シルヴァン・カンブルラン読響常任指揮者最終公演(東京芸術劇場)

この週エマールが出演するコンサートの3つ目ですが、この公演は9年間読響の常任指揮者を務めたシルヴァン・カンブルランが指揮する最終公演でもあります。

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読売日本交響楽団:第215回土曜マチネーシリーズ

このコンサートは当初行く予定はありませんでしたが、コンサートでこのチラシを繰り返しもらううちに、このコンサートは特別なものという気になり、最近チケットを取ったもの。漆黒の中にカンブルランの姿が浮かび上がり、「カンブルランとの華やかな旅の終わりに」とのコピーがなぜか心に響きました。プログラムは下記の通りで、カンブルランが最後のコンサートに選んだのはベートーヴェンとベルリオーズ。ベルリオーズは今年没後150年のアニヴァーサリーでした。

ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲3番(ピアノ:ピエール=ロラン・エマール)
ベルリオーズ:「幻想交響曲」

なんとなくベルリオーズはカンブルランに合うだろうと思っていましたが、このコンサートはカンブルランと読響の総決算に相応しい素晴らしいものでした。

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この日も土曜なのでマチネー。コンサート前に墓参りに立ち寄り、車で来ましたのでアルコールはなしです。この日の席はRB。3階席ですが、右翼の張り出したところなので、ステージにも近く、オケを右上から俯瞰する良い席でした。

1曲目の歌劇「ベアトリスとベネディクト」は、ベルリオーズの3作あるオペラの最後の作品で全2幕の喜劇とのこと。序曲だけでも初めて聴く曲。快速テンポの鮮やかな序曲で、ベルリオーズらしくオーケストレイションも華やか、弦も艶やかさが際立ちます。読響がカンブルランのタクトで軽妙洒脱に吹き上がります。この軽やかさ、華やかさはやはりカンブルランならでは。冒頭から読響はカンブルランの最終公演の緊張感が漲る快演。

2曲目はベートーヴェンの3番。ステージ中央にピアノが据え付けられ、前々日同様エマールは黒のシックな衣装で登場。カンブルランのベートーヴェンは初めて聴きますが、これが意外に良かった。やはり独墺系の指揮者とは異なり、音色に華やかさがあり、タイトに引き締まった響きを繰り出します。エマールも同様きらめくような輝きのある音色を発することもあり、相性は完璧。エマールは完全にカンブルランの伴奏に身を任せ、その中で独自の芳香を放つように演奏します。前々日のソロリサイタルの時以上に体を大きく揺すってカンブルランに合わせます。手元のアーノンクール盤での時のように強烈な個性のアーノンクールと合わせるのと異なり、自然な演奏。テクニックの冴えは流石で1楽章の長大なカデンツァで観客を圧倒。大きく上下する音階やトレモロでも指は全くまどろっこしいところはなく、完璧な演奏。音色もエマールならではの艶やかさを保つ秀演。観客からは盛大な拍手で何度もステージに呼び戻されますが、アンコールはなし。この週3回聴いたエマールの演奏の中ではこの3番がベストでした。

休憩後はこの日のメインディッシュの幻想交響曲。前2曲も素晴らしい演奏でしたが、この幻想交響曲の前座でした。この日の幻想交響曲、カンブルランの渾身の指揮と、それに触発され神がかったような読響の奏者によって、ホールの聴衆全員を全5楽章釘付けにし続ける類稀な演奏となりました。周到に準備されたのでしょう、この曲に潜むおどろおどろしい気配の中、ベルリオーズがそこここに仕組んだ壮絶な号砲が炸裂し、静寂と喧騒の連続によって徐々に音楽に飲み込まれていくような気持ちになっていきます。オケは完璧にカンブルランが掌握。意のままにデュナーミクがコントロールされ、全奏の迫力たるや、容積の大きな芸劇の空間を吹き飛ばさんばかり。読響は9年間教えを請うたシェフの意を完璧にこなす渾身の演奏。ベルリオーズの曲に仕込まれた創意とエネルギーが狂気にまで昇華された類まれな音楽に。これまでもカンブルランと読響の素晴らしい演奏はいくつも聴いていますが、この日はレベルが違いましたね。読響の奏者もカンブルランの有終の美を飾ろうということで気合が違いましたね。5楽章のフィナーレの畳み掛けるような最後の音が鳴り止む前に嵐のようなブラヴォーが降り注ぎ、このコンサートの特別さを実感。もちろん何度も拍手に呼び出されたカンブルランも、この日の聴衆の特別な感動を拍手の音量と音色、笑顔から感じ取ったでしょう、何度も何度も客席全体を見渡し感慨深げでした。場内の照明が明るくなり、オケが撤収し始めて一旦拍手は止みましたが、しばらくで誰かが拍手を始めると、次第に皆が拍手を重ね、一旦消えた拍手が再開されました。カンブルランも再びステージに顔を出し客席に手を合わせて最後のあいさつ。常任指揮者としての最後のコンサートはカンブルランにとっても心に残るコンサートとなったことでしょう。

常任指揮者を離れても、今後客演があるでしょうから、またカンブルランの華やかな響きを聴きに行きたいと思います。

なお、読響のコンサートで配られるMonthly Orchestraの3月号にはカンブルランのインタビュー記事「カンブルランが語る読響との9年の軌跡」が掲載されており、カンブルラン自身が9年間を振り返った心情を語っています。こちらも感動的な内容でした。



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ピエール=ロラン・エマールのゴルトベルク変奏曲(紀尾井ホール)

3月21日春分の日は、前々日に続き紀尾井ホールへ。

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紀尾井ホール:ピエール=ロラン・エマール ピアノ・リサイタル

現代音楽も嫌いではない私は、ピエール=ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard) はかなり気になる存在でしたがこれまで実演を聴く機会には恵まれていませんでした。録音も手元にあるのはブーレーズやメシアンなどの作品集にエマールが参加しているものの他にはアーノンクールとのベートーヴェンのピアノ協奏曲集があるくらいで、膨大な録音を誇るエマールの録音のごく一部を知るにしか過ぎません。ということで今回は3公演のチケットを取り、これが2つ目。前々日にカンブルランと読響にエマールも加わった現代音楽のコンサートを聴いてますが、エマールは2曲目のメシアンでピアノパートに加わった程度。このコンサートはバッハを弾くということで特に興味をそそられチケットを取ったもの。プログラムのメインはバッハですが、前半はエマール得意の現代音楽です。

オリヴァー・ナッセン:変奏曲 Op.24
アントン・ウェーベルン:変奏曲 Op.27
ジョージ・ベンジャミン:シャドウラインズ - 6つのカノン風前奏曲
バッハ:ゴルトベルク変奏曲

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この日は祝日のマチネーということで、いつものアルコールではなくアイスコーヒーで覚醒して、コンサートに臨みます。

ロビーの掲示によるとプログラムは変わりませんが、演奏順序が変わり、1曲目と3曲目が入れ替わり1曲目がオリヴァー・ナッセンの変奏曲とのこと。現代音楽のコンサートはプログラムの解説が頼りということで、開演前に目を通してナッセンの曲の解説を読んでびっくり。オリヴァー・ナッセン、昨年2018年に亡くなっていたんですね。ナッセンは武満の信奉者として知られ、2016年の武満没後20周年記念コンサートでタクトを取っていた記憶が鮮明に残っています。巨体を揺らしながら武満の透明感あふれる響きを繰り出す見事な手腕はまさに武満の真髄を知り尽くした人だから繰り出せる音楽。このコンサートの模様はライヴ収録され、素晴らしい音質でリリースされており、コンサートレポートと、アルバム自体の双方記事にしています。

2017/11/26 : ハイドン以外のレビュー : 【番外】没後20年武満徹オーケストラコンサート
2016/10/16 : コンサートレポート : 没後20年武満徹オーケストラコンサート(東京オペラシティ)

在りし日のナッセンの姿を思い出しつつ1曲目を聴きます。黒のシックな衣装に身を包んだエマールは、拍手に軽く会釈すると、譜めくりの男性が楽譜をピアノに置くやいなやさっと演奏を始めます。コンサートで演奏するというよりは、自分のために演奏しているよう。明晰なタッチから繰り出される漆黒に輝く芯の強いピアノの音色はエマールならでは。ナッセンの曲は常人には判別しがたい12の変奏で構成される曲ですが、エマールはほっぺたを膨らまして深く呼吸しながら、楽譜に封じ込められた音楽と対峙する修行僧のように恐ろしいばかりの集中力で演奏していきます。グールドのように時折音楽を口ずさみながらの演奏。7分少しの時間があっという間。最後の音が消えると曲の終わりだとわかり、観客からの拍手に包まれますが、軽く会釈するだけで、次のウェーベルンの演奏が始まります。

