはパイヤールが伴奏したランパル盤。1991年のモーツァルトのアニヴァーサリーイヤー前後によく聴いていました。ランパルの豊穣な音色とパイヤールの華やかな伴奏で実に華麗な演奏。ところがこの曲をクイケンが吹くと、一瞬にして峻厳な深みを感じさせるクイケンの世界に引き込まれます。もちろんフルートとフラウトトラヴェルソの違いはあるものの、ハイドンの名盤で聴かせたフワッとして慎み深いバルトルトの独特の世界が現れます。協奏曲のソロなのにことさら目立とうとするのではなく、淡々としながらも異常に冴え渡る感覚はこの人ならでは。あまりの素晴らしさにこちらの耳も冴え渡ります。各楽章のカデンツァはシンプルそのものでこちらもあっさりしたものですが、音色の深みは底知れず。絶品でした。

そして、休憩後はバルトルトの希望でプログラムに入れられたヨハン・クリスチャン・バッハのフルート協奏曲。モーツァルトやハイドン に大きな影響を与えたとされるクリスチャン・バッハは割と好きで手元にアルバムもかなりの数があります。この曲になって鈴木秀美さんの指揮も随分と穏やかになり、オケが実にしなやかになります。バルトルト・クイケンのフラウトトラヴェルソはモーツァルト以上に冴え渡り、もはや天上の音楽を聴くが如き至福の領域に。まるで清水の流れのように全く淀みのない清透なメロディー。速いパッセージでの音階も全く抵抗を感じない鮮やかさ。そしてフワッと自然に音が消え入る消え際の美しさ。クイケンの演奏は目眩くようなクリスチャン・バッハの作品によりマッチして、幽玄な世界に到達。こちらも絶品の演奏でした。もちろんお客さんもこの日1番の拍手でたたえました。何度かのカーテンコールの後、アンコールに演奏されたのはヨハン・セバスチャン・バッハのラルゴ。クリスチャンの華やかさから一変、まるで尺八でも聴くような求道的な張り詰めた演奏にお客さんものまれる素晴らしい演奏。いやいや、わざわざ聴きにきた甲斐がありました。やはりバルトルト・クイケンは素晴らしかったです。

クイケンの演奏の興奮も冷めやらぬ中、ステージ上の座席を増やして、最後のロンドン。序奏から大迫力で入りますが、何しろリズムが重い。ロンドンは名曲ではありますが、力任せの演奏はちょっとくどくなりがち。アクセントをかなり溜めがちなところがその印象を強くしていると思います。冒頭の4番やクリスチャン・バッハで鮮やかな演奏を聴かせていただけに、惜しいところ。クイケンのクリスチャン・バッハにブラヴォーと掛け声をかけたお隣の男性、2楽章の終わりで席を立ち帰ってしまわれました。

終演後、鈴木秀美さんから、OLCのコンサートを1年お休みすることなどが告げられた後、アンコールはオックスフォードのメヌエット。ザロモンセットの最後のロンドンの後に何を演奏しようかと考え、ハイドンがロンドンへの第1回旅行の最初にオックスフォードで演奏した曲を選んだとの説明に続いて演奏されました。畳み掛けるような前のめりの演奏でリズムもキレて迫力十分。これは素晴らしかった。

この日のコンサート、ハイドンの交響曲をコンサートで全曲演奏することがいかに大変なことかを実感させられるコンサートでした。鈴木秀美さんの体調不良もあるとのことですが、経済的理由もあると付け加えられており、商業的に100曲以上の交響曲を演奏、録音することはやはり大事業。前回のコンサートに初見参し、今後は顔を出そうということで出かけたコンサートでしばらくお休みになってしまうという巡り合わせからそう感じた次第。

さて、生で二度体験したOLCですが、勢いに乗った時の良さも体験したので、未入手のアルバムを集めて色々聴いてみようかと思います。



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tag : 交響曲4番 ロンドン オックスフォード モーツァルト ヨハン・クリスチャン・バッハ

【新着】イヴァン・イリッチのピアノによる交響曲集(ハイドン)

しばらくメジャー系のアルバムを取り上げていましたが、そろそろマイナー系が恋しくなってきました(笑)

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TOWER RECORDS / amazon

イヴァン・イリッチ(Ivan Ilić)のピアノによる、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、75番、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2019年2月28日から3月2日にかけて、イングランドのロンドン北西の海沿いの街、サフォーク(Suffolk)のポットン・ホール(Potton Hall)でのセッション録音。レーベルは英CHANDOS。

ハイドンの交響曲をピアノで演奏したアルバムは、今までにも何枚か聴いていますが、いずれも2楽章など単一楽章を演奏したものばかり。ハイドンのピアノソナタ全集を録音した、ヤンドーやデルジャヴィナなどのものが知られていますが、4楽章をフルにピアノで演奏したものを聴くのは私ははじめて。確認のため所有盤リストを検索してみると、やはり手元にはありませんでした。収録曲も、オックスフォードや悲しみなどよく知られた曲に混じって75番という超マイナー曲が含まれているのが気になります。ということで、これは非常に珍しいアルバムであると言っていいでしょう。

演奏してるイヴァン・イリッチもはじめて聴く人。それもそのはず、このアルバムが彼の5枚目のアルバムで、前4枚はゴドフスキー、モートン・フェルドマン、アントン・ライヒャなど知る人ぞ知る作曲家の作品を再発見に近い形で取り上げるというコンセプトのアルバムばかりです。今回リリースされたのは、作曲家こそメジャーなハイドンですが、名曲の宝庫であるソナタではなく、これまた知る人ぞ知る、交響曲のピアノ版という超変化球を投げてきました。この人、相当マニアックです(笑)

そのピアノ独奏版への編曲(トランスクリプション)は、ドイツの音楽家カール・ダーヴィト・シュテークマン(Carl David Stegmann)によるもの。シュテークマンはハイドンより19歳若く、1751年の生まれで、テノール歌手、オルガン奏者、指揮者、作編曲家として活躍した人とあります。そしてこのアルバムの3曲は全曲世界初録音とのこと。

このような編曲が行われた背景がライナーノーツの触りに記載されていました。ハイドンが活躍していた時代には録音もラジオもなかったため、音楽愛好家にとって曲を知ったり深く理解する唯一の方法は原曲をメロディーやハーモニーをほぼそのまま他の楽器、例えば多くの人が演奏できるピアノ向けに編曲して演奏することがだったとのこと。当時ヨーロッパで絶大な人気を誇ったハイドンの交響曲がピアノ独奏版に編曲されるニーズがあったのは想像に難くないでしょう。現在では数多の録音が流通しているため、こうした原曲のまま他の楽器に移し替えるというニーズはなくなりつつありますが、そうした背景を知ってこの録音を聴くことで、このピアノ独奏版の交響曲という特殊な演奏の深みを味わうことができそうです。

と、ここまで書いて思い出しましたが、そういえばデニス・ラッセル・デイヴィスと滑川真希の連弾による天地創造と四季のアルバムをだいぶ前に取り上げましたね。

2010/09/13 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造2
2010/09/12 : ハイドン–オラトリオ : ピアノ連弾による四季と天地創造

かなり前のことゆえうろ覚えでしたが、確認してみると、こちらはだいぶ時代が下って、ツェムリンスキーが編曲したものということで、背景は異なるものでした。

さて、肝心の演奏です。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
CHANDOSがよく使う録音会場だけにピアノの響きの艶やかさが印象的な録音。交響曲の充実した響きと比べてしまいがちですが、ピアノという単一の音色の楽器にしてはニュアンスが多彩で、フレーズごとに音楽がスルスルと流れていく快感が味わえます。曲はよく知っている曲だけに、その響きのエッセンスをトレースするように聴こえてきました。音量を少し上げて聴くと迫力も十分。脳内でオケの響きを想像しながら聴くようになり、なんとなくオーケストラ版を聴くよりも脳が活性化する感じ(笑) 表情が豊かなので、聴きごたえ十分。
かっちり多彩な1楽章に続いて、2楽章のカンタービレ。この美しいメロディーはピアノに合いますね。中間部の重量感こそないものの、メロディーラインのひらめきを純粋に味わえるというメリットがありますね。
意外にしっくりきたのがメヌエット。ピアノのキレの良さが曲本来の軽快な印象を浮かび上がらせます。トリオのしっとりとした表情もしっかり対比が効いていて効果的。メヌエットのメロディーと構成の美しさを再認識。
そして、有名なフィナーレ。どうしても脳内には朝比奈隆盤の夢見心地で弾む入りのメロディーが浮かびます。イリッチはリズムをキリリと引き締め、畳み掛けるようにきっちりと音を重ねていきます。やはりここはハイドンのフィナーレの見事な構成感を浮かび上がらせたいのでしょう。オーケストラよりもリズムが明快なのは鍵盤楽器ならではのこと。展開の妙を見事な指捌きで落ち着いて仕上げてくるあたり、やはりテクニックは万全。全く破綻なく最後まで推進力を保つところも見事。

