若杉弘/ケルン放送響の88番ライヴ(ハイドン)
若杉弘指揮のケルン放送交響楽団(Kölner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)の演奏で、ゲルハルト・ヴィンベルガー(Gerhard Wimberger)の大オーケストラのためのプログラム、ハイドンの交響曲88番、モーツァルトのピアノ協奏曲27番の3曲を収めた2枚組のLP。収録は1978年5月10日、ドイツのボンにあるベートーヴェンホールでのライヴ。レーベルはDeutsche Welle。
Deutsche Welle(ドイチェ・ヴェレ)とはドイツの国際放送事業体とのこと。このアルバムはそのドイチェ・ヴェレの創立25周年を記念して行われたコンサートのもようをライヴ収録したもの。ドイチェ・ヴェレについてはWikipediaに記事がありますのでそちらをごらんください。
Wikipedia : ドイチェ・ヴェレ
ドイツの国際放送事業体の25周年を記念して行われたコンサートのプログラムの冒頭に置かれたゲルハルト・ヴィンベルガーの曲は、打楽器や尺八が登場するまさに現代音楽の代表のような曲。ゲルハルト・ヴィンベルガーは1923年ウィーン生まれの作曲家。調べてみるとこの「大オーケストラのためのプログラム」という曲は1977年から78年とこのコンサートの直前に書かれた曲。ライナーノーツによれば、現代音楽はドイツの文化に少なからず影響を与えていたが、それには放送が大きな役割を果たしたとのことで、この曲もそれまでに放送された曲の一つということで取り上げられたとのこと。指揮の若杉弘は1977年にケルン放送交響楽団の首席指揮者に就任しているので、就任直後の演奏ということになります。
現代音楽に詳しいわけではありませんが、1曲目のヴィンベルガーの曲は若杉弘の面目躍如。若杉弘らしいバランス良いオーケストラコントロールで喧騒と静寂が入り混じる難曲を手堅くまとめています。
もちろん、お目当ては2曲目のハイドンです。
Hob.I:88 Symphony No.88 "Letter V" 「V字」 [G] (1787?)
ぐっと重心の低い響きの序奏から入ります。LPのコンディションは最高。響きがぐっと前に迫り出してきます。曲の進行は若杉弘らしく、淡々と過度な演出もなく原曲どおりに描いていくスタイルですが、この88番ではそれが功を奏して、徐々に曲の迫力にのまれていきます。キレ味もほどほどで全体の流れ重視の演奏。主題以降は一貫したテンポで進めることで曲の面白い表情が浮かび上がる感じを与えます。オケは程よく揃ってLPだからこそのエネルギー感。まとまりの良さは相変わらず。
そして2楽章のラルゴでも、一貫したテンポでこの曲の面白さの核心を突くように進めます。ピチカートでリズムを刻みながらユーモラスなメロディーをじっくり描いていく感じ。慟哭のような全奏も程よいバランス感覚で適度なメリハリ。この適度さを保つのがハイドンの演奏の難しい所。曲が進むにつれて起伏も大きくなりますが、やはり適度に落ち着きをしっかりと保ちます。木管楽器をすこし控えめに鳴らすのも良いセンス。
そしてこの曲の聴かせどころのメヌエットでは、すこし起伏が大きくなりオーソドックスな響きのオケにも力が滲みます。このメヌエットの演奏こそ若杉弘の面目躍如。中間部のしなやかな響きがこれまでの力感を引き立てます。
そしてコミカルなメロディーのフィナーレ。これまでの安定した完成度の高い演奏の総決算。これがライヴとは信じがたい素晴らしい完成度。微動だにしないリズム、完璧に揃ったオケ、そして指揮者の秩序に完全に従った音楽。セッション録音でもこうはいかないほどの完成度。終盤の展開をオケが完璧にこなして、再びコミカルな表情に戻ります。最後の集中力も見事。拍手は収録されていません。あまりの完成度にライヴを疑うほど。
このあとLPの2枚目の表裏にゆったりとカッティングされたモーツァルトのピアノ協奏曲27番も見事。ピアノはルドルフ・ブッフビンダー。ハイドンのソナタの録音とは異なり、鮮度の高いタッチでモーツァルト晩年の澄み切ったピアノのメロディーを転がすように音にしていき、伴奏の若杉弘もハイドン同様盤石。録音も素晴らしく聴き応え満点の演奏です。
若杉弘の振るケルン放送交響楽団の1978年のライヴでハイドンの交響曲88番などの演奏。ハイドンの88番にはセルやライナーの飛ぶ鳥を落とすが如き勢いの剛腕の演奏や、クナの諧謔性満点の演奏、古楽器ではブリュッヘンの力感漲る演奏など古くから名演に恵まれていますが、この若杉弘の演奏はオーソドックスながら、この曲の面白さをしっかりと踏まえたベーシックな演奏としておすす目できるものです。ただしこのLP自体がレア盤ということで、なかなか入手が難しいでしょう。地味なアルバムですが、演奏会の記念性といい、演奏の出来といいCD化すべき演奏だと思います。ハイドンの評価は[+++++]とします。
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