このウェーベルンはエマールにとって特別な曲なのでしょう。先ほどのナッセンの曲では楽譜と首っ引きでしたが、このウェーベルンでは楽譜に目をやることは少なく、まるで自分の体から音楽が湧き出てくるような演奏スタイル。録音など耳からの情報では極めて冷静に聴こえるエマールの演奏ですが、実演では体を大きく動かし、ある種の特別な感情移入が突き抜けている感じ。ミクロコスモスのように凝縮されたウェーベルンの音楽がイキイキと聴こえてくるから不思議です。

そして3曲目は現代イギリスの作曲家ジョージ・ベンジャミンの作品。エマールによって2003年に初演された曲。6曲からなるカノンの手法で作曲された曲。この曲は超絶的な技巧が必要でしょう。いくつものメロディーが同時に進行するような複層的な表情を持つ曲。抽象的なメロディーが知らぬ間にあちこちに流れており、耳がそれに気づくように始終探査していなければならないような緊張感を持つ曲。エマール独特の鋭い高音域の強音が轟いたかと思うと微弱音で別のメロディーが全く異なるテンポで流れているといった具合。前半3曲はどの曲も短い曲ながら、エマールの技巧と前衛的な気風が際立つ選曲で、エマールの圧倒的な存在感を実感した次第。紀尾井ホールの観客もエマールの超絶的な集中力に圧倒されたことでしょう。

休憩後はお目当のゴルトベルク変奏曲。刷り込みはグールドの旧新両盤ですので、長くても50分くらいかと高を括っていたら、結局1時間20分くらいの演奏でした。冒頭のアリアから明らかにエマールの音とわかる鋭いタッチによる研ぎ澄まされた響きと、明らかに独墺系のピアニストの演奏とは異なる色彩感。エマールの集中力はここでも凄まじいもので、楽譜の中のバッハの音楽と対峙する修行僧のごとき凄みがあります。どこか現代音楽へのアプローチに似て、バッハの書いたメロディーの一音一音をただのメロディーとしてではなく、意味ある音の塊として微視的に変化をつけていくようなところがあり、対位法や変奏を浮かび上がらせるアプローチとは異なり、バッハとしては少々の違和感を感じたのも正直なところ。ただし、気迫に満ちたエマールの迫力にグイグイ引き込まれ、長大な演奏にも関わらず集中して聴き続けられました。終盤から最後のアリアに帰ってくるところの安堵感は登った山の高さを実感するような気分。アリアの最後の一音の余韻が途切れたところで紀尾井ホールの観客の盛大な拍手に包まれました。

エマールも最後は観客の熱気のこもった拍手に何度も深く礼をして応じて、満足げな表情でステージを去りました。アンコールはありませんでしたが、精魂込めた演奏だけにアンコールに応じる余力はなかったでしょう。実演を通してわかったのは、先鋭冷静な録音のイメージとは異なり、かなり体を動かし、またかなり唸りながら演奏すること。あのエマールのキレの良い響きを繰り出すのは冷静なタッチではなく絞り出すような作業からだったということ。そしてクリアというか深い輝きを持つキレの良い高音は大きな手による強靭なタッチから生み出されていること。そしてそれらは類稀な集中力から生まれていること。エマールという人の音楽に少し近づけた気がします。

さて、週末はエマール3発目のコンサートです。



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カンブルラン/読響/エマール<果てしなき音楽の旅>(紀尾井ホール)

3月19日は紀尾井ホールへコンサートに出かけてきました。

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読売日本交響楽団:《読響アンサンブル・シリーズ 特別演奏会》 カンブルラン指揮〈果てなき音楽の旅〉

カンブルランは今月2019年3月で読響の常任指揮者の任期満了。今月は最終月にふさわしく4つのプログラムを振ります。任期中、カンブルランのコンサートは結構色々行きましたので、なんとなく名残り惜しくて、このコンサートのチケットをとった次第。プログラムは得意の現代音楽。しかもピアノにピエール=ロラン・エマールが加わるということで期待大です。

読響のコンサートに通うようになったのは前任のスクロヴァチェフスキのコンサートがあまりに素晴らしかったから。その後任の手腕やいかにということと、当初ハイドンなども取り上げられたのがきっかけです。

2017/04/08 : コンサートレポート : カンブルラン/読響:太鼓連打、巨人(東京芸術劇場)
2017/02/01 : コンサートレポート : カンブルラン/読響:メシアン「彼方の閃光」(サントリーホール)
2015/04/11 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)
2014/04/18 : コンサートレポート : カンブルラン/読響のマーラー4番(サントリーホール)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2012/04/16 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の牧神の午後、ペトルーシュカ
2010/11/22 : コンサートレポート : カンブルラン/読売日響の朝、昼、晩
2010/07/14 : コンサートレポート : カンブルランのデュティユー
2010/05/02 : ハイドン–交響曲 : カンブルランのハイドン
2010/05/01 : コンサートレポート : カンブルランのハルサイ爆演

カンブルランと読響のコンサートは調べてみると、これまで9回行っていることがわかりました。1人の指揮者で9回は私としてはかなり多い方というか、多分一番実演に接している人ということになります。指揮者として特に好きな人というわけではありませんが、ハイドンを含む古典から現代音楽まで幅広いレパートリーを誇り、ストラヴィンスキーやデュティユー、リーム、メシアンなどは絶品でしたので、実演での現代音楽の面白さを体験したのが通ったきっかけかもしれません。今回のプログラムもバリバリの現代音楽ということで最後を飾るのにふさわしいものです。プログラムは下記の通り。

ヴァレーズ:オクタンドル
メシアン:7つの俳諧(ピアノ:ピエール=ロラン・エマール)
シェルシ:4つの小品
グリゼー:「音響空間」から“パルシエル”

聴いたことのある曲は1曲もなく、初めて聴く曲に興味津々といったところ。

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読響のコンサートで紀尾井ホールは珍しいですが、編成の小さい現代音楽のプログラムということと特別演奏会ということで、定期公演とは別に企画されたもののようなので、ここが選ばれたのでしょう。現代音楽を得意とするカンブルランだけに、約800人収容の紀尾井ホールは満席。しかもお客さんも現代音楽好きそうな顔ぶれ。先日長大なメシアンの歌劇「アッシジの聖フランチェスコ」でも満員にした集客力は読響常任指揮者9年間の実績に裏付けられたものでしょう。

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未知の現代音楽をあるがままに体験するために、ビールとワインを煽って全神経を鋭敏に研ぎ澄まします。
もちろん、この時ブルース・リーの至言、"Don't think! Feel."という声が脳内に響いたのは言うまでもありません(笑)

この日の席は1回右手桟敷に当たるBR席の中程。ここは適度な距離感とオケ全体が見えてなかなかいい席です。

1曲目のヴァレーズの「オクタンドル」は1923年の作品。「8枚の花弁をもつ花」と言う意味とのこと。コントラバスと木管、金管など8名の奏者によるアンサンブル。静寂の中にオーボエの音色が鋭く響き、その後ファゴット、ピッコロなどの鋭い響きが散りばめられ、トランペット、ホルン、トロンボーンの響きが重なりあう曲。カンブルランの緻密な指示に各パートが見事に応えて精緻な響きが鮮烈に錯乱する快感を味わえました。7分少々の曲。

ステージ上の座席配置を丁寧に修正して、今度はピアノが据え付けられ、続くメシアンの「7つの俳諧」。1962年、ピアニストのイヴォンヌ・ロリオとの新婚旅行で日本を訪ねた時の印象をまとめた曲。副題に「日本の素描」とあります。7曲からなり、構成は下記の通り。

第1曲 導入部
第2曲 奈良公園と石灯籠
第3曲 山中湖〜カデンツァ
第4曲 雅楽
第5曲 宮島と海中の鳥居
第6曲 軽井沢の鳥たち
第7曲 コーダ

解説を見て、日本らしい雰囲気が漂うかと思うとさにあらず。これぞメシアンという摩訶不思議な雰囲気にあふれた曲でした。エマールがピアノ奏者として加わりますが、ソロというよりあくまで1パートという位置付け。シロフォンとマリンバの不思議なリズム。鐘や銅鑼も加わることで千変万化する色彩感溢れる響きに包まれる感じ。音楽から上記の風景が想像できるかというと、全くそんな雰囲気にならないほど音楽と表題が乖離しており、その深遠な距離にアートの本質があるのかと瞑想しながら聴きました。この曲は20分くらい。ここで休憩なんですが、場内は最後のカンブルランということもあってか、現代音楽にしては異様な熱気に包まれ、前半から立ち上がって拍手する人もいました。