Hob.I:75 Symphony No.75 [D] (before 1781)
序奏のシリアスな陰影と主題に入ってからのメロディーの展開の面白さが、この曲を選んだ理由でしょうか。リズムのキレは前曲の終楽章から変わらず、推進力抜群。なんとなく気づいてきたんですが、この人、強音でも音が全く濁らず、力みもありません。交響曲のスケールを音量で表現しようとすると力みそうなものですが、一貫してクールに攻めます。それはハイドン、すなわち古典の曲だからでしょう。この軽妙さと端正さがハイドンの面白さと知ってのことでしょう。1楽章は小気味良くまとめますが、それこそ狙い通りなんでしょうね。
2楽章は抑制を効かせて実に穏やかな表情が美しい。ハイドンの慈しみ深い穏やかな心情に触れるよう。変奏が進むにつれて、光が射し、表情に明るさが加わっていきます。メヌエットでも小気味良いタッチは健在。音を転がしながらメロディーを作っていく感じ。そのままさらりと終楽章に続き、軽やかに終わります。

Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
一番気になっていた曲。あの濃密な曲想をどう料理してくるのでしょうか。1楽章の疾走するような入りは、軽やかと鮮やかなタッチで有無をも言わせぬしなやかさ! 響きは異なるもののこの曲独特の雰囲気をよく表現しています。そして意外にダイナミックな印象もあります。曲が進むにつれて入組む音符の多さと超絶技巧を要するような混濁を経ながら、落ち着いて仄暗い情感を表出していきます。いやいやこれは見事。時折指が絡まりそうになる瞬間がありますが、これがかえってスリリングでいいですね。
メヌエットはあえて淡々とした演奏で1楽章との対比をしっかり印象付けます。そして原曲では美しさの限りを尽くしたアダージョですが、ここも淡々としたままで、ちょっと驚きますが、逆に見透し良くハイドンの美しいメロディーが堪能できて結果的にイリッチにしてやられた感じ。じわじわと癒されていきます。
この曲のフィナーレは力強さと疾走感に包まれる名曲ですが、イリッチはその両方を見事に表現してきます。アルバムの最後にふさわしくぐっと踏み込んでクライマックスを築いてきました。いやいや見事!

イヴァン・イリッチによる、ハイドンの交響曲のピアノ独奏版世界初録音ですが、これは面白い! 実に玄人好みのアルバムで、演奏も見事。単にピアノで弾いたというレベルではなく、原曲のメロディーやハーモニーをなるべく変えないように編曲されたものを、ピアノという楽器の響きの特性を踏まえて、原曲の面白さとはちょっと違うところにしっかりとスポットライトを当て、しかも不自然でなく、また軽妙かつ端正なハイドンの音楽の本質をしっかりと踏まえたものになっています。ハイドン入門者向けとは言えませんが、色々聴いてきたハイドン通の皆さんにこそ聴いていただきたいアルバムだと言えるでしょう。評価は3曲とも[+++++]とします。



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tag : オックスフォード 交響曲75番 悲しみ

ホルスト・シュタイン/ドレスデン・シュターツカペレの太鼓連打、オックスフォード(ハイドン)

前記事でビーチャムの優美な交響曲を聴いて、穏やかな交響曲をもう少し聴いてみたくてLPの中から取り出した1枚。

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ホルスト・シュタイン(Horst Stein)指揮のドレスデン・シュターツカペレ(Staatskpelle Dresden)の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、92番「オックスフォード」の2曲を収めたLP。収録は1961年、レーベルはETERNA。

N響に度々客演していたので日本ではおなじみの方も多いホルスト・シュタイン。私は学生時代に父の仕事の関係で回してもらったコンサートのチケットで実演を聴いたことがあります。朧げな記憶とN響の演奏記録を照合すると、聴いたのはおそらく1983年2月にNHKホールでモーツァルトのプラハ、ヒンデミットのシンフォニア・セレーナ、オネゲルの交響曲3番 「礼拝」などが演奏されたコンサート。この日は大学の製図の締め切りで前日が徹夜だったため、モーツァルトは完全に子守唄で熟睡。目が覚めたのはヒンデミットに入ってから。ずんぐりむっくりしたシュタインの意外に緻密なタクトからの繰り出される多彩な響きと、穏やかな起伏を経て盛り上がる流れの良さ。この時はじめてヒンデミットを聴きましたが、独特な音楽に興味を持った覚えがあります。そしてオネゲルも聴いたことがあったのはパシフィック231くらい。こちらもオネゲルの迫力を生で存分に味わい、職人気質のホルスト・シュタインの繰り出す音楽の魅力を知った次第。

ホルスト・シュタインはWikipediaなどによれば、1928年、ドイツのエルバーフェルト(現ヴッパータール市)生まれの指揮者。フランクフルト音楽大学、ケルン音楽大学などで学び、その後はヴッパータール市立劇場合唱指揮者、ハンブルク州立歌劇場指揮者、ベルリン国立歌劇場を経てマンハイム国立劇場音楽監督になるなど、オペラの人。1952年から1955年にかけてバイロイト音楽祭でクナッパーツブッシュ、カイルベルト、カラヤンらの助手を務め、1962年にはバイロイトで「パルジファル」を指揮。1970年には「ニーベルングの指環」全曲を指揮するなどワーグナー指揮者として知られる人です。その後ウィーン国立歌劇場第1指揮者、ハンブルク州立歌劇場音楽総監督、スイス・ロマンド管弦楽団音楽監督、バンベルク交響楽団首席指揮者などを歴任するなど世界の一流どころで活躍。N響には16回客演しているとのこと。2008年に亡くなっています。

シュタインのハイドンの録音はおそらくこのアルバムのみ。しなやかで自然な流れと、大局を見据えて穏やかに盛り上げるコントロールはオペラの人ならではと言っていいでしょう。ハイドンの交響曲から穏やかに盛り上がる曲である太鼓連打を選ぶところも流石なところです。

Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)
モノラルながらモノラル用のプレーヤーでかけると適度に鮮明でピラミッドバランスの分厚い音色が心地よい録音。テンポもフレージングもオーソドックスですが、凡庸な感じは一切せず、むしろ揺るぎない安定感と迷いのない説得力に満ち溢れている感じ。主題に入るとオケの分厚い響きの魅力がさらに増していきます。そしてフレーズ毎の表現のキレ味も見事。オケのすべてのパートがあるべきバランスにしっかりとはまって完璧な響きが繰り出されます。まさに太鼓連打の理想的な演奏。優美な曲のフォルムを堪能できます。1楽章の最初と最後のティンパニも実に穏やかに響き渡ります。
続くアンダンテも穏やかでジワリと盛り上がる期待通りの見事なコントロール。ツッコミどころ皆無の完璧に淀みのない音楽。ホルスト・シュタインという人の堅実な音楽がハイドンにピタリとはまります。そしてメヌエットでもゆったりざくっりとここでもしなやかに音楽が流れます。外連味なく堅実な運びは、誰にもできそうですが、おそらくこの高みには誰も到達できないであろう、地道に磨き上げたコントロール能力のなせる技とみました。
そして遠くから響くホルンの絶妙に美しい音色で始まる終楽章は、曲の結びにふさわしい盛り上がりを予感させる、さざめくような音階から入ります。気持ちよく吹き上がるオケを自在にコントロールしてここでも完璧なバランスに仕上げてきます。恐ろしいばかりのコントロール能力。最後まで冷静に温かい音楽を作っていく能力に脱帽。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
太鼓連打同様、完璧に磨き抜かれたフォルムを纏った序奏から入ります。続く主題の推進力と迫力はなかなかのもの。速めのテンポによるフレーズのキレが良いのが推進力につながっているのでしょう。徐々に畳み掛けるような迫力を帯びて、1楽章から手に汗握る展開に圧倒されます。強奏の合間の木管の美しい響きがバランス良く聴こえるポイントなのでしょうか。素晴らしい迫力に惹きつけられます。
この曲の白眉たるアダージョは絶美。特に弦楽器のメロディーと木管に内声部のとろけるようなハーモニーは出色。完璧なフォルムに仕立てられた音楽に身をまかせるだけ。ハイドンの書いた音楽の美しさに何も足さず、素材だけで仕上げた本当の美しさ。ここまでの完成度に到達する演奏が他にありましょうか。メヌエットは太鼓連打同様優雅で堂々としたもの。そして、オックスフォードの聴きどころであるフィナーレの冒頭のメロディーはオケが軽やかに反応し躍動感満点。変奏を重ねるうちに徐々に盛り上がり、自然なクライマックスを構築。最後はビシッと決まります。

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ホルスト・シュタインによるハイドンの太鼓連打とオックスフォード。流石に歌劇場で鍛え抜かれたコントロール能力は伊達ではありませんね。ドレスデン・シュターツカペレの重厚な音色と相まって、ハイドンの交響曲の決定盤的な素晴らしい演奏に痺れました。派手な演出も個性的な解釈もないんですが、この演奏より完成度の高い演奏はありえないほどの揺るぎない構築感。その上ウィットに富んだフレージングもあり、晴朗なハイドンの魅力を存分に表していると言っていいでしょう。モノラルながら録音も盤石で、多くの方に聴いていただきたい名盤と言っていいでしょう。評価は[+++++]とします。



