作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のアルバム収集とレビュー。音楽、旅、温泉、お酒など気ままに綴ります。

ジョナサン・ノット/東響の「フィガロの結婚」(ミューザ川崎)

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先週金曜日は楽しみにしていたコンサートを聴いてきました。

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東京交響楽団:コンサート情報(2018/19 Season)歌劇「フィガロの結婚」(演奏会形式)

一昨年より3年連続で東響の12月のプログラムにモーツァルトのダ・ポンテ三部作を取り上げたコンサート。その完結編となる「フィガロの結婚」。一昨年の「コジ・ファン・トゥッテ」があまりに素晴らしかったので、昨年に続き今回ももちろんチケットを取った次第。前二回の記事はリンク先をご覧ください。

2017/12/10 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「ドン・ジョヴァンニ」(ミューザ川崎)
2016/12/12 : コンサートレポート : ジョナサン・ノット/東響の「コジ・ファン・トゥッテ」(東京芸術劇場)

今回のキャストは以下のとおり。演出監修はバルトロ役のアラステア・ミルズが担当。

指揮/ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット(Jonathan Nott)
バルトロ/アントニオ:アラステア・ミルズ(Alstair Mils)
フィガロ:マルクス・ヴェルバ(Markus Werba)
スザンナ:リディア・トイシャー(Lydia Teuscher)
アルマヴィーヴァ伯爵:アシュリー・リッチズ(Ashley Riches)
アルマヴィーヴァ伯爵夫人:ミア・パーション(Miah Persson)
ケルビーノ:ジュルジータ・アダモナイト(Jurgita Adamonyte)
マルチェリーナ:ジェニファー・ラーモア(Jennifer Larmore)
バルバリーナ:ローラ・インコ(Laura Incho)
バジリオ/ドン・クルツィオ:アンジェロ・ポラック(Angelo Pollak)
合唱:新国立劇場合唱団(New National Theater Chorus)
合唱指揮:河原哲也(Tetsuya Kawahara)

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CDでも3枚組が当たり前の長さゆえ、この日は平日金曜にもかかわらす開演時間は18:30。やはり平日18:30に川崎に来れるお客さん層は限られるということで、素晴らしい公演になることは予想できたにもかかわらず、客席の埋まり具合は8割ほどでした。これはもったいないですね。いつも通り開場時刻過ぎにホールに入って、先に入場していた嫁さんと合流。サンドウィッチで腹ごしらえして、ホールに入ります。

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この日の席はステージ右側の2階席。先日のメータ/バイエルン放送響の公演の3階席でも音はまったく問題なかったので心配なしです。コンサート形式での上演ということで、ステージ上にはなぜかオフィスチェアとコートハンガーが並んでいます。

程なく開演時刻となり、オケが準備を整えノットが登壇。いつも通り小走りでハンマーフリューゲルの前に立ち、振り返って観客の拍手に笑顔で応えると、すぐに聴き慣れた序曲に入ります。ノットはモーツァルトが好きなのでしょう、序曲から実に楽しげに指揮棒なしで大きく体を使いながらオケに指示を出し、オケは湧き上がるような推進力で小気味よく吹き上がります。我々の世代のフィガロの刷り込みはもちろんベームのベルリンドイツオペラ盤。キリッと引き締まりながらどこかに微笑ましさと慈しみあふれるベーム盤とは異なり、自由自在に伸び伸びとしたノットのコントロールの魅力が序曲から満ち溢れます。

序曲が終わり、フィガロとスザンナが登場。フィガロのマルクス・ウェルバは一昨年のコジのグリエルモ役でおなじみ、スタイリッシュなイケメン。スザンナのリディア・トイシャーは手元のチェチーリアミサのインマゼール盤でソプラノを務めていましたが、こちらも美人ソプラノで若々しい美声。フィガロとスザンナははまり役。シーツを広げて部屋に見立てて寸法を測り始めるという最小限の小道具で情景を想像させるという手法は、このシリーズに共通した演出です。そしてハンマーフリューゲルはノット自身が演奏するのも共通。かなりゆったりと練って入るしっとりとしたつなぎも舞台の転換をしっかりと印象付けるもの。複雑なオペラを指揮しながらさらりとハンマーフリューゲルの演奏もこなすところは流石の処理能力。東響もノットのコントロールに見事に応える完璧な演奏。ベームのタイトさで聴かせる演奏とは異なり、しなやかな充実感で聴かせます。そして緊張感、充実感は素晴らしいものがありました。