休憩後はイタリアの作曲家シェルシの「4つの小品」。これは実に変わった曲でした。録音も実演もこれ以降接することはまずないでしょう。4楽章の曲ですが、1楽章は1音のみから構成され、第1曲はファ、第2曲はシ、第3曲はラ♭、第4曲はラ。基本的に1音を色々な楽器が色々なタイミングと色々な強さで演奏し、上下半音の範囲で微妙にズレた音を表情に加えて構成される曲。前衛的というか実験的というか、かなり無理のある構成。要はメロディーというものを存在させず、それ以外の要素で音楽を作っていくもので、実際に聴いてみると、これは音楽なのかと客席で黙考させられるような経験となり、それなりに面白い曲でした。カンブルランは変わらずオケに緻密に指示して音楽を作っていきますが、音量と音色だけのコントロールでスリリングさを感じさせる秀演。またしても熱気のこもった拍手に包まれました。

最後はフランスの作曲家ジェラール・グリゼーの「音響空間」からパルシェル。コントラバスのかき鳴らす轟音が象徴的に響きわたり、徐々に様々な響きが乗せられて展開していく曲。峻厳な雰囲気と前衛的な響きが交錯し、手に汗握るような緊張感に包まれますが、これまでの3曲よりも狙いははっきりとしていてわかりやすい印象。ところが、終盤、奏者が演奏ではなく楽譜に見せかけた紙をくしゃくしゃにする音を立てたり、色々演出が加わってきます。最後はシンバル奏者にスポットラライトが当たり、まさにジャーンと鳴る寸前で会場が暗転。音は鳴らず、観客の脳内にシンバルが打たれる響きが想像として残るという不思議な終わりかた。現代音楽が追い求めた知的刺激やアイデアの多彩さが印象に残る曲でした。最後のシーンは客席も笑いに包まれハッピーエンド。もちろん粋な演出に客席も拍手喝采。カンブルランは何度もステージに呼び戻され、最後はソロ・カーテンコール。現代音楽好きな観客の温かい拍手に包まれ、カンブルランも満足そうでした。

やはり、カンブルランの現代音楽はいいですね。聴き手と奏者の距離も普通のコンサート以上に近い感じがして、ホールが一体感に包まれる貴重な体験でした。週末はカンブルラン最後の読響でエマールとのベートーヴェンの3番と幻想交響曲など。これも行きます!



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ハーディング指揮MCOのモーツァルト39、40、41番(東京オペラシティ)

3月14日は年度末の仕事でドタバタの中、コンサートに出かけてきました。

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東京オペラシティコンサートホール:ダニエル・ハーディング指揮マーラー・チェンバー・オーケストラ

ダニエル・ハーディング(Daniel Harding)指揮のマーラー・チェンバー・オーケストラ(Mahler Chamber Orchestra)の来日公演。プログラムはモーツァルトの最後の3つの交響曲。

交響曲第39番(K543)
交響曲第40番(K550)
交響曲第41番(K551)「ジュピター」

いつものようにコンサート会場でもらうチラシを見てチケットを取ったんですが、ハーディングというよりアバドが立ち上げたヨーロッパ室内管を聴いてみたくてチケットを取ったもの。

ハーディングはハイドンを振るイメージはあんまりありませんが、プティボンのアリア集や、ゴーティエ・カプソンがソロのチェロ協奏曲集などがあり、かなりはっきりとした表現で音楽を作ってくる人との認識。

2011/03/02 : ハイドン–オペラ : パトリシア・プティボンのアリア集

プティボンのアルバムは以前記事にしていて、キレのいい伴奏で見事なサポート。一方カプソンのチェロ協奏曲の方は、斬新な表現を狙うものの表現意欲が強すぎてハイドンの音楽の面白さをスポイルしてしまったような感じ。ただ、カプソンのチェロ協奏曲の録音は2002年ということで17年も前のものゆえ、その後の変化も含めて実演で確かめてみようという流れです。

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この日の席はタケミツメモリアルの2階R側中程。サントリーホールだとRBくらいに当たる席。客席は満席。ハーディングは度々来日しているようですが、流石の集客力ですね。

満席で開演時間を過ぎても駆け込む人が相次ぎ、場内が落ち着きオケのメンバーがステージに現れ始めたのは開演時間の10分過ぎくらい。チューニングを終えるとハーディング登壇。確か先日の来日時に骨折してしばらく車椅子だったような情報がありましたが、軽やかに歩いて登壇したのでもう大丈夫なのでしょう。笑顔で観客の拍手に応えると、すっと振り返って最初の39番が始まります。

タクトなしでオケに指示を出すと、このオケらしい凝縮感のある響きが繰り出されます。予想通り、ハーディング流の直裁なデフォルメを効かせてアクセントを強調した演奏。ただ、モーツァルトにしては要所のアクセントのリズムが重い。アクセントをためて強調するのがハーティング流なのでしょう、響きはすっきりとキレが良いのに、モーツァルトらしい流麗さがなく、メロディーの流れよりリズムの方が強調され、それが重いので、どうもすっきりしない感じ。おそらく繰り返しも全て取り入れているのでモーツァルトらしい軽やかさがありません。それでも楽章間の対比や各所に散りばめられた閃きは流石なところ。長いな〜と思って聴いていた39番も最後はぐっと盛り上がって終わりますが、響きの余韻が消えてもハーディングは腕を下ろさず、観客はフライング気味に拍手。と思った瞬間、次の40番が始まりました。39番と40番を繋げての演奏でした。

いつもコメントをいただくkatsudonさんによると、このアイデアはアーノンクールによるもの。40番の始まりが実に新鮮に聴こえるという意味ではなかなか面白いアイデアです。そして、39番ではちょっとくどかった印象が40番ではハーディング流の濃い演出がこの曲のデモーニッシュな迫力をアーティスティックに燃え上がらせ、今度は秀逸な感じ。曲によって合う合わないがクッキリ出るのもハーディング流と納得。この40番はリズムの重さは残るものの面白かった。

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休憩後はジュピター。やはりハーディング流のリズムを停滞させるアクセントが気になるもののこの壮麗な交響曲の構築感をしっかりだして、室内オケにも関わらず迫力十分。ここでも繰り返しをすべて取り込んでいるようで、息苦しいようなガッチリとした雰囲気を醸し出す感じ。流石だったのは終楽章のフーガの盛り上げ方。どんどん盛り上がってオケの奏者が楽器を搔きむしらんばかりの強奏でクライマックスを形作っていき、最後は圧倒的な迫力。お客さんの反応はやはり迫力にやられたのか盛大な拍手に包まれ、最後はソロ・カーテンコールへ。最後に登壇した時は右脚をかばうようにしていたので、骨折はまだ全快にはなっていないのでしょう。温かい拍手に謙虚に礼をする姿が印象的でした。

始まったのが遅かったのもありますが、全ての繰り返しを対応して3曲を演奏して、終演は9:30くらい。フルコースの料理をいただいた感はありますが、ちょっと味が濃く、量も多かったという感じでしょうか。やはりモーツァルトには流麗さ、軽やかさを求めてしまいますね。ハーディングの重めのアクセント、繰り返し、そして繰り返しでもそれほど変化をつけないと長さを感じさせるところがそう思わせてしまったのでしょう。ハイドンでも繰り返しの表情の変化は非常に重要で、数多の名演は、そのあたりの処理が実に巧みなんですね。

年度末で仕事も忙しいんですが、来週は紀尾井ホールでカンブルラン/エマールの現代音楽とエマールのゴールドベルクの2連発。仕事片付けなくては、、、



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爆演! ローター・ツァグロゼク/読響のリーム、ブルックナー(サントリーホール)

2月22日金曜はサントリーホールで読響のコンサートを聴いてきました。

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読売日本交響楽団:第585回定期演奏会

ローター・ツァグロゼク(Lothar Zagrosek)指揮の読売日本交響楽団の演奏で、プログラムは下記の通り。

リーム:Ins Offene...(第2稿/日本初演)
ブルックナー:交響曲7番

ツァグロゼクは名前は知っているものの、ちゃんと聴いたことがなかったのと、リームとブルックナー、特にリームというプログラムにグッときてチケットを取ったもの。いつも通り、軽くさらっておきましょう。