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tag : 太鼓連打 オックスフォード ヒストリカル

ニコラ・アルトシュテット/ハイドン・フィルのオックスフォード、チェロ協奏曲、驚愕(サントリーホール)

6月30日は楽しみにしていたコンサートに行ってきました。

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サントリーホール:ハイドン・フィルハーモニー

その名もハイドン・フィル。耳馴染みがないと思った方は、アダム・フィッシャーが設立したオーストリア・ハンガリー・ハイドン管弦楽団(Austro-Hungarian Haydn Orchestra)が2015年のシーズンからハイドン・フィルハーモニーと表記するように変わったというと合点が行くでしょう。当ブログの読者の方でもアダム・フィッシャーを知らない方はいないはず。そのハイドン・フィルが来日するということで、もちろんハイドン啓蒙に心血を注ぐ私がチケットをとったのはもちろんのこと。現在の芸術監督は2014年、アダム・フィッシャーの後任として登用されたニコラ・アルトシュテット(Nicholas Altstaedt)。そしてオールハイドンプログラムということで、現在のハイドンフィルの実力はいかほどのものか確認したいとの意図です。

ちなみにブログを書き始める直前の2009年にアダム・フィッシャーと当時のオーストリア・ハンガリー・ハイドン管は来日公演を行っていて、もちろんその公演も聴いています。そのことは次の記事でちょこっと触れています。

2010/01/24 : ハイドン–交響曲 : アダム・フィッシャー全集その後

アダム・フィッシャーのハイドンはBRILLIANT CLASSICSの全集が入手しやすいこともあり、多くの人が聴いていると思いますが、特に録音初期の生気あふれる演奏の魅力が聴きどころとなっていますし、実演でもそのあたりの聴かせ方が上手く、流石にハイドンの名を冠し、本拠地もハイドン自身が活躍したアイゼンンシュタットのエスターハージー城ハイドンザールであるだけのことはあるという演奏。

一方、現在の芸術監督のニコラ・アルトシュテットはもともとチェリストで、こちらもチェロ協奏曲のアルバムを取り上げています。

2014/03/07 : ハイドン–協奏曲 : ニコラ・アルトシュテットのチェロ協奏曲集(ハイドン)

記事に書いたように、この演奏は驚愕の演奏。ハイドンのチェロ協奏曲のカデンツァがまるで現代音楽のような恐ろしいまでのキレ味。これまで聴いたチェロ協奏曲の中でも1番の前衛的な演奏。それもそのはずで、クレーメルに師事し、2012年からはクレーメルが主催してきたロッケンハウス音楽祭の音楽監督を引き継ぐ存在。

ということで、オーソドックスにハイドンの魅力を伝えてきたオケをキレキレの若手がどうコントロールするのかというのが聴きどころということですね。この日のプログラムは以下のとおり。

交響曲第92番「オックスフォード」
チェロ協奏曲第1番(チェロ:ニコラ・アルトシュテット)
交響曲第94番「驚愕」



この日の開演時間は14:00ということで、ちょっと早めにアークヒルズに着き、中のお蕎麦やさんで昼食をとってから、おもむろに開場時間に入場します。するとこの日はホワイエでエスターハージー財団によるハイドン展なる展示がされているではありませんか。よく見るとチラシにもその旨書いてあるんですが、よく見てませんでした(笑) この日は2階のほぼ正面の席。いつものようにエスカレーターで2階に上がるとすでに展示された品々を皆さんじっくりと眺めていらっしゃいます。

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チラチラ見ながら廻って見ると見慣れた顔が。ハイドンの音楽を愛し手厚く処遇したニコラウスI世エスターハージー侯爵の肖像画の現物があるではありませんか。

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こちらはハイドンが1765年1月31日に四半期ごとのボーナス50グルテンを受け取った領収書。直筆のサインを目の前にすると、ちょっと感慨深いものがありますね。

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色々見廻ってはいても、脳を覚醒させることも必須です。いつものように、ビールとワインで景気付けして開演を待ちました。



この日はステージ裏や真横の2階席にはお客さんは入れず、また席の埋まり具合も半分くらいだったでしょうか。やはりハイドンだけでは集客が難しいのが現実かとは思いますが、この日のコンサートを聴かなかった人は素晴らしい機会を逸したことになりましたね。

ステージ上を眺めると、通常のオーケストラのコンサートならあるはずの椅子がなく、小規模オケ用に配置された譜面台などがパラパラと置かれ、その譜面台も立っての演奏用。チェロなどごく一部の楽器以外は立っての演奏のようです。定刻となり、団員が黒づくめの衣装に身をまとって入場、そしてチューニングは済ませてきたようで、間をおかずアルトシュテットも登壇。

アルトシュテットも黒づくめですが、カンフー選手のようにダボダボで動きやすそうな衣装。客席に向かってにこやかに一礼すると、すぐに振り返ってタクトは持たずにオックスフォードに入ります。よく見ると管楽器は古楽器、ティンパニはバロックティンパニ。演奏はファイを思わせるというか、ファイよりも攻めてくるように速めのテンポでキレ味と凝縮感を伴うもの。アダム・フィッシャー時代の演奏とは同じオケとは思えないほどの変化。アンサンブルも極度に洗練されていて、一糸乱れぬ快演。ファイが即興性も併せ持っていたのに対し、アルトシュテットは確信犯的にオケを煽り素晴らしい高揚感を作っていきます。アルトシュテットは指揮台の隅から隅まで動き回ってかなり大きなジェスチャーでオケに指示を出し、オケもそれに鋭敏に反応。チェリストとしての腕がキレていたのは承知していましたが、オーケストラコントロールにも天賦の才を持っていたんですね。とにかくインテンポで煽る推進力が凄い。出だしの1楽章で挨拶がわりの豪速球。穏やかなアダージョも緊張感が張り詰める研ぎ澄まされた演奏。中間部の激しい慟哭の荒々しさをアクセントにさらに引き締まります。メヌエットも速めのテンポで舞曲的な表情よりは抑えた表現で終楽章につなぎ、最後は超快速テンポで期待通りのキレ味で見事にフィナーレを結びます。これが現代最高のハイドンだと言わんばかりの見事な演奏に会場も拍手喝采。

何度かのカーテンコールの後、今度はアルトシュテットがチェロを抱えて登壇。指揮台に椅子が置かれて、2曲目のチェロ協奏曲1番が始まります。弾き振りということはわかっていましたが、座って合図を出す程度だと思いきや、アルトシュテット、立ってチェロを抱えながらダイナミックに指揮をしながら序奏に入ります。指揮台いっぱいに動き回る姿はチェロを持っていない時と同じでびっくり。そしてチェロの独奏が始まる寸前にさっと座ると何事もなかったようにさらりと演奏に入ります。チェロは以前取り上げた録音と同様、目眩くような鮮やかさ。こちらも攻めに攻めたスタイルでソロとオケが高速でパンチを打ち合うようなスリリングな演奏。もちろんカデンツァはリゲティかリームかというようなクールなもので、古典のハイドンを現代の視点で再構築したような演奏。これが違和感があるどころかアルトシュテットのセンスの良さで見事にしっくりきます。アダージョも磨き抜かれ、フィナーレはまたまた超速めのテンポで鮮やかに締めくくります。こちらも見事な演奏に拍手喝采。通常だとここでソロのアンコールが入るところですが、弾き振りということでそれはなく休憩に入ります。

休憩後は驚愕。こちらも見事でした。1楽章は期待通り新鮮なアクセントと精緻なアンサンブルでハイドンの構成美溢れる名曲を現代のトレンドで最高の演奏に仕立てる名演。アンダンテは変化球も予想しましたが、砂を巻き上げるような豪速球で正統派のビックリ。驚愕のアクセントも演奏によってはここまで際立つのかと今更ながら本当に驚きました。ところが驚きはその後も次々と意表をつくアクセントの波状攻撃で痺れます。そしてメヌエットもこれまでの演奏の垢を感じさせない新鮮味を感じさせ、やはり最後は快速フィナーレで締めくくりました。驚愕という演奏し尽くされたかと思われる曲をこれほどまでに新鮮に響かせる手腕は見事。ハイドンにもっともゆかりのあるあるハイドンフィルが、現代最高のハイドンを聴かせるという千載一遇の機会に立ち会えたと思える演奏でした。

半分ほどの入りだった会場でしたがもちろんブラヴォーが飛び交い、何度かのカーテンコールの後、どうやらアンコールがあるよう。アルトシュテットが奏者の方に振り返って合図を出すと、88番のフィナーレが始まります。これが凄かった。豪速球も豪速球、砂煙を巻き上げながら地を這うように突き進む見事な演奏。88番の剛演はライナーをはじめとして色々ありますが、これほどの迫力は初めて。最後はクナッパーツブッシュの天才的なギアチェンジが頭をよぎりますが、豪速球のまま竜巻のように聴衆を巻き込んでのフィニッシュ。いやいや素晴らしかった! もちろんアンコールにも嵐のような拍手が降り注ぎ素晴らしいコンサートの幕は閉じられました。

いやいや、アルトシュテット、素晴らしい才能の持ち主ですね。ハイドンフィルもアルトシュテットの指示に見事に応える快演。アルトシュテットとハイドンフィルによるハイドンの録音はまだないようですが、アントニーニやファイの取り組みを超える演奏が期待できると言っていいでしょう。またの来日や、録音を期待したいところですね。先日のロト/レ・シエクルの春の祭典も衝撃的でしたが、それを上回る驚きを感じたコンサートでした。

ハイドン好きの皆さん、要注目です!