フィガロとスザンナのデュエットから、この劇のキーパーソンとなるアラステア・ミルズのバルトロ登場。短い歌で性格俳優的な味わいを出すあたりは流石。続いてマルチェリーナ役のジェニファー・ラーモア、ケルビーノ役のジュルジータ・アダモナイトと登場。ラーモアはベテランらしく演技に味わい深い華やかさがあり、歌い終わった後の観客への礼一つとっても実に見事な振る舞い。ケルビーノはボーイッシュな感じを狙うには美人すぎる感じ(笑)。どちらも役に徹した歌唱で見事。

アルマヴィーヴァ伯爵のアシュリー・リッチズは長身のバリトン。伯爵にはちょっと若い感じですが、迫力よりはスタイリッシュに聴かせる歌唱は悪くありません。後半にかけて嫉妬に狂ったりダメダメな伯爵役の演技はなかなかよかったです。そしてバジーリオのアンジェロ・ポラックもスーツでビシッと決めた衣装で古風な演出での役柄とは印象は異なり、こちらもスタイリッシュ。そして伯爵の祝福に集まった村人の新国立劇場合唱団のメンバーはなぜかコミカルな体型の人を集めた感じで、演技もコミカル路線(笑)。第1幕の終結、フィガロの「もう飛ぶまいぞ」からケルビーノの出兵に向けたマーチの盛り上がりへの演出はノットの真骨頂。オケをグイグイ盛り上げてオペラの醍醐味を存分に感じさせました。



観客の万雷の拍手もそこそこに、すぐに第二幕に入りますが、第1幕は前座でした。第2幕で登場した伯爵夫人のミア・パーション、これが凄かった。登場するなり最初のカヴァティーナで異次元の歌を聴かせます。これまで聴いたどのソプラノのよりも素晴らしい歌唱に腰を抜かさんばかり。一流のソプラノの底力と迫力に圧倒されました。声の輝かしさ、圧倒的な声量、鳥肌ものの弱音のコントロール、そしてその存在感。ホール中の空気を凍りつかせる素晴らしい歌に酔いしれました。やはり生の声はいいですね。

続くケルビーノの有名なアリアは、トロヤノスの美声のイメージとは異なり、現代風にサラサラ流れるような可憐な歌唱。第2幕の伯爵夫人の部屋の化粧室にケルビーノが隠れていることを取り巻くやりとりも、舞台装置なしに小道具だけでの進行にもかかわらず、わかりやすい演出でかなり楽しめました。そして第2幕のフィナーレの三重唱から五重唱そして七重唱へ発展してクライマックスを迎える盛り上がりも圧巻。ノットが縦横無尽に動き回ってオケを煽り、前半の2幕が終わります。いやいや盛り上がりました。



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100分間の前半もあっという間。25分の休憩で、皆さんロビーに出てオペラの賑わいを肴に一献。こちらもワインで素晴らしい舞台の余韻を楽しみました。

休憩後は第3幕から。この時点でレロレロ(笑)。後半も素晴らしかったのですが、美しいアリアの続く第3幕の中でも、やはりミア・パーションの「楽しい思い出はどこへ」が圧巻。再び美しいソプラノに打ちのめされました。ホール全体が静寂に包まれ、パーションの歌に酔いしれました。アリアの後の嵐のような拍手がその素晴らしさを物語るようでした。

そして庭園でのスザンナと伯爵夫人が入れ替わって伯爵に一泡吹かせる第4幕。幕切れの全てを許す和音が響くと、このたわいもない戯れを描いた筋書きが、モーツァルトの素晴らしい音楽によって、人の心を癒す一夜のオペラとしてかけがえのない価値を持つものなったことがわかるわけです。もちろん最後の合唱が終わりを迎えると、客席からはブラヴォーの嵐。最初にコーラスメンバーが舞台に上がり、ついで歌手が上がり、もちろん何度も呼び戻されます。ノットも演奏に満足したのか歌手とオケを終始讃えていました。18:30に始まったコンサートは、すでに22:00近い時間。この間、全く緩むことなく演奏し続け、素晴らしい舞台を支えた東響。この日の演奏は本当にレベルが高かった。フィガロを実演で聴くのは初めてでしたが、全くもって堪能いたしました!



3年に渡って演奏されたダ・ポンテ三部作で、来年は魔笛か、、とも想像しましたが、直近に発表された来シーズンの12月の予定にはその予定はありませんでした。たまたま一昨年にコジ・ファン・トゥッテのチケットを取ったことから3年に渡ってノットのモーツァルトを聴きましたが、これは貴重な体験となりましたね。ノットが楽しそうにオケを煽る姿。そしてミア・パーションの魂を撼わすアリア、忘れません。



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