ツァグロゼクは1942年、ドイツのニュルンベルクの南にあるオッティング(Otting)の生まれ。少年期にはレーゲンスブルクカテドラル合唱団の団員で、1954年のザルツブルク音楽祭の魔笛で第1の少年役を務めています。1962年から67年までスワロフスキー、ケルテス、ブルーノ・マデルナ、カラヤンから指揮を学び、その後1982年から86年までウィーン放送交響楽団の首席指揮者、1985年から88年までBBC交響楽団の首席客演指揮者、1990年から92年までライプツィヒ歌劇場の常任指揮者、1995年からはユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニーの首席客演指揮者、1997年から2006年までシュトゥットガルトのヴュルテンベルク歌劇場の首席指揮者、2006年から2011年までベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(旧ベルリン交響楽団)の首席指揮者を務めるなど、ドイツのオケや歌劇場で叩き上げられてきた人。読響には3年前に初客演し、今回が2度目の客演とのことです。

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この日の席はいつものRA。ステージを右手から見下ろすお気に入りの席。1曲目のリーム用にステージが仕立てられていますが、これが変わった配置。指揮台の周り3mくらいには席をおかず、ドーナツのように指揮者の周りが空いて配置されています。定刻になり団員が席に着きますが、通常指揮者の左手にヴァイオリンパートが置かれますが、そこにはピアノやハープにコントラバスなど。右手にはチェロとヴィオラ、ホルンなど。そして演奏が始まるまで気づきませんでしたが、客席内5カ所にも奏者が配されていました。特に驚いたのが、ステージ裏のパイプオルガンの左右隅にソロヴァイオリンが置かれ、左側はゲストコンサートミストレスの日下さん。客席内で演奏するのはなかなか度胸がいるでしょう。

リームの「Ins Offene...」は1990年にスコティッシュ・ナショナル管からの委嘱により作曲、初演された曲。今回演奏される第2稿は1992年に書かれ、1995年に読響の常任指揮者だったゲルト・アルブレヒトによって初演されています。もともと客席を取り囲むように奏者を配置するよう指定されているとのこと。ツァグロゼクの指揮は大きな楽譜をめくりながら各パートに鋭利なアタックでリズムを指示していく感じ。モスキート音のような超高音がモアレの滲みのように錯綜しながら静寂とパーカッションの乱舞が寄せては返す前衛の極みのような曲調。眼光鋭いツァグロゼクのタクトによって日本刀のような凄みのあるキレ味と四方八方から交錯する鋭利な響きにホール全体が緊張に包まれる30分間。あまりの峻厳さに客席が凍りついたように静まり返り、時間の流れが日常世界とは切り離されたような不思議な感覚に襲われました。もちろん、この冷静なタクトさばきと精緻な読響の熱演に観客は前半から盛大な拍手でツァグロゼクを称えます。リームの前衛の気風に圧倒されました。

休憩中にステージは大幅な模様替え。ピアノをかたずけ、ステージいっぱいにフルオーケストラ用の席が用意され、廊下には先ほどまで客席に配置されていた打楽器群が集められバックヤードに運ばれていました。

休憩後のブルックナーは、指揮台に譜面台はなく、ツァグロゼクは暗譜での指揮。指揮姿は先ほどまでの鋭角的にリズムを指示するスタイルとは打って変わって、体全体をしなやかに使った指揮。これほどまでにスタイルを変えて指揮する人は初めて。しかも、長大なブルックナーの楽譜を完全に自分のものにしているように、体から音楽が湧き出てくるよう。デュナーミクもアゴーギクもアクセントも全て自分で書いた音楽のように体全体からブルックナーの真髄を発散するような実に見事な指揮ぶり。オケにとってみればこれほどわかりやすい指揮はないでしょう。タクトの魔術師マゼールがタクト自体でコントロールしていたのに対し、ツァグロゼクの指揮はタクトは持ってはいますが体全体での類い稀な表現力を持っている人でした。

読響のブルックナーといえば私は何度も聴いたスクロヴァチェフスキの、あの忘れがたい神々しさ、ホールに出現する圧倒的な大伽藍の迫力が耳から離れません。なんとなくそれと比べて聴いてしまうような気がしてもいましたが、この日のツァグロゼクの演奏はそれに勝るとも劣らない素晴らしい体験となりました。入りは誠実精緻。体全体を使ってオケをコントロールし、ブルックナーの書いたフレーズの一つ一つのテンポと表情をクッキリと描き分けながら大局的な視点で曲をまとめ上げる類い稀な演奏。スクロヴァチェフスキが神々しさを浮き彫りにするようにここぞというポイントを絞って伽藍を出現させるようにまとめるのに対し、ツァグロゼクはフレーズそれぞれの響きの綾の織りなす美しさをディティールの集合体としての完成度で聴かせるようなまとめ方。ここぞというところでもテンポは落とさず、精緻なディティールが次々と変化する多様な美しさを強調する演奏でした。もっとも印象に残ったのは終楽章。雄大にまとめる演奏が多い中、ハイドン時代からの交響曲の終楽章の伝統を踏まえてか、速めのテンポでクライマックスを構築し、幽玄さではなくオケの機能美で響きの純粋な美しさを印象付けて終わりました。ブルックナーの交響曲も古典時代からの交響曲の歴史のパースペクティブの中に位置付けているのでしょう。オケは日下さんに導かれるしなやかな弦楽パートが絶品。金管も木管も見事。あのツァグロゼクのタクトにかかっては表現がブレようがありません。最後にツァグロゼクのタクトが降ろされると、今まで聴いたこともないような怒号のようなブラボーに包まれました。75歳の老指揮者の発散する途轍もないエネルギーが観客全員の心にぶっ刺さりましたね。ツァグロゼクも会心の出来に満足したのか笑顔で何度もカーテンコールに応え、最後は一般参賀。ツァグロゼクのブルックナーもまた忘れがたい体験になりました。

改めてチラシを見ると「巨匠ツァグロゼクの”至高のブルックナー”」とありますが、前宣伝に偽りなしでしたね。

ホワイエでは慣例通りツァグロゼクのCDを売るコーナーがあり、この手はいつもスルーしますが、この日は新譜のハイドンの88番の入ったアルバムが目に留まったのでその場でゲット(笑) 良かったらレビューします!



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tag : ブルックナー リーム

ソフィ・イェアンニンのオラトリオ「四季」(すみだトリフォニーホール)

2月16日はコンサートに出かけてきました。演目は実演では初めて聴くハイドン最後の大作オラトリオ「四季」です。

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新日本フィルハーモニー交響楽団:ルビー<アフタヌーン・コンサート・シリーズ>

最近、天地創造はコンサートのプログラムに取り上げられることも珍しくなくなりましたが、天地創造よりも長い四季が取り上げられるのは稀なこと。しかも指揮者は女流とあって、興味をそそられチケット取ったもの。

指揮者のソフィ・イェアンニン(Sofi Jeannin)は、1976年ストックホルム生まれの指揮者。もともと合唱指揮者出身で自身もメゾ・ソプラノ歌手として活躍していた人とのこと。ニース音楽院、ストックホルム王立音楽アカデミー等でピアノや声楽学び、ロンドンの王立音楽カレッジで合唱指揮を学びます。2005年からはロンドンを拠点とする合唱団であるLondon Voicesでメゾ・ソプラノ歌手として活躍すると同時に王立音楽カレッジで合唱の指導者としてのキャリアを始めます。その後合唱指揮者としてのキャリアを積み、2015年からはラジオフランス合唱団の音楽監督、2017年からはBBCシンガーズの首席客演指揮者、2018年からは同合唱団の首席指揮者に就任するなどトントン拍子でキャリアを駆け上っています。そして、今回、フルオーケストラを伴う指揮者としてこのコンサートを担当することになったという流れでしょう。

歌手はおなじみの人ばかりで盤石の体制。

ハンネ(ソプラノ):安井陽子
ルーカス(テノール):櫻田 亮
シモン(バリトン):妻屋秀和
合唱:栗友会合唱団
合唱指揮:栗山文昭

この日は土曜のマチネーということでしたが、お客さんの入りは5割くらいと寂しい限り。ハイドンの知名度の低い長大な曲というプログラムの問題、日本での知名度の低い指揮者であるという問題を考えると止むを得ない状況でしょう。しかし、この日の演奏は、素晴らしいものでした。終演後の温かい拍手とブラヴォーはソフィ・イェアンニンの今後のさらなる活躍を期待させるものでしょう。私も心から楽しませてもらいました。



この日の席は3階席。3階席といってもサントリーホールだとRAに当たるステージを右上から俯瞰する席。開演前の眺めはこんな感じです。

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すみだトリフォニーホールのこの席は初めて。一旦3階まで登りますが、ホール横の階段とトコトコ降りて、実は2階になるという感じ。眺めも手すりがちょっと邪魔。手すりを設けるのは仕方がありませんが、デザインはもうちょっとなんとかならなかったのでしょうか。ここは最大手設計事務所の日建設計の設計ですが、ホワイエの狭さといい動線設計といい色々イマイチなんですね。なんとなく音楽を楽しむ習慣のない人が設計している感じです。