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カール・ミュンヒンガー/シュツットガルト室内管の告別、オックスフォード(ハイドン)

年末でいろいろバタついており、ちょっと間が空いてしまいました。今日はコレクションの意外な盲点だったアルバム。

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カール・ミュンヒンガー(Karl Münchinger)指揮のシュツットガルト室内管弦楽団(Stuttgarter Kammerorchester)の演奏による、ハイドンの交響曲45番「告別」、92番「オックスフォード」の2曲を収めたアルバム。収録年や場所はこのアルバムには記載がありません。レーベルはINTERCORD。
カール・ミュンヒンガーはバロック音楽の巨匠という存在ですが、ハイドンの録音もそこそこあり、ウィーンフィルや、シュツットガルト室内管との交響曲や天地創造にミサ曲、フルニエとのチェロ協奏曲などがあります。これまで2度ほど取り上げておりますので、略歴などは小オルガンミサの記事をご参照ください。

2012/08/30 : ハイドン–協奏曲 : ピエール・フルニエ/カール・ミュンヒンガーのチェロ協奏曲2番
2011/08/03 : ハイドン–声楽曲 : カール・ミュンヒンガー/ウィーンフィルの小オルガンミサ

所有盤リストに登録するにも録音年がわからないアルバムは悩みの種。ネットでいろいろ調べてみると告別の方は1951年10月1日、スイス、ジュネーヴのヴィクトリアホールで録音したというLPの情報がでてきますが、今日取り上げるCDの録音はステレオで1951年録音というクォリティではなく、音の鮮度はかなりいいもの。他に今日のアルバムの2曲に48番「マリア・テレジア」、88番を加えた4曲を収めた2枚組のLPがINTERCORDからリリースされており、そのアルバムの表記に1980年とあることから、1980年頃の録音ではないかと想像していますが、あまり自信もありません。この辺のことがわかる方がいらっしゃいましたら是非情報をいただきたいところです。
ミュンヒンガーは1915年生まれで1988年で引退していますので、もし1980年頃の演奏だとすれば65歳の頃ということになります。
このアルバムを取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいからに他なりません。落ち着いて堂々とした古き良き時代のハイドンの交響曲の演奏の代表例といっていいでしょう。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Farewell" 「告別」 [f sharp] (1772)
ゆったりとした、しかし揺るぎない構築感を感じるテンポでの入り。先に触れたように録音はステレオで実体感もあり、残響も程よく乗った非常に聴きやすいもの。弦楽器の響きの美しさもなかなか。1楽章はインテンポで攻めてくる演奏も多いですが、ミュンヒンガーはじっくりとテンポを動かさず、確信に満ちた堂々とした演奏が当然と言わんばかりの安定感重視の入り。
弱音器をつけた弦楽器によるアダージョの入りも同様、一定のテンポでしっかりとした足取り。ただしこの楽章の要であるデリケートなニュアンスの表現は秀逸。よく聴くとフレーズごとに非常に表情豊かで、しっかりと起伏と変化をつけていきます。ホルンや木管の響きの美しさも手伝って、聴き応え十分。
メヌエットでもこのテンポしかないと感じるほどの安心感を感じる入り。弦楽器に音を重ねるホルンの響きの美しさが印象的。テンポがしっかりと安定することで、素晴らしい安定感をもたらすということがよくわかります。
そして、この曲の目玉のフィナーレ。やはりここで、少しギアチェンジして緊張感が高まります。ここではじめてインテンポになりますが、程よい範囲で曲想の変化をしっかり印象付けます。そして奏者が一人ずつ退場していく後半のアダージョも実に落ち着いた表現で淡々と曲想に沿ってメロディーを進めていきますが、淡々とした表情がかえって情感を深めていくよう。最後にヴァイオリンが残るあたりもヴァイオリンの音色が徐々に失われる描写が見事。ミュンヒンガーの演奏は古さを全く感じさせないオーソドックスな名演と言っていいでしょう。

Hob.I:92 Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
2曲目はオックスフォード。こちらも告別同様、録音は悪くはありません。おそらく同時期の録音と想像できます。演奏スタイルは告別と同じくオーソドックスなもの。そしてしっかりと地に足のついたテンポで曲を描き、ハイドンの描く美しいメロディーから沸き立つ情感をあますところなく伝える名演奏。1楽章のキリリと引き締まった表情、2楽章の実にニュアンス豊かな表現、そしてメヌエットのおおらかさとハイドンの交響曲の普遍的な魅力を実によく踏まえた演奏。フィナーレの入りはやはり格別軽やかな表情が魅力的。以前聴いた朝比奈隆盤で、この楽章の入りのメロディーについて認識を新たにしたんですが、ミュンヒンガーもそれに劣らず、繊細な扱いをみせました。適度な推進力と落ち着いたテンポで進み、最後は落ち着き払って堂々たるフィニッシュを迎えます。このオックスフォードもハイドンの交響曲のオーソドックスな名演と言っていいでしょう。

昔はヴィヴァルディの四季の演奏で日本でもよく知られていたカール・ミュンヒンガーと、手兵、シュツットガルト室内管によるハイドンの名交響曲2曲の演奏。録音年代が今ひとつはっきりしませんが、この演奏は見事。ハイドンの交響曲の面白さをよくわかった演奏であり、この揺るぎない説得力は流石と言わざるを得ません。録音のコンディションも良く、お勧めのアルバムですが、残念ながら入手は難しいでしょう。評価は[+++++]とします。

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tag : 告別 オックスフォード

【新着】コリン・デイヴィス/LSOのライヴ交響曲集(ハイドン)

久々に交響曲の新着アルバム。待望のアルバムですね。

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HMV ONLINE / amazon / TOWER RECORDS

サー・コリン・デイヴィス(Sir Colin Davis)指揮のロンドン交響楽団の演奏によるハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、93番、97番、98番、99番の演奏を収めたアルバム。収録は2010年から11年にかけて、ロンドンのバービカンセンターでのライヴ。収録日は各曲のレビューに記載しましょう。レーベルはご存知LSOの自主制作LSO Live。

コリン・デイヴィスはアムステルダム・コンセルトヘボウ管とザロモンセットなどをPHILIPSに録音したアルバムが有名ですが、CD化されたPHILIPS盤は音質が往時のLPのキレの良い響きの魅力まで届かず、私はLPの方を愛聴しています。コリン・デイヴィスのアルバムはいままで結構取りあげているんですね。

2013/04/21 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウの「春の祭典」
2013/04/19 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】コリン・デイヴィスの88番、99番
2011/10/28 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/バイエルン放送響の「ロンドン」ライヴ
2011/08/19 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィス/アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の熊、雌鶏
2011/08/13 : ハイドン–声楽曲 : 【お盆特番3】コリン・デイヴィス/バイエルン放送交響楽団のネルソンミサ
2011/06/16 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-2
2011/06/14 : ハイドン–オラトリオ : コリン・デイヴィスの天地創造ライヴ-1
2010/07/17 : ハイドン–交響曲 : コリン・デイヴィスの時計ライブ

なんと、コリン・デイヴィスの略歴を今まで紹介してきませんでしたので、このアルバムを聴きながら、ちょっと調べてみました。生まれは1927年、イングランドのロンドンの南のサリー州のウェーブリッジ(Weybridge)。貧しい家だったようでピアノを買う事ができず、最初は安価に入手できたクラリネットを学びはじめ、ロンドンの王立音楽大学にすすみます。どうもあまりピアノが上手くなかったようで、指揮者になりたいと思う一方、大学では指揮を学ぶ事ができなかったそう。また一時兵役につき、近衛騎兵連隊のクラリネット奏者として働いていました。ウィンザーに駐留中、ビーチャムやブルーノ・ワルターのコンサートを何度も聴く機会に恵まれ、兵役を終えると、王立音楽大学のかつての生徒を集めてカルマー管弦楽団を立ち上げフリーランスで指揮活動をしていました。クラリネット奏者として働く一方、指揮者としての最初のチャンスは設立されたばかりのチェルシー歌劇場で「ドン・ジョヴァンニ」を振り、すぐにバレエ団の指揮者に就任しますが、3ヶ月で倒産してしまいました。ようやく1957年にBBCスコテッシュ管の副指揮者となり活躍し始めます。転機は1959年、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで体調不良のクレンペラーに代わってドン・ジョヴァンニを振り、これが評判を呼んで有名になりました。また翌年にはグラインドボーンで今度はビーチャムの代役で「魔笛」を振りこれも成功。以後はサドラーズ・ウェルズ・オペラ、ロンドン交響楽団、BBC交響楽団などで活躍しました。1971年からはショルティの後任として、コヴェント・ガーデン王立歌劇場の首席指揮者に就任。その他、ボストン交響楽団の首席客演指揮者、バイエルン放送交響楽団首席指揮者、ドレスデン国立歌劇場管弦楽団名誉指揮者、そして1995年にこのアルバムのオケであるロンドン交響楽団首席指揮者に就任。オケの自主制作レーベルであるLSO Liveからはかなりの数のアルバムがリリースされています。とくにティペット、シベリウス、ベルリオーズを得意としている人という印象。亡くなったのは昨年の2013年の4月、85歳ということでした。

ということで、このアルバムはデイヴィスが80歳を超えた最晩年の貴重なライヴ。ザロモンセットが揃わないのが惜しいところですが、選曲も実に渋いところを突いています。特に、97、98、99番を取り上げるところなど、ハイドンの真髄はここにありと言わんばかりの渋さ。

聴くとすべての邪心を捨て、虚心坦懐にオケを鳴らすまさに燻し銀のハイドン。もともとアポロン的構築感と中庸の美学を重んずるハイドンを聴かせていただけに、最晩年に至って、力が抜け、オケに身を任せながらハイドンの交響曲の面白さを描ききる素晴しい演奏です。録音もSACDらしい自然なリアリティに富んだ素晴しいもの。いや、以前聴いた天地創造がちょっと期待と異なる演奏だっただけに、これほどの演奏とは思いませんでした。曲ごとに聴き所を書いておきましょう。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
2011年10月2日、4日のライヴ。バービカンセンターに轟くオケの分厚い響きが痛快。音量を上げて聴くと、部屋がバービカンセンターになったような素晴しい迫力。会場のノイズや咳払い、拍手はカットされていますが、リアリティは失われていません。スピーカーから等身大のオケが吹き出してくるよう。デイヴィスのコントロールは極めてオーソドックス。奇を衒うようなところは皆無。1楽章は分厚いオケに圧倒されます。
アダージョに入っても大河の流れのように、滔々とした音楽の流れが印象的。時折デイヴィスの声らしき鼻声がうっすらと聴こえます。すこし穏やかになったと思いきや、中間部でオケが炸裂。またしてもオケの風圧を感じるような図太い響き。終盤になるに従って音が溶け合うようになり、長い間と木管の掛け合いの美しい響きにとろけそう。
メヌエットは予想どおり、グイグイとオケの迫力で聴かせます。楽章間のバランスのよい構成はデイヴィスなならでは。そして聴き所のフィナーレの入りは軽やか、すぐに怒濤のオケに飲み込まれます。オケのスロットルのコントロールが見事。フルオーケストラの分厚い響きと軽やかなヴァイオリンの音階を自在に切り替えながら、ハイドンの名旋律を落ち着いて聴かせます。リズム感の良さは流石デイヴィス。演奏スタイルどうこうを全く意識させない、正統派の堂々としたハイドンの名演奏。

Hob.I:93 / Symphony No.93 [D] (1791)
2011年12月11日、13日のライヴ。前曲とは別の日ですが、音響は非常に良くそろっています。分厚いLSOの響きはそのまま。威風堂々とした序奏にたじろぎます。主題に入ってもあまりに素晴しいオケの響きにのけぞらんばかり。正統派の演奏の魅力にただただ立ちすくみます。93番がこれほど力感に満ちて響くとは。キレは適度ながら、推進力とリズムの正確さは素晴しいものがあります。1楽章は均整のとれたギリシャ彫刻のごとく圧倒的な存在感。
ラルゴは独特の情感を醸し出しながら、やはりオケの迫力の素晴しさで聴かせます。抑えた表現のところでもそのうちオケの響きに飲み込まれる予感が緊張をはらみます。
メヌエットは畳み掛けるよう。次々と響きの波が襲いかかり、手に汗握る展開。そしてフィナーレは少し推進力をおとしてじっくりと攻める感じで入り、ところどころリズムに力が漲って、最後の盛り上がりへ向けてオケが空ぶかしで煽ります。最後は冷静に盛り上がってフィニッシュ。

Hob.I:97 / Symphony No.97 [C] (1792)
2010年5月6日、9日とこのアルバムでは一番古い日付。好きな97番。デイヴィスのこの演奏スタイルで聴かされるとあって、聴く前から身構えます。デイヴィスは1楽章の機知にあふれた曲想を相変わらず大局的な視点でグイグイ音にして行きます。前2曲にくらべて少し枯れて聴こえはするものの、オケの迫力は相変わらず。人間80歳を越えてこのような迫力に溢れた音楽を生み出せることに驚きます。アダージョ、メヌエットは前2曲同様、オケの迫力をベースにした上での自然な表現。フィナーレも最後に間をしっかりとってハイドンの仕込んだユーモアをきっちり描いて終わります。いやいや見事。

CDを入れ替えて2枚目。

Hob.I:98 / Symphony No.98 [B flat] (1792)
2011年12月4日、6日のライヴ。冒頭から力漲るサウンド。やはり前曲でちょっと枯れた印象があったのは録音の期日が古かったからでしょうか。この曲では響きは鮮明、デイヴィスのコントロールは手綱のテンションが少し下がって、オケに身を任せているようです。刻むリズムの迫力に徐々に打たれて行きます。コントロールはしなやかさを増し、実に柔らかい響きを造っています。このアルバムでもっとも自然体な演奏スタイル。1楽章終盤はすこしリズムが重く感じました。
アダージョははじめてぐっと沈み込みます。これまで中庸なリズムと大河のような流れの一貫性で聴かせてきたデイヴィスですが、この曲のアダージョに至って情が深くなり、音楽に陰りが見えまず。ほんの少しの違いですが、すこし感情移入の方にに振れてきました。
メヌエットに入っても力の抜け具合はいい感じ。フィナーレは意外に朴訥な感じで入ります。最後に鍵盤がコミカルに加わるイメージがあるので、そこここにその前振りがあり、このころの交響曲でも独特のユーモラスな曲調。デイヴィスも力が抜けてゆったりとコントロールしているよう。最後はリズムを強調して、珍しく誇張した表現。金管が一音とちりますが、気にせず終了。

Hob.I:99 / Symphony No.99 [E flat] (1793)
2011年5月28日、6月2日のライヴ。1楽章はこのアルバムでも一番踏み込んだ演奏。穏やかかに聴かせる演奏が多い曲ですが、リズムが活き活きとして快活。デイヴィスの棒が冴えているのがわかります。穏やかな曲なのに素晴しい高揚感と引き締まった響きにぐっと来ます。
アダージョに入るとオケの奏者のソロが絶妙なキレを聴かせ、絡み合うメロディーの綾に魅せられます。時折大波のように押し寄せる弦楽器の艶やかなこと。絶品。デイヴィスも唸ってます。中間部の展開の迫力はこのアルバム共通。
メヌエットはやはりスロットルコントロールによってオケが自在に吹き上がる快感に溢れたもの。ティンパニのリズムが冴え、ホールの空気を自在に揺らしている感じ。最後はかなり溜めてフィナーレの入りを引き立てます。
フィナーレはアルバムの最後にふさわしく神々しいばかりに堂々とした演奏。途中のコミカルなフレーズは抑え気味でオケの迫力を際立たせるのでしょうか。正統派のオケの魅力を振りまくような素晴しい迫力。最後は本当に怒濤の迫力で締めます。バービカンセンターに本当は鳴り響いたであろう拍手がカットされているのが惜しいところ。素晴しい演奏でした。

コリン・デイヴィスの亡くなる2年前の最晩年に手兵ロンドン交響楽団を振ったハイドンの交響曲5曲を収めたアルバム。夕暮れのビッグベンを写したジャケットの写真といい、ホールの雰囲気をそのまま伝える鮮明な録音といい、そしてライヴらしい活きた音楽の流れといい、ハイドンを聴くには絶好のアルバム。コリン・デイヴィスと言う人の生き様を音にしたような、素晴しいライヴでした。人は80歳を越えて、これほど純粋無垢な音楽を奏でられるものなのでしょうか。特に99番は絶品。フィナーレこそ岩のような堅牢さを聴かせたものの、デイヴィスが踏み込むようすがよくわかる演奏。そして冒頭のオックスフォード、93番も名演です。期待した97番、98番は他の3曲の素晴しさと比べるとちょっと差がついてしまうというのが正直なところ。オックスフォード、93番、99番を[+++++]、他2曲は[++++]ということにしておきましょう。

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オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管の「オックスフォード」、「ロンドン」(ハイドン)

所有盤リストを眺めながら、これまで取りあげていない大物のアルバムをさがしていると、ありました!