開演時間は14:00。定刻になると、まずは栗友会合唱団が登壇、続いてオケ。コンサートマスターがステージに上がり、チューニングが終わると、歌手とイェアンニンが登壇。イェアンニンはチラシ通りスタイリッシュな美人指揮者ですね。

イェアンニンの指揮はテンポをキッチリ指示するオーソドックスなもの。春の入りは予想した速めのテンポではなくじっくりとした歩み。音楽の作りはヴィブラートは抑え気味でメロディーとダイナミクスをくっきり浮かび上がらせ、非常に見通しよく音楽を作っていきます。この日のオケの精度は文句なし。イェアンニンの指示にかなり鋭敏に反応して、特にダイナミクスの表現が秀逸。鮮やかに吹き上がりハイドンの晩年の境地を新鮮さで蘇らせた感じ。特に素晴らしかったのがコーラス。流石に合唱指揮者出身なだけにコーラスに対する指示は非常にきめ細かく、時に口ずさみながらの指揮で、コーラスも非常に歌いやすそうでした。圧巻だったのがその声量。フルスロットルのオケにさらにエネルギーを加えるような渾身の歌唱でホールが満たされ、ハイドンの素朴なメロディーがイキイキと弾みました。前半の春の凝縮したエネルギー、夏の焦燥感、休憩後の秋の収穫の喜び、そして暗澹たる冬の景色から春に向かう喜び。最後のアーメンに到るまでの長い物語が、イェアンニンのニュートラルな棒によってハイドンの音楽の素晴らしさが浮かび上がる見事な指揮ぶり。歌手はいつもはバリトンの妻屋さんの声量が目立ちますが、この日は3人とも声量、輝き、そして表情付けとも文句なし。3人とも完璧な歌唱でこのコンサートに華を添えました。

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新進気鋭のソフィ・イェアンニンのあまりに見事な指揮に会場からは暖かい拍手とブラヴォーが降り注ぎました。集客はイマイチでしたが、ハイドン好きな方は次の機会を逃してはなりません。日本デビューにあえて天地創造ではなく四季を選んだ見識。次は是非、トビアの帰還かスタバト・マーテルを取り上げてほしいものです。両曲とも演奏の機会がほとんどありませんが、素晴らしいアリアとコーラスが詰まった名曲ゆえ、これらこそイェアンニンにこそ振ってもらいたいですね。

いいコンサートでした。



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tag : 四季

マッシモ・ザネッティ/読響の第九(東京芸術劇場)

昔は年末に大挙して第九を聴きにいくなんていう、我が国独自の風習について冷静な目で見ていたんですが、最近そうした心境は知らぬ間に消え去り、気づいてみるとその風習の体現者となっています(笑)

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読売日本交響楽団:第212回土曜マチネーシリーズ

このところはなぜか読響の第九に出かけています。今年もコンサートでもらうチラシを見て、在京各楽団の第九の中から気になったのが読響のもの。指揮者は全く未知のマッシモ・ザネッティという人ですが、イタリア人で歌劇場で活躍する人ということで、選んだ次第。ザネッティは読響にも初登場とのこと。昨年聴いたクリヴィヌの代役でのサッシャ・ゲッツェルも良かっただけに、ハイドンの演奏でもそうですが、コンサートでも未知の指揮者を聴くのは想像力を掻き立てるという意味で楽しみの一つです。

2017/12/24 : コンサートレポート : サッシャ・ゲッツェル/読響の第九(サントリーホール)
2013/12/26 : コンサートレポート : デニス・ラッセル・デイヴィス/読響の第九(東京オペラシティ)
2012/12/21 : コンサートレポート : カンブルラン/読響の第九(サントリーホール)
2011/12/27 : コンサートレポート : スクロヴァチェフスキ/N響の第九(サントリーホール)
2011/11/03 : コンサートレポート : 【サントリーホール25周年記念】ホグウッド/N響の第九

12月22日土曜のマチネーということで、この日の開演は14時。コンサート後の用事もあって、この日は車で池袋に向かい、芸術劇場の地下の駐車場に車を停めホールに上がります。

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この日のプログラムは第九1曲のみ。配役は下記の通り。

ソプラノ:アガ・ミコライ(Aga Mikolaj)
メゾ・ソプラノ:清水 華澄(Kasumi Shimizu)
テノール:トム・ランドル(Tom Ramdle)
バス:妻屋 秀和(Hidekazu Tsumaya)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theater Chorus)
合唱指揮:三澤 洋史(Hirofumi Misawa)

バスの妻屋秀和さんは、以前、高関健の天地創造のラファエル、昨年のゲッツェルの第九での素晴らしい歌唱を体験ずみ。今回の第九でもバスが妻屋さんというのがチケットを取る気になった理由の一つです。

プログラムが第九でマチネーということで客席は満員。やはり第九はお客さんが入るんですね。

定刻となり、コーラスの第二国立劇場合唱団から整然と入場。この日のコンサートミストレスは客演の日下紗矢子さん。チューニングを終えると、銀髪姿のザネッティが颯爽と登場。まずは1楽章はお手並み拝見です。ザネッティの指揮はかなりアクションが大きくオケにはわかりやすそう。最初の混沌とした序奏からキビキビとした音楽の運びは現代風ではありますが、古楽器風でもなく、やはり歌劇場で活躍する人だけに、オペラのように強音が吹き上がる反応の良さを引き出すようなコントロール。1楽章はそれでもベートーヴェンとしてはダイナミックでもあり、イタリア人らしく独墺系のベートーヴェンの重厚な響きとは異なりキレ味を感じさせる颯爽としたもの。特にティンパニを目立たせるあたりでキリリとした印象を引き出しているよう。
そのティンパニが大活躍する2楽章ではティンパニの岡田さんが次々と鋭い楔を打ち込むようにリズムを刻みます。キレの良いティンパニの連打がホールに響き渡り、オケもそのリズムに煽られながらダイナミックに響きます。
そして3楽章のアダージョは予想通り若干速めのテンポで見通しのよい展開。ザネッティはオペラティックな響きを引き出していきますが、そこはベートーヴェンということで、古典的な均衡を保とうとする意図も見え、ここまでは理性的なコントロールが優った感じ。
そして、第九の聴きどころ、終楽章に入ります。ここでザネッティが明らかにギアチェンジ。4楽章に入った途端に表現の起伏が大きくなります。ここでここまでザネッティがオケを抑えていたことがわかりました。冒頭からザネッティはオケを煽りまくりで、オケの方もそれに応えたキレキレ。そして声楽陣の第一声、妻屋さんのバスが圧倒的な声量でホール内に轟くと、ホールの緊張感が高まります。素晴らしかったのは合唱。第九なのにカルミナ・ブラーナのようなど迫力のコーラスが加わることで、広い芸術劇場の空間が大音量の響きに満たされます。やはりザネッティはオペラの人。終楽章の渾身の盛り上げ方はまるでヴェルディのオペラのような輝かしさに満ちたものでした。妻屋さん他の歌手も粒ぞろいで聴きごたえ十分。最後のフィニッシュもテンポをかなり上げて爆風のように終わり、もちろん会場のお客さんも拍手喝采。いやいや、ここまで4楽章に聴きどころを集中させるとは、なかなかの策士ですね。

もちろん熱演に対する拍手は何度もザネッティと歌手をステージに引き出し、奏者をねぎらっていました。この日はやはりコーラスの迫力が演奏の燃焼度に直結していましたね。観客も歌手もオケもコーラスの熱演を最後まで讃えていました。

この演奏を聴いた後でチラシをよく見ると、「年末に響く”歓喜の歌”」とのキャッチに続き、「心震わす壮大なクライマックス」とありますが、当初は第九の曲自体の作りを言っているものと思い込んでいました。演奏を聴いてこのコピーはザネッティの演奏のことを指していたものと、真意がわかりました。読響自体に初登場ということで、客演指揮者を探す読響の担当者がどこかでザネッティの第九を聴き、このコピーを考えたものでしょう。確かにこのキャッチコピーに偽りなしでした! マッシモ・ザネッティ、要注目です。

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この日は車で来たので、隣の東武百貨店で買い物をして、駐車の割引券を入手。そしてコンサートのチケットを見せると30分分割引ということで、駐車料金を安く抑える戦略(笑)。ということで最後に駐車場の出口で精算すると、狙い通り安く済ませることができました。ところが清算後、係りのオジサンがガサゴソと何か取り出し、こちらに笑顔で「クリスマスプレゼントです」と、お菓子をくれました(笑)