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amazon / amazon(新装盤)/ TOWER RECORDS(新装盤)

オットー・クレンペラー(Otto Klemperer)指揮のニュー・フィルハーモニア管弦楽団(New Pilharmonia Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲88番、92番「オックスフォード」、95番、98番、100番「軍隊」、101番「時計」、102番、104番「ロンドン」の8曲を収めたアルバム。今日はこの中からCD3に収められた「オックスフォード」と「ロンドン」を取りあげましょう。収録は「オックスフォード」が1971年9月、「ロンドン」が1964年10月、ロンドンのアビーロード・スタジオでのセッション録音。レーベルは英EMI。

もちろんクレンペラーのハイドンは何回か取りあげていますし、このセットからも88番をレビューしています。

2010/12/28 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の88番
2010/10/29 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーのトリノの時計
2010/10/26 : ハイドン–交響曲 : オットー・クレンペラーの時計

なぜかマニアックにライヴの時計を2枚取りあげていますが、肝心のこのセットからは88番のみということで、このセットの真価を紹介しきれていないわけですね。しかも演奏者の背景を知り演奏を聴くことを旨としている当ブログですが、クレンペラーについては過去にきちんと紹介しておりませんので、簡単にさらっておきましょう。

オットー・クレンペラーは1885年、当時ドイツ領だったブレスラウ、現ポーランドのヴロツワフ生まれの指揮者、作曲家。もちろん近代の巨匠指揮者の一人とみなされていることは皆さんご存知のことでしょう。4歳でハンブルクに移り、母親にピアノの手ほどきを受けた後、フランクフルトのホッホ音楽院で学び、ベルリンでは作曲、指揮、ピアノを専攻しました。22歳の時マーラーの推挙でプラハのドイツ歌劇場の指揮者となって以降、ヨーロッパの歌劇場で指揮を重ね、またベルリンフィルでデビューするなどしましたが1933年、ナチスの台頭などにともないアメリカに亡命しました。アメリカではロサンジェルスフィル、ピッツバーグ交響楽団を指揮しますが1939年、脳腫瘍で倒れ、その後後遺症や躁鬱などにともないアメリカでの活躍は終わる事となりました。
戦後1947年から、ハンガリー国立歌劇場の音楽監督に就任しますが、3年で共産党政権と衝突し辞任。その後ロンドンでの客演がEMIのウォルター・レッグの耳にとまり、1952年からEMIとレコーディング契約を結びます。1954年からフィルハーモニア管弦楽団とのレコーディングを開始し、多くの録音をリリース。それがヒットし巨匠として世界的な名声を得る事となったとのことです。その後1964年からは楽団がニュー・フィルハーモニア管弦楽団となったあとも関係は続きましたが、1972年1月には体の衰えが進み、楽壇から引退し、1973年、スイスの自宅で亡くなりました。

今日取り上げる録音のうちロンドンはニュー・フィルハーモニア管となった頃、そしてオックスフォードは、クレンペラー最晩年の録音ということになりますね。これらの経歴を知ってこの2曲を聴くと歴史のパースペクティヴが一層よくわかります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
幽玄さすら感じさせる雄大な序奏。なぜかクレンペラーは巨大なものを感じさせるんですね。主題に入ってもテンポは雄大なまま、慌てるそぶりはなく、ゆったりと言うより岩のような堅牢さで進みます。オケは一切の小細工を禁じられ、禁欲的にさえ思えるほど表情を変えず、一貫して重たいリズムを刻みます。ただし演奏には不思議と生気が宿り、なにか気迫にみちた熱気を帯びています。岩の巨人がのしのし歩いてくるような迫力。録音はそこそこ鮮明。特にヴァイオリンパートはかなりの鮮明さで切れ込んできます。これぞクレンペラーのハイドン。
普通の演奏では伸びやかな感興が聴き所のアダージョですが、最晩年のクレンペラーの手にかかると、まさに枯淡の境地。ゆったりではなくやはり幽玄。東洋的な、禅の境地のような緊張感が漂います。ハイドンの機知に富み、活き活きと美しく響くはずのアダージョが三途の川のBGMのように響きます。中間部の木管楽器の演奏を聴きながらがなぜか恐山の宇曽利湖の記憶が浮かびます。
メヌエットもかなり遅めで来るかと思いきや、意外と普通のテンポで逆にビックリ。間をたっぷりとって立体感を際立たせます。徐々にリズムが重さを帯び、忍び寄る迫力は殺気すら感じさせます。
指揮者によっては踊り出すような躍動感を感じさせるフィナーレの入りですが、クレンペラーはそこはあっさりこなし、すぐに重量感あふれるオケがフルスロットルに。大排気量のスポーツカーがブォーっと爆音をたてて走りすぎて行くよう。最晩年のクレンペラーの鬼気迫る気迫がオケに伝わってもの凄い迫力。険しい岩のようなオックスフォードでした。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
クレンペラーらしい堅固な印象は感じさせつつも、こんどは表情にしなやかさと生気が宿り、クレンペラー全盛期の余裕が感じられるサウンド。ニュー・フィルハーモニア管として生まれ変わったオケとの充実した演奏。ロンドンという記念碑的な曲に相応しい祝祭感も感じさせ、響きも前曲よりかなり柔らか。まさにロンドンに期待される神々しさを帯びた素晴しい響き。ところどころに岩の塊のような堅固な響きをちりばめ、要所でリズムの重さを聴かせます。中盤から終盤にかけての盛り上がりは79歳の頃の演奏ということを考えると信じられないようなエネルギーを発散しています。クレンペラーの凄さを再認識しました。
続くアンダンテは、やはり枯れてました。侘び寂びを感じるような淡々として、また音色にも和の印象が感じられるような枯れ方。この曲でも幽玄な世界は健在。ただ、オックフォードほど枯れきっていない感じ。オックスフォードは葉の落ちた冬の梅の古木の様な世界でしたが、こちらは晩秋の紅葉の終わりのような風情。と思っていたら中間部で恐ろしく覇気に満ちた爆音を轟かせ、本当にビックリ。
ロンドンでもメヌエットはテンポが上がり、素晴しい躍動感。むしろ速いくらい。クレンペラーは全体に遅いテンポと思いがちですが、このメリハリがあるから素晴しいのでしょうね。
フィナーレはオーソドックスなんですが荘厳さを帯びて聴こえるのがクレンペラーらしいところ。ところどどころ力が抜けて、盛り上げるばかりではなく、かなりメリハリをつけながら、それでも一貫して頑固な印象を与えるところは流石。ロンドンの終楽章は力任せにいくと一本調子に聴こえてしまうことを踏まえてか、クレンペラーにしてはきめ細かくアクセルをコントロールしている感じ。最後は弦楽器群がグッと図太い響きを聴かせて素晴しいクライマックス。

実に久々にちゃんと聴き直したクレンペラーのハイドン。やはり余人には真似の出来ない演奏であることは間違いありません。最晩年の演奏であるオックスフォードはクレンペラーのハイドンの中でももっとも枯れた演奏。オックスフォードの演奏としては相当マニアックな演奏です。逆にロンドンはオーソドックスな範疇に入る名演奏。クレンペラーのハイドンを代表する演奏と言ってもいいでしょう。評価は特にオックスフォードが難しいですね。元は[+++]としていましたが、聴き手の器の問題かもしれませんね。今回あらためて聴き直してみると、やはりクレンペラーの覇気が満ちた名演ということが出来ると思いますが、オックスフォードの演奏としては変わり種。ということで[++++]につけ直すことにします。また、ロンドンは[+++++]のままとします。

クレンペラーのハイドンを取りあげるということで、最後にライムンドさんのブログを紹介しておきましょう。やはりクレンペラーはライムンドさんの縄張りですから(笑)

いまでもしぶとく聴いてます:クレンペラーのロンドン交響曲 ニュー・フィルハーモニア管

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デニス・ヴォーン/ナポリ管の91番、オックスフォード、協奏交響曲(ハイドン)

いやいや良く降りました。東京は金曜日中から土曜の朝まで雪が降り続き、うちのまわりは30センチくらい積もってました。先週に引き続き記録的な大雪です。ということで、道やらガレージなど雪かきして、また腰が痛い(笑) ちなみに先週の雪かきで腰は少し鍛えられましたので、痛みは先週ほどではありません。要は慣れの問題でしょう。

さて、いろいろあって2日ほど明けてしまったので、レビューをしなくてはなりませんネ。

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デニス・ヴォーン(Denis Vaughan)指揮のナポリ管弦楽団(Orchestra of Naples)の演奏で、ハイドンの交響曲91番、92番「オックスフォード」、協奏交響曲の3曲を収めたアルバム。収録は1960年代の録音と記されています。レーベルは米Haydn House。