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こうしたちょっとした気配りは嬉しいものですね。素晴らしいコンサートもオジサンの気配りも人の心を暖かくするもの。オジサン、世界の平和に貢献してますね(笑) ありがとうございました。



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tag : 第九 ベートーヴェン

パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマーフィルのロンドンなど(東京文化会館)

先週金曜日に続いて月曜日もコンサートのチケットを取ってありました。

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都民劇場:公演ラインアップ 音楽サークル 第659回定期公演

パーヴォ・ヤルヴィ(Paavo Järvi)指揮のドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団(Deutsche Kammerphilharmonie Bremen)の来日公演。会場は東京文化会館ということで主催は古風なチラシで異彩を放つ都民劇場(笑)。プログラムは下記の通り。

シューベルト:交響曲5番
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲5番「トルコ風」 ヴァイオリン独奏はヒラリー・ハーン(Hilary Hahn)
ハイドン:交響曲104番「ロンドン」

このコンサートのチケットを取ったのはハイドンのロンドンがプログラムに組まれていて目に止まったせいもありますが、お目当てはヒラリー・ハーンです。

パーヴォ・ヤルヴィは、このカンマーフィルとのベートーヴェンの交響曲全集で一躍有名になり、2015年からはN響の首席指揮者を務めるなど、今をときめく存在。で、ですが、私はちょっと苦手な方。パーヴォは如何なものかとの興味で一昨年に聴いたコンサートは流石のコントロール能力の高さを見せつけたものの、ちょっと器用すぎて小手先的印象を感じたのも正直なところ。

2016/10/08 : コンサートレポート : パーヴォ・ヤルヴィ/N響のマーラー交響曲3番(サントリーホール)

そのヤルヴィがシューベルト、モーツァルト、そしてハイドンをどう料理するかにも興味はありましたが、やはり聴きどころはヒラリー・ハーン。ヒラリー・ハーンも2度ほど実演に接していますが、ブログを書く前のことで、記録が残っていないと記憶も曖昧(苦笑)。確か直近は2009年にポピュラー系のジョシュ・リッターとのデュオのコンサート。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは天才的なひらめきと、確かな音楽の骨格、表現をしっかり持った逸材との認識で、以前のコンサートの良い余韻が残っています。



このところ東京もぐっと冷え込んでくるなか、月曜日にもかかわらず、仕事をエイヤとやっつけて、久しぶりに上野の東京文化会館に向かいます。私が学生の頃は一流オケのコンサートは東京文化会館と決まっていましたね。前川國男先生のモダニズムの結晶のような建物は今でも素晴らしいオーラを放っていて、建築遺産としては揺るぎない価値を持つもの。

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ただし、コンサートホールとしては響きにかなり癖があり、ミューザ川崎をはじめとする音響の優れたホールとはかなり差がついてしまうのは致し方ないところ。

この日も開場時間にホールに参上。上野駅駅ナカで腹ごなしは済ませてきました。

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さて、この日の席は、いつも通り右側ですが、発売からだいぶ経ってからチケットを取ったのと、やはり舶来オケの価格帯のため、無理せず安い席をということで4階席。4回席までは階段です(笑)。眺めは上の写真の通りです。

開演時間になると会場内に盛大に学校のようにチャイム音が鳴るのはご愛嬌。場内の照明が徐々に落ちて、オケが入場。そして颯爽と洗われたヤルヴィが軽く観客に会釈して、1曲目のシューベルトが始まります。今回のこのコンビの来日ツアーではシューベルトがテーマの一つになっているようで、シューベルトだけのプログラムも用意されています。1曲目は響きに敏感。響きに癖がある東京文化会館のしかも4階ということで、音はあまり期待はしていなかったので、さして違和感はありませんでした。むしろ気になったのはヤルヴィのちょっとそそくさとした音楽の運び。ちょっと前に響きのいいミューザで、濃厚、流麗、分厚い響きのメータのシューベルトを堪能しているだけに、キリリと引き締まって、それはそれでスタイリッシュなヤルヴィの指揮はわかるものの、シューベルトの音楽とはもっとしなやかで、柔らかさがあってもいいと思わせてしまい、ヤルヴィ流のちょっと軽めの演奏はまずは前座という感じでした。

続いてお目当のヒラリーハーンの登場。白に金の柄のついた華やかなロングドレスで登場したヒラリー・ハーン、今度はモーツァルトということで軽やかさが曲にマッチしてヤルヴィのキレのいい伴奏を聴きながらリズムをとって入りを待ちます。静かな第一音から緊張感がみなぎり、抑制の効いたボウイングから繰り出される多彩な音色にうっとり。鋭さもあり、しなやかさもあり、そしてハーンの美点であるしっかりとハーンの音楽になっているところは期待通り。ヤルヴィが音色とキレという多彩な音色を繰り出すことに執心しているのに対し、ハーンは一貫してハーンの音楽を繰り出し、ハーンの方が格上に感じたのが正直なところ。テクニックを披露する曲ではなく、流麗な美しいメロディーを聴くべき曲ですが、ハーンは各楽章のカデンツァで、凝った構成のものを用意していましたが、いづれもヴァイオリンの音ではなくボウイングで音楽を作っていくという楽器の本質のようなものを聴かせたかったような構成。カデンツァでも唸らされました。流石にヒラリー・ハーン、モーツァルトでもただでは済ませない力量を見せつけました。もちろんほぼ満席の客席からは万雷の拍手が降り注ぎ、何度かのカーテンコールの後、アンコールを2曲。

バッハ 無伴奏ヴァイオリンパルティータ3番よりジーグ
バッハ 無伴奏ヴァイオリンソナタ2番よりアンダンテ

オケを前にして静まり返るホールにハーンの静謐なバッハが響き渡り、本編のモーツァルト以上の神々しいボウイングに圧倒されました。やはりハーンはすごいですね。



休憩後はハイドンの「ロンドン」。「ロンドン」はアルバムではリリースされているほとんどのものを聴いていますがの実演は2009年にホグウッドの振ったN響くらい。ハイドンの交響曲の集大成であり、壮大な構成で知られていますが、演奏は非常に難しく、特に3楽章、4楽章が力んで単調になりやすいもの。しっかりと構成を考えて、どこに聴かせどころを持ってくるかなかなか難しい曲でもあります。ヤルヴィは予想では速めのテンポで入るかと思いきや、序奏はかなりテンポを落としてきました。骨格の壮大さよりはフレーズごとの立体感を出そうというような感じ。1楽章は徐々にテンポを上げてきっちりとした構成感を出しまずまず。続く2楽章以降では、短い音でリズムを打つフレーズがたくさん出てきますが、それをあえてしているのでしょう、かなり均一に鳴らすのでリズムが単調に聴こえてしまい、本来味わい深いアンダンテとメヌエットが少し平板な印象に聴こえてしまいます。ただし、そこは流石にヤルヴィ、終楽章で最後のクライマックスに至る盛り上げ方は見事。インテンポでオケを煽りながら壮大な頂点を構築しフィニッシュ。もちろん観客も満足したようで拍手喝采。拍手に応えて、オケもアンコールを披露。非常に色彩感に富んだ曲でしたが聴いたことのない曲。帰り際、ホワイエの張り紙でシューベルトのイタリア風序曲2番と知りました。この日のステージにはティンパニが通常の2つの他、右側に大きなものがもう1つ。この3つ目のティンパニはアンコール曲でしか使っていなかったように見えましたので、アンコールは最初から予定されていたものでしょう。ハイドン以上に各パートが活躍する曲で、アンコールでオケの実力開帳といったところでしょう。

パーヴォ・ヤルヴィは流石にN響の首席指揮者を務めるだけあって、集客力もありますね。ただし、オケのドイツ・カンマーフィルですが、日頃聴く日本のオケと比べてレベルが高いという感じではなく、木管、金管などのソロを聴くとむしろ、東響や読響、N響の方が上手いかもしれませんね。日本での印象はやはりヤルヴィのベートーヴェン全集での鮮烈なキレ味の印象が強く、ドイツの一流オケという印象でしたが、やはりバイエルン放送響、ベルリンフィルなどとはそもそも格は違いますし、近年の日本のオケのレベルの高さを考えると、少し冷静な目で見た方が良いかもしれません。

この日の収穫はやはりヒラリー・ハーンでした。今月はハーンのバッハの無伴奏のコンサートも組まれていましたが、そちらもチケットとっておけばよかった、、、 次の機会を待つことにします(笑)



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tag : シューベルト モーツァルト ロンドン

ジョナサン・ノット/東響の「フィガロの結婚」(ミューザ川崎)