例によってこのアルバムも湖国JHさんに貸していただいているもの。指揮もオケも全く未知のものゆえ、ちょっと調べておきましょう。

デニス・ヴォーンは1926年、オーストラリアのメルボルン生まれの指揮者。メルボルン大学で音楽の学位をとり、その後イギリスの王立音楽大学でオルガンとコントラバスを学んだそう。その後オルガン奏者としてイギリスで活躍しましたが、1950年にロイヤルフィルに加わり、トーマス・ビーチャムともにアメリカツアーに参加します。1954年にはロイヤルフィルの合唱指揮者と副指揮者となり、ビーチャム合唱団を設立。他にも1950年代から60年代にかけて、彼を含む4人のハープシコード奏者で毎年コンサートを開くなど活動は多彩。指揮者としてはスカラ座、ハンブルク、ミュンヘンの歌劇場で働き、バイロイトではクナの助手を務めたり、トスカニーニの招きでクレンペラー、チェリビダッケ、バーンスタイン、マゼールらとともにイタリア、パルマの記念コンサートで指揮するなど、ずいぶん活躍したことが伝えられています。1966年にローマに移り、その後、ナポリ管弦楽団とのシューベルトの交響曲全集とハイドンのパリセット前後の12曲のを含む一連の録音によって有名になりました。このアルバムに収録されているのはまさにその一部。その後、1972年から80年までミュンヘン国立歌劇場、1981年から84年までオーストラリアのアデレード歌劇場の音楽監督を務めました。プッチーニ、ヴェルディ、ドヴォルザークの自筆譜の研究者としても知られているそう。近年では2005年にロイヤル・フェスティバル・ホールでロンドン・フィルを振っているようです。また前立腺がんであることを公表し治療にあたっているとのことです。

経歴を見る限り、若い頃は華々しい活躍をした人のようですが、現在彼のことを知るひとは少ないかもしれませんね。だからこそ、当ブログではちゃんと取りあげなくてはならないわけです。

Hob.I:91 / Symphony No.91 [E flat] (1788)
意外と言っては失礼ですが、冒頭から雄大なオケの響きに圧倒されます。ナポリ管弦楽団というよりはドイツのオケのような佇まい。オケをのびのびと鳴らし、細かいところではなく音楽の骨格を面でとらえるようなおおらかかつ豪快な演奏。いつもながらHaydn Houseの板起こしは安定度抜群で図太い音色が心地よいですね。まさにハイドン演奏の王道を行くようなおおらかな演奏。
アンダンテに入ると1楽章よりもキビキビとするという意外な展開。良く聴くと弦楽パートの伸びやかなボウイングでイタリアのオケだと納得する次第。弦楽器の分厚くのびのびとしたフレージングはこのアルバムの聴き所でしょう。続くメヌエットでも分厚いオケの迫力あるフレージングは健在。録音は近接マイクの音を主体とした実体感重視のもの。往年のDECCAを思わせる迫力重視の録音です。中間部のやわらかい音楽をじっくり聴かせるところは流石。ハイドンの音楽を良く知った人ととの印象です。
フィナーレは弦楽器群の畳み掛けるようなせめぎ合いがポイント。木管とホルンの響きがうっすらと滲んで、オケも覇気に溢れた演奏です。かなりの力感にザロモンセット作曲前夜の興奮がつたわってくるよう。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
聴き慣れたオックスフォードですが、やはり音楽の骨格をがっちりと描いていく才能を持ち合わせているようですね。テンポはやや遅めなんですが、それでも音楽がキビキビと進むように流れるあたりにヴォーンの真骨頂がありそうです。各パートの演奏のキレは素晴しいものがあります。特にヴァイオリンパートの彫刻的にさえ感じる立体感は素晴しいですね。
こちらも2楽章はテンポは落ちてもキビキビ。タイトな音楽が曲全体を引き締めます。終盤の印象的な間の取り方も絶妙。ここは聴き所でしょう。つづくメヌエットの迫力も前曲同様。引き締まったボディービルダーの筋肉を見るよう。オケの鳴りの良さが際立ちます。間奏ではハープシコードの繊細な響きが加わりえも言われぬ雰囲気になります。やはり弦の分厚い推進力溢れる響きが音楽を造っていきます。
有名なフィナーレの入りのメロディーを聴いて、デニス・ヴォーンの才能に確信がもてました。弾むような推進力とキレが高度に融合した素晴しい音楽。畳み掛けるようにオケが迫力ある響きで加わり、このフィナーレの構造の素晴しさを誇るようにアクセルをコントロールしていきます。際立つヴァイオリンのキレ。少々クラシカルではありますが、この演奏の素晴しさには目を見張るものがあります。ザクザクと切れ込む超名演です。

Hob.I:105 / Sinfonia Concertante 協奏交響曲 [B] (No.105) (1792)
一転しておおらかな響きに戻ります。ソロは以下のとおり。

ヴァイオリン:Franco Gulli
チェロ:Giacinto Caramia
オーボエ:Elio Ovchinnekoff
ファゴット:Ubaldo Benedettelli

確信に満ちた指揮にしたがってオケは盤石の安定感。4人のソロもオケの上でおおらかに戯れるように安定した演奏。1楽章は演奏見本のような素晴しい完成度。ソロのテクニックも確か。時折リズムを際立たせるような変化を聴かせますが、基本的に安定した演奏。図太いオケの響きに酔いしれます。カデンツァのヴァイオリンの美音は見事です。
アンダンテはソロの妙技のせめぎ合いのよう。良く聴くと4人とも自身の音楽をしっかり持っており、あわせると言うレベルではなく、個性のぶつかり合いから生まれる豊穣な魅力に溢れた音楽になっています。
そしてフィナーは堂々とした構築感で聴かせます。ヴァイオリンの印象的なフレーズを受けて、オケも間を工夫した受けで応えます。アルバムの終わりに相応しい高揚感。最後の音まで存分に響かせて終わります。

このアルバム、これほどの演奏だと思いませんでした。今や知る人ぞ知るデニス・ヴォーンですが、ゆったりした音楽の中にもハイドンの機知が溢れ、実に個性的な演奏となっています。特筆すべきは録音(リマスターか?)の良さ。往年のDECCAのようなオンマイクながら精緻に切れ込む、印象的な録音。ソロとオケのバランスも的確です。大波のように押し寄せるオケの響きが快感です。流石にハイドンの交響曲を12曲録音している人。評価は1曲目の交響曲91番が[++++]、その後の2曲が[+++++]とします。

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tag : 交響曲91番 オックスフォード 協奏交響曲 ヒストリカル

【新着】アンチェル/コンセルトヘボウの「オックスフォード」ライヴ(ハイドン)

皆様、1000記事への祝福、激励、叱咤、強力pushありがとうございます!

しばらく、皆さんからいただいたコメントの嬉しい余韻に浸りたい嬉しい気分ではありますが、地道にレビューを続けることこそ当ブログの使命と思い、普段通りレビューに戻りたいと思います。

1001記事目は、皆様に聴いていただきたい絶品のアルバム。しかも入手しやすい国内盤です。昨夜仕事帰りにTOWER RECORDS新宿店に立ち寄り、ゲットしたもの。

AncelOxford.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

カレル・アンチェル(Karel Ančerl)指揮のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の演奏でハイドンの交響曲92番「オックスフォード」とフランクの交響曲の2曲を収めたアルバム。収録は1970年1月21日、アムステルダム・コンセルトヘボウでのライヴ。レーベルはtahraですが、日本のキングレコードがtahraのディスクを国内向けにパッケージした国内盤。ディスク自体はtahraのものです。

このアルバム、「カレル・アンチェル没後40年記念企画」と題されたシリーズ。標題のとおり、アンチェルの没後40年を記念してtahraのからリリースされていたアンチェルのディスクのうち、現在入手困難になっている6枚をキングレコードからのプッシュで再生産されたもの。素晴しいのは上で触れたとおり、CD自体がtahraのものである点。輸入盤を盲目的に崇拝する教義はありませんが、音の雰囲気や物としての雰囲気はやはり輸入盤の方がいいことが多いのが正直なところ。

以前アンチェルのアルバムは何れもtahra盤を2回取りあげています。

2013/02/13 : ハイドン–交響曲 : カレル・アンチェル/オランダ放送フィルの「ロンドン」ライヴ
2010/06/13 : ハイドン–交響曲 : 剛演、アンチェルの93番

93番の記事を読んでいただければわかるとおり、アンチェルのハイドンは、文字通り剛演。この93番を初めて聴いた時には本当に腰をぬかさんばかりにのけぞりました。93番にハイドンが込めたエネルギーをアンチェルは見逃しませんでした。まさに戦慄の演奏。

今日取り上げるオックスフォードはもともとtahraから1995年にリリースされていたものですが、ながらく廃盤となっており、私も入手できていなかったもの。これがまさに復刻されたと言う事で、期待大です。調べてみると発売日は10月23日ということで、リリースされたてのホヤホヤ! アンチェルの規律正しい、しかも鋼を打ち出すような迫真の演奏でオックスフォードを聴くことができるということで、CDのビニールカバーを開けるところから既に過呼吸気味(笑)