先週金曜日は楽しみにしていたコンサートを聴いてきました。

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東京交響楽団:コンサート情報(2018/19 Season)歌劇「フィガロの結婚」(演奏会形式)

一昨年より3年連続で東響の12月のプログラムにモーツァルトのダ・ポンテ三部作を取り上げたコンサート。その完結編となる「フィガロの結婚」。一昨年の「コジ・ファン・トゥッテ」があまりに素晴らしかったので、昨年に続き今回ももちろんチケットを取った次第。前二回の記事はリンク先をご覧ください。

2017/12/10 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「ドン・ジョヴァンニ」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

今回のキャストは下記の通り。演出監修はバルトロ役のアラステア・ミルズが担当。

指揮/ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott)
バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ(Alstair Mils)
フィガロ:マルクス・ヴェルバ(Markus Werba)
スザンナ:リディア・トイシャー(Lydia Teuscher)
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ(Ashley Riches)
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション(Miah Persson)
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト(Jurgita Adamonyte)
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア(Jennifer Larmore)
バルバリーナ:ローラ・インコ(Laura Incho)
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック(Angelo Pollak)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theater Chorus)
合唱指揮:河原哲也(Tetsuya Kawahara)

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CDでも3枚組が当たり前の長さゆえ、この日は平日金曜にもかかわらす開演時間は18:30。やはり平日18:30に川崎に来れるお客さん層は限られるということで、素晴らしい公演になることは予想できたにもかかわらず、客席の埋まり具合は8割ほどでした。これはもったいないですね。いつも通り開場時刻過ぎにホールに入って、先に入場していた嫁さんと合流。サンドウィッチで腹ごしらえして、ホールに入ります。

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この日の席はステージ右側の2階席。先日のメータ/バイエルン放送響の公演の3階席でも音はまったく問題なかったので心配なしです。コンサート形式での上演ということで、ステージ上にはなぜかオフィスチェアとコートハンガーが並んでいます。

程なく開演時刻となり、オケが準備を整えノットが登壇。いつも通り小走りでハンマーフリューゲルの前に立ち、振り返って観客の拍手に笑顔で応えると、すぐに聴き慣れた序曲に入ります。ノットはモーツァルトが好きなのでしょう、序曲から実に楽しげに指揮棒なしで大きく体を使いながらオケに指示を出し、オケは湧き上がるような推進力で小気味よく吹き上がります。我々の世代のフィガロの刷り込みはもちろんベームのベルリンドイツオペラ盤。キリッと引き締まりながらどこかに微笑ましさと慈しみあふれるベーム盤とは異なり、自由自在に伸び伸びとしたノットのコントロールの魅力が序曲から満ち溢れます。

序曲が終わり、フィガロとスザンナが登場。フィガロのマルクス・ウェルバは一昨年のコジのグリエルモ役でおなじみ、スタイリッシュなイケメン。スザンナのリディア・トイシャーは手元のチェチーリアミサのインマゼール盤でソプラノを務めていましたが、こちらも美人ソプラノで若々しい美声。フィガロとスザンナははまり役。シーツを広げて部屋に見立てて寸法を測り始めるという最小限の小道具で情景を想像させるという手法は、このシリーズに共通した演出です。そしてハンマーフリューゲルはノット自身が演奏するのも共通。かなりゆったりと練って入るしっとりとしたつなぎも舞台の転換をしっかりと印象付けるもの。複雑なオペラを指揮しながらさらりとハンマーフリューゲルの演奏もこなすところは流石の処理能力。東響もノットのコントロールに見事に応える完璧な演奏。ベームのタイトさで聴かせる演奏とは異なり、しなやかな充実感で聴かせます。そして緊張感、充実感は素晴らしいものがありました。

フィガロとスザンナのデュエットから、この劇のキーパーソンとなるアラステア・ミルズのバルトロ登場。短い歌で性格俳優的な味わいを出すあたりは流石。続いてマルチェリーナ役のジェニファー・ラーモア、ケルビーノ役のジュルジータ・アダモナイトと登場。ラーモアはベテランらしく演技に味わい深い華やかさがあり、歌い終わった後の観客への礼一つとっても実に見事な振る舞い。ケルビーノはボーイッシュな感じを狙うには美人すぎる感じ(笑)。どちらも役に徹した歌唱で見事。

アルマヴィーヴァ伯爵のアシュリー・リッチズは長身のバリトン。伯爵にはちょっと若い感じですが、迫力よりはスタイリッシュに聴かせる歌唱は悪くありません。後半にかけて嫉妬に狂ったりダメダメな伯爵役の演技はなかなかよかったです。そしてバジーリオのアンジェロ・ポラックもスーツでビシッと決めた衣装で古風な演出での役柄とは印象は異なり、こちらもスタイリッシュ。そして伯爵の祝福に集まった村人の新国立劇場合唱団のメンバーはなぜかコミカルな体型の人を集めた感じで、演技もコミカル路線(笑)。第1幕の終結、フィガロの「もう飛ぶまいぞ」からケルビーノの出兵に向けたマーチの盛り上がりへの演出はノットの真骨頂。オケをグイグイ盛り上げてオペラの醍醐味を存分に感じさせました。



観客の万雷の拍手もそこそこに、すぐに第二幕に入りますが、第1幕は前座でした。第2幕で登場した伯爵夫人のミア・パーション、これが凄かった。登場するなり最初のカヴァティーナで異次元の歌を聴かせます。これまで聴いたどのソプラノのよりも素晴らしい歌唱に腰を抜かさんばかり。一流のソプラノの底力と迫力に圧倒されました。声の輝かしさ、圧倒的な声量、鳥肌ものの弱音のコントロール、そしてその存在感。ホール中の空気を凍りつかせる素晴らしい歌に酔いしれました。やはり生の声はいいですね。

続くケルビーノの有名なアリアは、トロヤノスの美声のイメージとは異なり、現代風にサラサラ流れるような可憐な歌唱。第2幕の伯爵夫人の部屋の化粧室にケルビーノが隠れていることを取り巻くやりとりも、舞台装置なしに小道具だけでの進行にもかかわらず、わかりやすい演出でかなり楽しめました。そして第2幕のフィナーレの三重唱から五重唱そして七重唱へ発展してクライマックスを迎える盛り上がりも圧巻。ノットが縦横無尽に動き回ってオケを煽り、前半の2幕が終わります。いやいや盛り上がりました。



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100分間の前半もあっという間。25分の休憩で、皆さんロビーに出てオペラの賑わいを肴に一献。こちらもワインで素晴らしい舞台の余韻を楽しみました。

休憩後は第3幕から。この時点でレロレロ(笑)。後半も素晴らしかったのですが、美しいアリアの続く第3幕の中でも、やはりミア・パーションの「楽しい思い出はどこへ」が圧巻。再び美しいソプラノに打ちのめされました。ホール全体が静寂に包まれ、パーションの歌に酔いしれました。アリアの後の嵐のような拍手がその素晴らしさを物語るようでした。

そして庭園でのスザンナと伯爵夫人が入れ替わって伯爵に一泡吹かせる第4幕。幕切れの全てを許す和音が響くと、このたわいもない戯れを描いた筋書きが、モーツァルトの素晴らしい音楽によって、人の心を癒す一夜のオペラとしてかけがえのない価値を持つものなったことがわかるわけです。もちろん最後の合唱が終わりを迎えると、客席からはブラヴォーの嵐。最初にコーラスメンバーが舞台に上がり、ついで歌手が上がり、もちろん何度も呼び戻されます。ノットも演奏に満足したのか歌手とオケを終始讃えていました。18:30に始まったコンサートは、すでに22:00近い時間。この間、全く緩むことなく演奏し続け、素晴らしい舞台を支えた東響。この日の演奏は本当にレベルが高かった。フィガロを実演で聴くのは初めてでしたが、全くもって堪能いたしました!



3年に渡って演奏されたダ・ポンテ三部作で、来年は魔笛か、、とも想像しましたが、直近に発表された来シーズンの12月の予定にはその予定はありませんでした。たまたま一昨年にコジ・ファン・トゥッテのチケットを取ったことから3年に渡ってノットのモーツァルトを聴きましたが、これは貴重な体験となりましたね。ノットが楽しそうにオケを煽る姿。そしてミア・パーションの魂を撼わすアリア、忘れません。



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tag : モーツァルト

ズービン・メータ渾身の春の祭典(ミューザ川崎)

母の葬儀後にも関わらず、事前にチケットをとってあったイベントが目白押し。くよくよもしていられませんので、予定をこなすことにしました。告別式翌日木曜は前記事に書いたポール・ルイスのコンサート、勤労感謝の日の金曜は友人の計らいで友人宅に招かれガーデンランチ、土曜日は歌舞伎座、そして日曜はバイエルン放送響のチケットをとってありました。それぞれチケットを取ったのは大分前なのでこのような流れになるとはついぞ思いませんでしたが、不思議と葬儀などと予定が重なることがなかったというか、かなり緊密なスケジュールとなってしまっています。

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ミューザ川崎:バイエルン放送交響楽団

このコンサートはご承知の通り、当初マリス・ヤンソンスの指揮ということでチケットを取りましたが、ヤンソンスが健康上の理由により来日できなくなり、代役としてズービン・メータが来日するとのアナウンスがありました。このチケットを取ったのは、一昨年、ミューザで聴いたヤンソンスの軍隊とアルプス交響曲が素晴らしかったからに他なりません。

2016/11/27 : コンサートレポート : マリス・ヤンソンス/バイエルン放送響の「軍隊」(ミューザ川崎)

そのヤンソンスが再びバイエルン放送響を従え、春の祭典を振るということで、チケットを取った次第。指揮者がメータに変わりましたが、私の年代はメータを随分聴いていますので、ヤンソンス以上に懐かしさもあって、チケットはそのまま確保しました。プログラムは春の祭典は変わらずですが、前半はドヴォルザークの交響曲7番から下記のように変わりました。

シューベルト:劇音楽「ロザムンデ」序曲(D.797)
シューベルト:交響曲第3番(D.200)
(休憩)
ストラヴィンスキー:「春の祭典」

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ミューザ川崎は意外と便利で、この日は日曜ということで車で行きましたが、自宅から40分ほどで着きます。世の中もうすぐクリスマスということで、イルミネーションが施され華やいだ雰囲気になってますね。

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この日は18時開演で17時開場ということで、開場時間にはホールについて、のんびりサンドウィッチなどをつまんで開演を待ちました。

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席はミューザ会員のみ発売の3階の一番安い席。視界はちょっと遮られますが、この席でも音響は非常に鮮明というか、正面の席より響きがダイレクトでこちらの席の方がいいくらい。3階席の音響が劣悪なオペラシティとはかなり違います。

この日のお客さんの入りは8割くらいだったでしょうか。チケットもそれなりの値段なので満員とはいきませんでした。

さて、開演時刻となり、後半の春の祭典ように設えられたステージの前の方に前半のシューベルトの演奏のメンバーが着席します。チューニングが終わると、メータが登場し、嵐のような拍手に迎えられます。というのもメータは介助者を伴い、杖をつきながらゆっくりと指揮台に向かいます。今年イスラエルフィルとの来日をがん性腫瘍の治療のために断念したとの情報は入っていましたが、恰幅のいいメータが歩くのもおぼつかないとは思ってもみませんでした。指揮台の下手側にはスロープがつけられ、介助者とコンサートマスターに支えられてようやくスロープを登れる状態。ヤンソンスの代理とはいえ、この体調でよくぞ日本までやってきました。ステージ上には椅子が置かれ、メータが椅子に腰掛けると介助者が15cmくらいの高さの脚台を置き、メータがその上に脚を置き準備万端。介助者が下手袖に戻る前にメータのタクトが上がり、1曲目のロザムンデ序曲が始まります。脚元はおぼつきませんが、眼光とタクトは鋭く、オケのコントロールするのは問題なさそう。そしてバイエルン放送響の奏でる響きは重厚かつうっとりするような柔らかく美しい響き。メータの指揮はゆったりと音楽をつくっていくまさに巨匠風。晩年のベームがウィーンフィルを振っているようなオケの自主性を活かした演奏。とろけるような響きに加えて、クライマックスへの持っていき方も若き日のメータの聴かせ上手さが感じられる見事なもの。一昨年に聴いたヤンソンスの滑らかなコントロールが行き届いた演奏とは異なり、味わい深さと響きの重厚な美しさが印象的な演奏でした。老いてしまったメータの姿に少々心配しましたが、演奏は見事なもの。もちろん盛大な拍手がふりそそぎました。

拍手に応えてメータが奏者をねぎらうと、メータは座ったまま、すぐに2曲目の交響曲3番に入ります。3階席から見下ろすとメータは上半身はしっかりしているものの、脚はかなりやせ細っています。おそらく長期間ベットに伏していたために脚の筋肉が落ちてしまったのでしょう。ただし、鋭い眼光とタクトが繰り出す音楽は弾んでいました。ここでも均整のとれた重厚な響きで観客を魅了。ゆったりとしたテンポは変わりませんが、やはりバイエルン放送響の木管陣は見事。クラリネットがくっきりと浮かび上がり、フルートやオーボエの美しさも流石なところ。まさに横綱相撲。円熟味と圧倒的な風格で聴かせます。1楽章の重厚な構成感、2楽章のコミカルなメロディーを優雅に聴かせる表現力、ホールを柔らかく包むように鳴り響く3楽章のメヌエット、調性の綾の美しさを織り込みながらリズミカルに盛り上がる終楽章。タクトの先で的確にオケに指示を出し、やはりメータの音楽をしっかりとつくりあげていました。ミューザの美しい残響に浮かび上がるあまりに美しい響きにうっとり。シューベルトも得意な方ではありませんが、存分に楽しめました。もちろん、前半終了時にも関わらずホールの興奮は最高潮。木管を中心に奏者をねぎらうと、介助人が杖を持って迎えに入り、拍手に包まれながらメータがステージを降りて前半終了。

休憩後再び介助者に付き添われてステージ上にメータが現れると、暖かい拍手がメータを包みます。前半同様指揮台の上のイスに腰掛けると、今度は介助者の退場を見送る余裕がありました。後半の春の祭典は本当に素晴らしかった! 前半のシューベルトは激しい曲ではないので座ったメータのタクトで十分コントロールできる範囲ですが、春の祭典は厳しいのではなかろうかという予想を完全に裏切る緻密なコントロール。春の祭典といえば今年の6月にロト/レ・シエクルの爆演を聴いたばかりですが、それにも劣らぬ感動的な演奏でした。テンポは比較的遅めで雄大な春の祭典。しかも全盛期のメータを彷彿とさせる重量級のど迫力。オケは世界最高峰の一つであるバイエルン放送響ということで、メータの眼力で一糸乱れぬ演奏を繰り広げました。春の祭典でも木管陣は完璧。そして肝心のパーカッションもリズムキレキレ。またしても風格ある横綱相撲を見せつけられた感じ。体の動きに制限のあるメータでしたが、各パートへの的確な指示を繰り返してこの難曲を見事にまとめあげました。スリリングさの極致に到達したロトに対し、この現代音楽の古典を太い軸でまとめたメータの至芸をたっぷりと味わいました。脚元のおぼつかないメータの熱演に会場からは文字通り嵐のような拍手とブラヴォーが降り注ぎました。メータもこの日の出来に納得したのか次々と奏者をたたえ拍手に応えます。ステージ袖と指揮台を往復する体力は残されていませんが、自力で立ち上がって観客の拍手に会釈する姿は感動的でした。こうしたコンサートで、ましてやこのメータの体調でアンコールはないと思いきや、拍手を制したメータが観客席に向かって「チャイコフスキー!」と告げるとすぐにくるりと振り返って白鳥の湖のワルツが始まりました。春の祭典の緊張感から一変して優雅なワルツ。しかも聴かせ上手なメータのゴージャスなワルツが流れ、場内が一気にリラックス。アンコールにしては長い10分近い演奏に皆夢見心地。コンサートに足を運んだお客さんにこれ以上のもてなしはないでしょう。もちろん、割れんばかりの拍手喝采が続き、皆立ち上がってスタンディングオヴェーション。もちろんメータが介助者に付き添われて舞台袖に下がった後も拍手は鳴り止まず、今度は車椅子に乗って再び登場すると拍手は一層激しくなり場内は歓喜に包まれました。

いやいや、感動的なコンサートでした。この体調では再度の来日ができるかわかりませんので、代役という奇遇とはいえメータのコンサートを聴くことができたことは忘れられない出来事として記憶に残ることでしょう。メータは母と同じく1936年生まれの82歳。入院して脚が細くなってしまうのも重なって深く心に刻まれました。

メータさんもし来日する機会があれば必ず聴きにきます!



コンサートの興奮が残る中、ミューザのコンサート時に定番にしている1階の牛タン屋さんで牛タン定食をいただいて帰りました。

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本日は車なので、私はノンアルコール(涙)

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ここの牛タンは旨味が濃くて美味しいです。本場仙台よりも旨いくらい。オススメです。



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Author:Daisy

なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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(2019年3月31日)
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