アンチェルの略歴などはオランダ放送フィルのロンドンの記事で触れておりますので、そちらをご覧ください。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
流石アムステルダム・コンセルトヘボウという広い空間にゆったりと心地よく広がる序奏の響き。序奏からのびのびとした非常に自然なライヴ録音。主題に入るとあの93番の素晴しい鋼のような響きまではいきませんが、クッキリと規律正しいメロディーが流れます。非常に清潔感のある響き。93番の極端にヴァイオリンのキレを強調した演奏からすると、逆に非常に整ったバランス。ヴァイオリンの正確無比な刻みが印象的。触ると直ちに切れそうな日本刀の名刀のような凛としたキレ味。低音弦群が畳み掛けるように被さり、1楽章のクライマックスに向けて盛り上がります。キレ味、迫力満点ながらアポロン的均衡も保った素晴しい演奏。1楽章から圧倒的。
アダージョもこれ以上ないほど正統的、オーソドックスな演奏。ゆったりの流れる分厚い弦楽器群のメロディーをオーボエ等が暈取ってくっきりとした表情。それにしてもオケの響きの柔らかくて美しいこと。アムステルダム・コンセルトヘボウ管の面目躍如。中間部の力感と再び柔らかい弦の癒しに満ちた響きにやられます。
メヌエットはテンポを予想より落として、構築感をじっくりと表現。フレーズを丁寧に丁寧に描いていくので、ゆったりしているのに非常に緻密な音楽に聴こえます。彫り込みの深い彫刻を眺めるような快感。
期待のフィナーレ冒頭は、弾むというよりそよ風のような入り。主題でいきなり突風に変わり、オケもすぐにギアチェンジ。朗らかな曲想のメロディーですがオケがフルスロットルで爆走。粗い感じは微塵も感じさせず、ハイドンの秩序の中での巧みなアクセルワーク。素晴しい吹き上がりとブレーキのコントロール。神がかったような自然なバランスと嵐のような力感の制御。めくるめく絡み合っていくメロディー。最後までコンセルトヘボウ管の素晴しい演奏が健在。最後はやはり嵐のような拍手に迎えられます。

93番の名演の印象からか、もう少しグロテスクさのある演奏かと思っていたんですが、これは一流、洗練、古典の均衡の中での最上級の演奏というのが正しいでしょう。ハイドンの交響曲をこれほどまでに高貴で規律溢れたフォルムに仕立てるあたり、やはりアンチェルの手腕は素晴しいものでした。これだけオーソドックスなフォルムを描きながら、キレと迫力も尋常ではなく、これは希有な名演と言うべきでしょう。ハイドンのあとに置かれた、同日に演奏されたフランクの交響曲も冒頭から緊張感が漲る素晴しい演奏。ハイドンの評価はもちろん[+++++]です。

このアルバムの復刻に携わったキングレコードのスタッフの方に感謝ですね。1500円とリーズナブルな値段で国内盤として流通され、多くの人にハイドンの魅力をつたえる伝道師となるべきアルバムです。

追伸)オックスフォードの所有盤に占めるレビュー盤の比率が高いとの緻密な分析をいただいておりますが、偏りを是正つもりはあるものの、素晴らしい演奏は素晴しいということで、あえてオックスフォードを採用致しました(笑)

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tag : オックスフォード

ハンス・ロスバウト/ベルリンフィルのオックスフォード、ロンドン(ハイドン)

前記事で聴いたアーノンクール/ベルリンフィルの熊があまりにも素晴しかったので、手元にあるベルリンフィルの演奏をあれこれ物色。そして選んだのがこれ。

Rosbaud92.jpg
HMV ONLINEicon(発売予定のSHM-CD)/ amazon

ハンス・ロスバウト(Hans Rosbaud)指揮のベルリンフィルの演奏で、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲4番、ハイドンの交響曲92番「オックスフォード」、104番「ロンドン」の3曲を収めたアルバム。ヴァイオリン独奏はウォルフガング・シュナイダーハン。収録はオックフフォードが1956年3月、ロンドンが1957年3月、何れもベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音。レーベルは名門Deutsche Grammophon。

手元の所有盤リストでベルリンフィルのハイドンの交響曲の演奏を探すと、もちろんカラヤン、ラトル、以前ライヴを取りあげたザンデルリンクなどが出てくるのですが、あとはチェリビダッケやリヒターといったところ。これまで取りあげた事のない指揮者という意味てロスバウトを選んだ次第。

ライナーノーツには、冒頭に高名なハイドン研究者であるロビンス・ランドンが1950年代に書いた批評が紹介されています。ランドンはこのロスバウトのオックスフォードとロンドンの演奏のことを「Grammophonの録音の歴史上、これから録音されるであろう数多の演奏も含めて、最も完成度の高い演奏である」との言葉を残しているそう。これはちょっと気になります。

そのハンス・ロスバウトですが、1895年、オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。母はピアニストで、フランクフルトのホーホ音楽院に進み、1920年からはマインツ市立音楽学校の校長となります。指揮者としては1929年にフランクフルト交響楽団の音楽監督となり、ヒンデミット、バルトーク、ストラヴィンスキー、シェーンベルクらの作品を上演して、現代音楽を積極的に紹介しました。戦後はミュンヘンフィル、南西ドイツ放送交響楽団、チューリッヒ・トーンハレ管の指揮者として活躍し、1962年にスイスのルガーノで亡くなっています。エルネスト・ブールとともに指揮者としてのピエール・ブーレーズに影響を与えたということです。

フルトヴェングラーの急逝によってカラヤンがベルリンフィルの芸術監督となったのが1955年ということですから、このロスバウトの演奏はその直後の録音ということになります。

Hob.I:92 / Symphony No.92 "Oxford" 「オックスフォード」 [G] (1789)
現代音楽が得意と聞いてこの入りを聴くと、実に緻密なコントロールに聴こえるのが不思議なところ。朝陽が差すような淡いトーンからオケが踏み込んでくるまでの序奏の変化は非常に巧みな演出だと感じます。ちょっと古びた音色に違いありませんが、録音を脳内補正して聴くと、オケはやはりベルリンフィルらしい覇気に満ちあふれています。実に引き締まった良い表情。引き締まったタイトな響き。ベルリンフィルはベルリンフィルなんですね。
流石なのが続くアダージョ。音楽の流れが大きくなり、深い呼吸としっとりした響きがえも言われぬ柔らかさ。タイトさとこの柔らかさの対比が絶妙。そしてメヌエットは、沈着冷静な進行。出来るだけ客観的に演奏しようとしているのか、テンポは揺らさず、淡々と、しかし引き締まったダイナミックさは保とうとしているよう。
フィナーレの有名な入りは弾む感じとキレ、推進力の高度なバランスを保った演奏。速めのテンポで快活が前面に出ます。オケの吹き上がりは流石ベルリンフィル、意外に端正なロスバウトの指揮に、オケの方から煽りを入れてくるような印象もあります。オケがインテンポで次々と畳み掛けてきます。オケのキレを楽しめる素晴しいフィナーレ。

Hob.I:104 / Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)
変わってハイドン最後の交響曲「ロンドン」。録音は1年新しいのですが、音のクォリティーはさして変わらず。なんとなくロンドンの方がスケール感のある演奏を期待して、同じレベルの録音なのに、耳がスケール感を求めてしまって損している感じ(笑)
オックスフォードのリズムがキレていたので、ロンドンの1楽章は若干重い感じに聴こえます。ただ、淡々と立体感溢れる音楽を紡ぎ出してくるあたりは流石の出来です。聴き進むと重さもスケール感を出そうとしてのことだとわかります。1楽章は徐々に盛り上がって最後は覇気炸裂。
アンダンテはかなり大胆にテンポを落とします。一貫してキリッとした表情から、覇気が滲み出してくる演奏。やはりベルリンフィルの合奏力あってのコントロールでしょう。こうゆうオケを指揮するのは楽しいのでしょうね。
そしてメヌエットも録音年代を考えるとモダンな演奏。オケの合奏力によるメリハリが素晴しいので、淡々とした表情が活きます。
フィナーレは言わずもがな。耳が慣れて録音をちゃんと割り引いて、当時の響きを聴き取ろうとしてますので、迫力は十分。この余裕のある覇気はベルリンフィル独特のものでしょう。素晴しい陶酔感すら感じるフィナーレの展開。途中、テンポをかなり意識的に落として沈み込むあたり、ハイドンを知り尽くした至芸と聴こえます。最後は響きの坩堝のようになって終了。

ハンス・ロスバウトの指揮するベルリンフィルは、1950年代にもかかわらず、ベルリンフィルらしい素晴しい覇気のある演奏でした。オケの伝統とはこれほどの歴史があるものと再認識。オケの響きは長年かかってそのオケらしい音が形作られていくものだとあらためて再認識した次第。この録音をちゃんと聴くとベルリンフィルの素晴らしさがよくわかります。評価は両曲とも[+++++]としました。

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tag : オックスフォード ロンドン ヒストリカル ベルリンフィル

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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

最新記事
カテゴリ
ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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